「2020、2021はアントワンヌ・デュポンの年だった。
新しいスーパースターの誕生だ」とフィガロ紙に話したのは、イングランド代表キャップ112のSHベン・ヤングスだ。
確かに、この2年のデュポンの勢いは凄まじかった。
2020年にシックスネーションズ最優秀選手、2021年は欧州チャンピオンズカップ最優秀選手、フランス国内でもLNR(トップ14の運営団体)主催、ミディ・オランピック紙(現地ラグビー新聞)主催の両方で、トップ14最優秀選手と最優秀代表選手を独り占めし、ついにワールドラグビーの最優秀選手に選ばれ世界の頂点に立った。
まだ25歳になったばかりだ。
しかし本人は、「とても嬉しいけど、団体競技なのに1人だけ賞をもらうのは心苦しい。トゥールーズにしてもフランス代表にしても、とてもうまく機能しているチームでプレーできて僕は恵まれている。この賞の受賞者の名前を見ると、僕が子どもの頃にポスターを部屋に貼っていた選手ばかりで、そこに自分の名前が並んでいるのを見るのは、なんだか不思議な感じ」と謙虚で素直な反応だ。
シンプル、自然体、謙虚という言葉が彼の人柄を表現するのに使われる。
「子どもの頃はハイパーアクティブで手が付けられなかった」という。
「ラグビースクールは4歳からだったが、2歳上の兄がラグビースクールに行くと、僕もいくと言って聞かず、4歳になっていなかったけど時々練習に参加させてもらった。ボールを持って走るだけで満足だった」
幼いデュポンがボールを持って走っている姿が目に浮かぶ。
デュポンが高校生時代に在籍していたユースチームの当時のディレクターは、こう話す。
「アントワンヌ(デュポン)のラグビーのベースは『インゴール・ラグビー』だ。大人が試合をしている間、子どもがインゴールで遊びでするラグビーのことで、自由にシナリオを作り、仮想ワールドカップを何万回も戦い、何度も決勝ゴールを決めて優勝している。この何にも縛られない自由な発想のラグビーが、今もアントワンヌから感じられる。そこであらゆる状況を経験しているから、今もどんな状況でも打開策を見つけることができる」
腑に落ちた。
デュポンのラグビーがファンの心を惹きつけるのは、彼のスキルや判断力、パワー、スピードはもちろんだが、それ以上に、彼のプレーに子どものように自由にラグビーを楽しむ喜びが感じられるからだ。
ベン・ヤングスも「デュポンのプレーを見て、ラグビーをしている多くの子どもが彼のようなプレーをしたいと思うだろう」と言っているのは、そういうところだろうか。
そして時代の流れもデュポンに味方した。
18歳の時にカストルでプロデビューした。「もちろん努力もしたけど、こんなに早くデビューできたのは、LNRが外国人選手の数を制限する方針をとり、クラブがフランス人の若手を積極的に使うようになったから。5年早ければそうはいかなかった」と、時代の恩恵を受けていることを理解している。
さらに、「代表チームも2年前にスタッフが代わり、トレーニングや分析、あらゆるところで自分たちのラグビーに自信が持てるように考えられている。試合でも、いつ、何をするべきかわかっているし、それが上手くいくのもわかっている」と言うように、スタッフにも恵まれているのだ。
「来年はどんな年になってほしい?」という記者からの質問に、「今年と同じぐらい良い年にしたい。トゥールーズで優勝したら、タイトルを維持したいというモチベーションが生まれた。代表では2年続けてシックスネーションズ2位で終わっているから来年こそは。しかもその先にはワールドカップもある」とまだまだ高みを目指す。
先日、トゥールーズとの契約が2027年まで延長されたことが発表された。
その条件には、2024年パリ・オリンピックへの参加を許可することが含まれていると、ミディ・オランピック紙は伝える。
デュポンの夢は尽きない。