50メートル走のタイムは「5.9秒」。専門誌のアンケートへの回答が間違いなさそうなことを、青空と寒風と芝のもとで証明した。
坂本琥珀。第101回全国高校ラグビー大会の1回戦に、仙台育英の「11」をつけて出る。
「幼稚園の頃から走るのが好きで、小学校に上がったくらいから、やはり(周りよりも)速いのかな…という実感がありました」
12月27日、東大阪市花園ラグビー場の第3グラウンド。序盤こそ桐生第一の堅守に手こずり一時0-3とされるも、前半13分、ハーフ線付近左でわずかな隙間を突く。そのまま勝ち越しトライを決める。直後のコンバージョン成功で7-3。2年生の走り屋は安堵した。
「最初は花園ということで緊張していて、相手の飛び出しディフェンスもすごくて、向かい風のなかでもあって…。試合が拮抗していたなか、最初のトライでチームに流れを持ってこられたのは大きかったです」
続く25分には、高校日本代表候補でFLの最上太尊がインターセプトから加点。さらにハーフタイム直前には、坂本が最上のトライをお膳立てする。
敵陣中盤左でCTBのトマス・ダリエスのグラバーキックを捕球。ゴール前でラックを作るや、防御の乱れを最上が突いたのだ。
後半もダリエス、最上が持ち前の突破力を活かして前進する。坂本は急加速でアクセントをつける。62-3で初戦を突破した。
「嬉しいです。監督にも認められて…。チームを勢いづけられて、ほっとしています」
そう。26大会連続28回目の出場となる古豪では、昨季までコーチだったニールソン武蓮傳が監督に昇格したばかりだ。坂本は、その変化を喜ぶひとりなのだ。
「監督とは接しやすく、いろんなコミュニケーションが取れる。いい練習メニューをさせてもらえもするので、楽しいです」
子どもの頃は格闘技に親しむ。特に実績を残したのは、宮城県発祥の空道である。打撃に加え、締め技、投げ技もある総合武道だ。坂本は小学3年、5年時、空道の全日本ジュニア選手権の9歳以下、11歳以下の部で全国制覇。しかし地元の高崎中に進む際、同時並行で通っていた仙台ラグビースクールでの活動に専念すると決めた。
なぜか。仲間とてっぺんに立ちたくなったからだ。
「空手(空道)では2度も全国優勝をして切れ目がついたというのがあって。あとは年を重ねるにつれて、チームスポーツに…と。僕は走るのも好きですし、空手のようなフィジカル的な部分が含まれているラグビーが楽しいな…って」
仙台育英には県外、国外の仲間が揃い、持ち味もさまざまだ。坂本は理想を叶えられるか。30日、第3グラウンドで報徳学園と2回戦をおこなう。