部屋の壁にはショート丈のブルゾンやジャケット、キャップを飾る。移動用のブレザー姿の時には、首元にヘッドホンをかける。
東海大ラグビー部有数のファッションリーダーかもしれぬ野口幹太は、個性派集団における「無印の星」でもある。
最後尾のFBに入る。防御網のほつれをカバーして強烈なタックルを繰り出し、人と人との間に駆け込んで味方の走るコースを創出。身長175センチ、体重80キロと小柄も、渋い光を放つ。
レギュラーになったのは今季からだ。さかのぼって始動前、木村季由監督からBKリーダーとなるよう打診されていた。
「試合に出られてないし、周りにどういう反応されるか…」と戸惑うも、結局は「このまま普通にやっていても(極端な飛躍は)難しいと思っていた。これが転機」と就任を決意した。いざ大役を担い、己の役回りを整理。秋までには不動の15番となった。
「自分が何かをやるというより、周りをしっかり活かしたり、まとめ役になれたりしたらいいなと。皆が皆、リーダーシップを張れるようになってきているので、自分が無理に引っ張っていく必要はないと思っていて」
同学年には綺羅星が揃う。丸山凛太朗は、1年時から正SOに位置。守備の背後のスペースを見るうまさが際立っていて、何より自信を持っていた。一時退部していたWTBの望月裕貴も、丸山と一緒に早くから出番を獲得していた。
千歳中、東京高で野口と一緒だった小池隆成は、前年度以前からFWの柱だ。最近では発言力も増しているようで、感心させられる。
部内で共有するメンバー表のボードでは、自分たちの代を表す「青」の名札が大勢を占めて久しい。
ここまでの約3年半を、野口はこう回顧する。
「自分らが2、3年の時はファーストグレード(1、2軍)がほぼ自分たちの代で埋まっていた。(同期は)知っている名前の人(高校ラグビーシーンの有名人)も多くて。そのなかでちゃんとやっていけるのかなという思いは少しありましたけど…やるしかないんで、頑張りました」
小学1年でラグビーを始めた。公立高校の教員である父・友輔さんの影響である。全国屈指の強豪クラブを進路に定めたのは、かねて「ラグビーが強いところでやりたい」と志していたからだ。
東京高の先輩である山菅一史(横浜キヤノンイーグルス)、杉浦拓実(三菱重工相模原ダイナボアーズ)がプレーしていたこともあり、湘南キャンパスに通い始めた。よりによって大駒揃いの代の一員となり、面食らうこともなくはなかった。しかし、入学後の筋力強化でベンチプレスの最重量数値を「100キロ」から「140キロ」に引き上げた。かくしていまに至る。
今季は、練習方針の骨子を豊田真人コーチとリーダー陣らによるミーティングで策定してきた。首脳陣の意向に沿うことの多かった従来とは違う形で、「これがいま思う最善(の強化方法)かな」と野口は実感する。
加盟する関東大学リーグ戦1部では目下負けなしで、11月28日の最終節(東京・秩父宮ラグビー場/対 流経大)で4連覇を狙う。
もちろん、その先も見据える。
「ただ優勝するだけではなくて、皆で本当に最高だったねと言える終わり方がいいですね。『これだけ(練習やミーティングを)やったから、そりゃ優勝するっしょ』みたいな」
卒業後も大好きな競技を続けたいと思うが、その前に、個性的な仲間とともに初の大学選手権制覇を達成したい。