ラグビーリパブリック

自力で入替戦回避へ。SO高桑基生[関大]が最後に全力以上を出す。

2021.11.27

SO高桑基生副将はCTB藤原悠とともに下級生の多いBKを引っ張る(撮影:平本芳臣)

 17―19。時計の針は40分を過ぎていた。
 関大のSO高桑基生は劇的幕切れの中心人物になった。

 やらぬ後悔よりもやる後悔。
 ゲームキャプテンの高桑は中央40㍍のペナルティゴールを自ら選択した。決まれば逆転勝利で試合を締める。そんなPGを蹴ったのは初めてだった。
「前半にイージーな角度のPGを外していたので、取り返せるチャンスが来たなと。ショットを自分で選択した責任は重かったですが、この緊張感を味わえるのは僕しかいないという楽しさもありました」

 後半42分過ぎ。弾道は悪くなかった。ただ少しばかり右にそれる。
 ついにスコアは動かなかった。

 11月21日、関大は立命館大と戦い、惜敗した。
「悔しいの一言です」
 高桑は翌日からキックの練習を始めた。グラウンドの灯りが消えるまで続けた。
「もう次は失敗できませんから」

 敗れはしたが、昨季0―38で完敗した相手を追い詰めた。そのリベンジに燃えていたからスコアを縮められた。
「自信がついた試合でした。これまでの戦いで手応えを掴めていたのが良かった」

 今季の関大は好調だ。ここ3年間で一度もAリーグで勝てていなかったが、最終節の近大戦を残し、ここまで2勝を挙げている。
 第3節で関西学大との伝統の一戦を逆転トライで締めくくり(27―22)、5節では3年前に入替戦で敗れた摂南大に雪辱を果たした(19―17)。敗れた天理戦でも21得点、京産大からも24点奪っている。

 高桑は関学戦の勝利が「チーム全体の雰囲気も変わったターニングポイントだった」と話すも、上昇のきっかけはその前にあった。

 関大はコロナの影響を色濃く受け、一時は45人が上限の人数制限下での活動を余儀なくされた。その後もチームを完全に2つに分けての練習が夏前まで続いた。
「コミュニケーションも全然取れなくて、決していい状態ではありませんでした」

 チーム力が一気に向上したのは関西リーグ開幕直前。園田晃将ヘッドコーチが提案した。
「4回生で話し合う機会を設けてはどうかと。それで変わりました。どういう思いを持って入部したかとか、目標の選手権出場に対してどう思っているかとか、自分がチームに存在する意味など、打ち明けました。そこで一人ひとりの思いを把握することができた。僕は3年間勝てていないチームだったので、最後本当に勝ちたいという思いをぶつけました」

 それから一人ひとりのチームに対する発言がポジティブに変わった。みるみる練習の雰囲気も良くなっていった。「チームってこんなに変わるんだなと思えました」。

 兄に倣う形で小学4年からラグビーを始めた。それまでは日本拳法を習っていた。中学は大工大RSから大阪RSへ。今市中でもプレーした。
 高校は自宅から自転車で5分の常翔学園に進む。スクール選抜の練習場所が常翔学園のグラウンドだったから、チームの楽しい雰囲気を知っていた。

 関大を選んだのは、一番早くに声をかけてくれたからでもあるが、チャレンジャーという環境に惹かれたから。勝つのが当たり前の常翔学園時代とは違った立ち位置だった。
 3年時から先発の座を掴んだが、途中でその席を明け渡す挫折も経験した。それでもめげなかった。「置かれた場所で頑張るというのはずっと心掛けてきました。そこで最大限力を発揮することだけを考えていた」。

 副将として迎えた今季はここまでフル出場。ゲームキャプテンも4試合務めた。
 11月29日の関西リーグ最終戦もゲームキャプテンとして近大戦に臨む。関大は現在、勝ち点10で5位。引き分け以上で入替戦への出場はなくなる。
「勝って入替戦を回避するのが一番の思いです。個人としても13年間の集大成として、全力以上、120㌫の力で挑みたい」

 卒業後は金融関係の仕事に就く。この試合に勝って、ラグビー人生を締めくくりたい。