「個人の目標としてPOM(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)を狙ってました。今季初のA戦でPOM取れたらかっこいいなと(笑)。絶対活躍したろって」
屈託のない笑顔でそう話す。
近畿大4年生のLO山本秀が戻ってきた。11月28日、関西リーグ最終節の関西大戦で今季初の先発出場を果たした。
190㌢、100㌔。CTB福山竜斗主将が「本当に明るいプレーヤー。チームを一段と引き締まった雰囲気にしてくれる」と信頼を寄せる男だ。高校、U20日本代表、ジュニア・ジャパンと各カテゴリーの世代別代表も経験している。
昨季の第2節(天理大戦)以来の公式戦出場に、「1年生の時から一緒に出ている4年生が多かったし、観客がいる中で久しぶりにラグビーができてとても楽しめた」と話す。
山本は世代別代表や元BKの経験を活かし、アタック時はエッジに残る。そこで得意のオフロードや力強いボールキャリーでミスマッチを突き、9トライを奪う大勝に貢献した。
近大は初優勝こそできなかったが、6勝1敗の2位でリーグを終えたのは2000年度以来の好成績で、9季ぶりの大学選手権出場も決まっている(12月18日vs慶大@秩父宮)。
だがチームの躍進の裏で、山本は苦しんでいた。
新チームが始まった4月上旬、体調を崩した。
「湯船に浸かってたら、いきなり左足が痺れて。次の日も練習したけど、気分が悪かった」
違和感はありながらも、練習に行っては頭痛や吐き気で早退する日々が続いた。そして5月末に通院先の病院で倒れ、緊急入院した。
脳脊髄液減少症だった。交通事故やスポーツなど、外からの強い衝撃によって起こりやすく、山本もおそらくタックルされた際に強く背中を打ったことが原因だった。
3度の手術を受け、6月に退院。本格的に復帰したのは、秋シーズンに入る9月ごろからだ。「いまはラグビーに影響はありませんが、大変な3か月でした」。
開幕戦の天理大戦、続く同志社大戦と、劇的勝利のグラウンドに立つことは叶わなかったが、「出ているメンバーを信じていた」。
山本は10月2日のC戦で試合に復帰し、ジュニア戦でプレーを重ねるなど、多くの時間を下のカテゴリーで過ごす。
「そこにいる4年生の思いや頑張ってる後輩たちの応援も感じていた。(関大戦で)一生懸命やっている姿をプレーで見せるのが一番と思っていた」
高校は京都成章に学び、3年生の夏まではBKだった。2年で出場した選抜大会ではプレースキッカーを任された試合もある。
「LOになれば強くなるよと前から言われていたけど、BKからFWにいくのは勇気がいる。正直すごく嫌でした(笑)」
転機は夏合宿の練習試合だった。後半途中、代わりの選手がいなかったLOにケガ人が出て、ベンチに下がっていた山本が立候補した。
「全く分からなかったので、とりあえずブレイクダウンに突っ込んで体を当て続けたら、すごく評価されました。ラインアウトも安定するし、本格的にやろうとなりました」
それからは毎日、居残り練習。すでに嫌な気持ちは消えていた。「体を当てることは好きで、ここ(LO)だったら当てられるなと。だったら極めようと」。
京都成章が初のAシードで迎えた3年時の花園は、準々決勝で桐蔭学園に敗れた。「絶対勝てると思って挑んだけど、FW戦で負けてしまった」。現・帝京大のキャプテン、PR細木康太郎が3トライを挙げる活躍だった。
その試合、ラインアウトを分析され、思うように強みのモールを組めなかったのも敗因のひとつだった。LO経験が半年にも満たなかった山本にとっては、反省と学びの時間だった。
「ただ身長が高いだけではダメだと」
それからラインアウトを猛勉強。近大ではチームのサインマスター(コーラー)を務めるまでになった。
「結構面白いんですよ(笑)。最初はこれにして、次こうしたら相手はどう考えるやろ、とか駆け引きが楽しい。チームからそこを求められていると思うし、信頼を勝ち取るためにもラインアウトはもっと精度高くやりたい」
山本は近大での4年間、決して順風満帆とはいかなかった。1年時には開幕戦で先発に抜擢されるも、3節以降、控えやメンバー外になることが増える。
「アグレッシブなプレーが強みなのに、次第にミスしないように、ミスしないようにとプレーしてしまった」
自分の持ち味を思い起こさせてくれたのが、U20日本代表やジュニア・ジャパンだった。「置いてかれる、何かしないとダメだと思った」。それで吹っ切れた。
だが2年時も、3年時もシーズンを通して、試合に出続けられたことはない。どうしてもケガで離脱する期間が出てきてしまった。
「大事な時期に怪我するのはまだまだ二流」
今季も病気とはいえ、チームから離れていた期間は歯がゆかった。FWリーダーでもあったから、FWのまとめ役を副将のPR紙森陽太に任せっきりにしたことも不甲斐なかった。
「紙森には感謝しています。なので次はしっかり支えてあげたい」
初めての大学選手権は、緊張よりも楽しみが勝っている。「早く試合がしたい」。
全国を前に、ようやく最後のピースが揃った。