チャレンジャーは食らいついた。
12月19日、トップイーストリーグAグループ4位の横河武蔵野アトラスターズがホームグラウンド(東京・武蔵野市)でBグループ2位の富士フイルムビジネスイノベーションと対戦し、32−25で競り勝った。
横河武蔵野のWTB古田泰丈は、「苦しい試合でした。なんとか勝ち切ったという感じです。今日はキックが多かったので、キックを蹴っている中で、しっかり走ってディフェンスをコントロールすることはできたかなと思います。ボールのキャリー回数も多くて、思い切りプレーできました」と晴れやかに語る。
一方、Bグループで5勝2敗1分と好成績を残すもAグループ昇格を逃した富士フイルムの砂田晃徳GMは「一昨年は全敗だったので、ここまで横河さんに詰め寄れたのは良かった。しかし勝たないと意味がない。なかなか壁は厚いです」と話し、最後まで献身的なタックルで刺さり続けたFL股野航の敢闘を称えた。
チームで共同キャプテンを務める股野は、「結果7点差で負けてしまいましたが、これまで練習でやってきたことは間違ってなかったということを証明できました。自分たちの甘さを見つめ直せれば、しっかり戦って勝てる自信もある。1年間トレーニングを積んで、次こそ絶対に勝ちます」と、この80分でチームをまた少し前進させた。
試合は開始早々、横河武蔵野SO衣川翔大がPGを成功させ先制した。
前半9分、富士フイルムCTB鈴木康太のプレッシャーに横河武蔵野がパスを乱す。ボールを手にしたFL股野航がグラバーキックから仕掛け、WTB萬田開人がフィニッシュして、3-5とした。
15分と19分、双方がペナルティゴールで3点ずつ加算し、6-8とする。
23分、富士フイルムはラインアウトモールをそのまま押し込み、WTB関口諒がインゴールにボールを置いた。SO加藤佑人のゴールキックも成功し6-15とした。
30分、再び激しいドライビングモールで相手ディフェンスを翻弄し釘付けにすると、SO加藤佑人が裏のスペースを射抜いてゴールを割った。6-20と大きくリードする。
41分、横河武蔵野が反撃を開始した。
相手陣内深くのスクラムからWTB古田泰丈のサイド攻撃を起点に、接点でタフに働くFL金澤省太郎、HO清水新也、PR高田和輝、CTB光吉謙太郎、FB青木大、FL柴大河らがフェーズを重ねる。
ぐりぐりと食い込むようにパワープレーで相手ゴールへ迫るとSO衣川翔大が突破し、CTB小沢翔平へ繋ぎ、SH那須光のグラウンディングで反撃の狼煙を上げた。衣川のゴールも成功し、13-20で折り返した。
後半に入ると横河武蔵野が接点で富士フイルムを圧倒。ブースターの投入も、チームを勢いづけた。
20分、セットプレーからの流れでHO崩光瑠が起点となってBK展開し、SO渡邉夏燦、CTB光吉謙太郎、CTB小沢翔平へと繋ぎ、FB青木大が駆け上がって抜け、そのままゴールへ走り切った。渡邉のキックも決まり20-20とした。
32分、ラインアウトモールでPR髙橋耕太にサポートされたHO崩光瑠がボールをキープ。相手ディフェンスの動きを見計らってLO正井伸幸が崩を後押ししてインゴールに飛び込んだ。渡邉のゴールも決まり27-20と逆転した。
前半にモールでトライを奪われた横河武蔵野は、「ちゃんとやり返そう」と話していた。「組めば獲れる」という自信もあった。しかし富士フイルムも黙ってはいない。
41分、相手陣内深くのラインアウトでLO大黒駿がボールをキャッチ。モールで押し込みHO矢吹悠斗が押さえて27-25と詰めた。
2点差でインジャリータイムに突入した。
45分、横河武蔵野が決戦のモールを組んだ。
相手陣内5メートルライン上のラインアウトから、栗林宜正と松野泰樹の両LOが軸となりモールを形成。攻防は激しさを増し、引き倒された栗林に代わってCTB小沢翔平(怪我人が続出したため途中からFLとして出場)が支えに入る。
HO崩光瑠がボールをキープしている。巧みに前進するモールの様子から、勝利への意欲を感じ取ることができる。WTB古田泰丈も加勢し、SH春野日向は崩に付き従い、崩が締めた。
背番号4をつけてジャンパーを務めた松野泰樹は、「チームとして『ラインアウトモールを組んだらトライが獲れる』という認識がありました。最初にボールをキャッチする役目の僕がコケたらモールが組めないので、『そこだけは』と思って、ちゃんと立ってモールを形成しようと意識していました。それが実行できたのが一番良かったかなと思います」と入替戦勝利を振り返った。
同志社大学を卒業し2020年度にチームに加入するも、パンデミックの影響を受けたため、松野にとって今季は事実上のデビュー年にあたる。「チームには、このリーグにいるはずのないハイレベルな凄いHOが3人もいて、球筋もみんな上手くて、僕は来たところを取るという感じです」と話す。
来季に向け、「今季リーグ戦に全部先発で出られたのに、入替戦でギリギリなのは残念なので、来シーズンは全部出て優勝できるように頑張りたいと思います」と爽やかに締めくくった。
この日、今季リーグ戦に初先発したWTB佐藤拓磨は、「FWが身体を張ってくれた分、勝ちに繋がりました。素直に嬉しいです」と、ほっとした表情で話す。
しかし、「個人的には、課題しかなかった。僕の一個のキックプレーとか一個のトライでチームを救いたいという思いがあったのに、自分の強みが全然見せられず、達成できなかった。ホッとしている反面、悔しさのほうが大きい」と振り返り、来季の目標は「みんなが安心してボールを預けられるWTBになること」と語った。
出身高校は、10年振りの花園出場で話題を呼んでいる磐城高校。「実は僕が高3のときに負けて以来、花園に出てないんです。負けて凄く悔しかったけど、1・2年で花園を経験したのが今大きな財産になっている」と話し、後輩たちに向けて「気持ちの部分で、緊張とか不安とかいろいろあると思うんですけど、一瞬一瞬を大事にして、ラグビーを続けるか続けないかに関わらず、人生の糧にして欲しい」とエールを送った。
※試合の動画は、横河武蔵野アトラスターズの公式YouTubeチャンネルでご確認ください。