日本一の味を知っている。
なかなか勝てないチームの苦しみも、やり甲斐も。
だからブルースで3年目を迎えた髙野恭二はバランスがいい。
主にバックスリーでプレーする。東福岡高校時代は花園で頂点に立った。
決勝で御所実を57-5と圧倒したチームのFBとして活躍した。「正直、あの頃は滅多に負けませんでした」と回想する。
しかし、大学に進学してからは状況が大きく変わった。
青山学院大に進学し、1シーズンに高校3年分の負けを味わった年もあった。
関東大学対抗戦での4年間は、(8校中)6位が3回で7位が1回という成績に終わった。
自分の高校時代がどれだけ恵まれたものだったか、あらためて知った。
勝負の厳しさも味わった。
「なんでこんなに負けるのだろう。自分は(才能ある)仲間に恵まれとっただけ? そんなふうに考え、最初は負けを受け入れるのが難しかったのですが、もともとラグビーが大好きです。クサることはありませんでした」
4年生になり、キャプテンを任される。人間的な成長が加速する。
「大学でも仲間に恵まれたな、と思うようになりました。最初は、自己中心的な考えがあったと思います。でも、自分が、自分が、ではうまくいかず、それまでの考えがぶち壊された。当たり前ですが、周囲の意見をひとつにまとめることの大切さを学びました」
その頃から人間観察をするようになった。人の表情から胸の内を読む。
一人ひとりの考えを理解することこそ、チームの意思を統一するための第一歩だ。コミュニケーションを密に取るようになった。
それがいまも生きている。
入団3年目で若手とは言っていられない。チームの中核に立つ準備を進める。
チームには新しいメンバーも増え、陣容がガラッと変わった。コミュニケーションや連係がより重要となるチームの中で、重要な役を期待される。
本人は「昨季までのチームと、環境も雰囲気も大きく変わっています。その中で、自分なりに少しずつ成長にしていると思う」と話す。
プレー面での成長が、自覚の高まりを促す。
1年目は周囲のコンタクトプレーの強さに慣れる時間だった。もともと接点には自信があった。2年目を経て対応力が高まる。余裕を持ってプレーできるようになったことが大きい。
ルーキーイヤーは2試合に出場。昨季は4試合でピッチ立った。着実に出番は増やしたけれど、持てる力からすれば物足りない。
本人も「2年ともケガでシーズンを終えたのが悔しい」と唇を噛む。特に2年目は調子が良かったのに不運に泣いた。
3年目の今季は飛躍の年だ。
これまでは、引っ張ってくれていた先輩たちについていっていた。
「そうではなく、引っ張る側にまわりたい。ついていくだけでは物足りない」と覚悟を口にする。
「チームはいろんな理由でリーグワンの3部からのスタートとなりましたが、全勝して2部に昇格することを、絶対に果たすべき目標としています。自分としては、その中でポジションに定着し、試合に出続けてチームに貢献したい」
福岡の地には、ラグビースクール(鞘ヶ谷RS)、高校時代と、自分を育ててくれた恩師、仲間がいる。その地でプロとしてラグビーに没頭できる生活を気に入っている。
「お世話になった方や、応援してくれる人たちに活躍で恩返しができることも、九州に戻ってきた理由のひとつです」
昨シーズン、日本代表として活躍するレメキ ロマノ ラヴァがチームに在籍し、オンとオフを完全に切り替えるプロ意識を目の当たりにした。
「オフの時は徹底的にリラックスし、ラグビーの時は誰よりも必死で取り組む。僕にも楽しく、厳しく接してくれた。自分もそうでありたい。そうしていきたい」と呟く。
モットーは、「練習から毎回120パーセント」。それは、プロフェッショナルとしての矜持であり、これまでも貫いてきたことだ。
日本一になるためには、高校ラグビーでも、国内最高峰リーグでも、他を圧倒する日々を送らないといけない。
髙野恭二は、それを知っている。