クラシコへの思いがあった。
「皆そこ(早明戦)に出たくて(明大へ)入ってきている学生がほとんどだと思う。気合いが入っています」
明大ラグビー部4年の田森海音は12月5日、東京・秩父宮ラグビー場で伝統の早明戦へ出る。加盟する関東大学対抗戦Aの最終節としておこなわれる早大との一戦へ、2季連続で先発する。
部内有数のファッションリーダーとして鳴らす4年生は、都内で非公開練習をおこなった某日、オンライン取材で述べた。
「名誉のある早明戦を2年連続で戦えることに感謝していて、同時に、これまでの歴史を含めた明大を代表して責任のあるプレーをひとつひとつやっていかなくてはいけないとも思っています」
今季の対抗戦の暫定順位は、明大が2位で早大が3位。他会場の結果を踏まえて決まる順位が2位、3位となったチームは、現在実施中の全国大学選手権で年内に再びぶつかる可能性がある。
対抗戦3位のチームは18日の4回戦(大阪・東大阪市花園ラグビー場)で関西大学Aリーグの3位と対戦。ここを勝ち抜けると、26日の準々決勝で対抗戦2位とぶつかる(秩父宮)。
明大にとっては3シーズンぶり14度目の大学日本一も至上命題だ。ノックアウトステージでの再戦も想定される早大との試合には、ある種のやりづらさが生じそうだ。
しかし田森は、第三者の仮説に首を振る。
クラブに伝わる普遍的な文法を用い、思いを述べる。
「対抗戦の早明戦で勝つこと自体に意味がある。次があるからちょっとこの戦術は…という戦い方をしたくない。自分たちの力を出し切る。明大は早大に負けちゃいけない。プライドを持って戦いたいです」
身長180センチ、体重99キロ。九州の公立校の雄、長崎北陽台から明大へ入学し、ポジションを以前のNO8からHOに移した。同じFWでも、立ち位置が3列目から最前列中央に変わった。スクラムの舵取り役、ラインアウトの投入役を担った。新たな持ち場で腕を磨いた末、昨季からレギュラーに定着した。
転機はラストイヤーにもあった。10月9日、東京・江戸川区陸上競技場。日体大との対抗戦第4週にスタメン出場も、前半37分で交代させられた。神鳥裕之監督は「田森の動きがよくなかったので」と語った。
チームも46-10と勝利こそすれ、消化不良の感を残していた。以後は最上級生が試合の分析を率先するようになって緊張感が増し、田森自身も、初心に帰っていた。次戦以降も立場を守ったのは、そのおかげだと話す。
「ちょっと自分のなかで多少、慢心というか、向上心を持てていないところがあった。翌週からの練習で、もっとチャレンジングになろうとしました。それを(コーチ陣に)評価していただけたと思います。あれ(日体大戦の出来)が続いていればもう、(メンバーを)代えられていたと思います」
今季初黒星を喫したのは11月20日。秩父宮での帝京大との全勝対決を7-14で落とした。持ち場のスクラムで、相手の右PRの細木康太郎らのプッシュに苦しめられた。
田森は、前半3分の最初の1本で反則を取られたのが尾を引いたと話す。
「スクラムで引くつもりもなかったし、なんなら仕掛けるつもりでしたが…。FWから勢いを出せなかったのは、すごく悔しかったです。最初にペナルティを取られて、印象が悪くなった。(問題は)そこ、ですね」
転んだままではいなかった。ハーフタイム。前半終了間際の1本でアーリーエンゲージ(合図よりも早く組む軽度の反則)を取られた細木が、真継丈友紀レフリーに歩み寄る。説明を求める。田森はすかさず、その輪に加わった。
「細木的には、『(早く組まないように)コントロールしたいけど、(力関係上)前に出られてしまっている』という感じだったみたいです。そこへ『僕らも引いているわけじゃなく、コントロールしたいと思っている』と。こっちの言い分も多少、伝えました。こういう時、僕はなるべくレフリーとコミュニケーションを取るようにしています。もし僕があそこ(細木と真継レフリーの会話)に参加しないで(ベンチに)戻っていたら、もっと帝京大が組みやすくなっていたと思います。もともと帝京大が勝っているように映っていたところへ帝京大のイメージだけを伝えられたら、もっと帝京大が有利になる」
この一連の流れは、対する細木も「お互いにこだわりのある部分でした。僕たち8人、明大さん8人、レフリーさんという人数がいるなか、僕だけの考えを言っても仕方ないと思い、冷静になり、後半に向けて話し合いました」と後述する。
後半も帝京大が首尾よくスクラムを組んでいたが、後半34分の一本では明大が帝京大の反則を誘っている。見合った状態から間合いを詰めていた帝京大の圧を耐え、跳ね返した。
田森と並んでいた右PRの大賀宗志は、「『もう一回、自分たちのスクラムを組もう』と皆で話し合って、だいぶ、自分たちのスクラムを組めるようになった」と回想する。帝京大戦前は細木の強烈な押し込みへの対策に注力してきたというが、今度の早明戦では原点回帰を誓う。
「早大戦ではいつも通りで組もうと考えています。皆で固まって、真っ直ぐ。自分たちのヒットしやすい姿勢を『バインド』の(組み合う)タイミングで取って、ヒットする。それが自分たちのスクラムですね」
勝負事には交渉力も必須と心得る田森は、改めて今度の早明戦へ意気込む。
帝京大戦の試合終盤。会心の1本によって敵陣深い位置へ進みながら、約4分後にあったスクラムでは前に出ながら反則を取られた。「僕ら的に『勝ってる!』というものが僕らのペナルティになることも。…最初の印象が重要だと感じさせられた」とし、こう続ける。
「次の早大戦でも、最初のスクラムにはこだわりたいと思っています」
卒業後は社業に注力したいため、リーグワンの上位層とは距離を置く見通し。大観衆のもとでプレーできるのはあとわずかかもしれない。競技生活で積み重ねた全ての知見を、貴重な早明戦へぶつける。