100年以上続く伝統の一戦だ。
選手たちは、普段は感じないプレッシャーを受ける。そして、見えない力がチームを支える。
11月23日におこなわれた早慶戦。早大は前半を35-5とリードし、猛追する慶大を振り切って40-33と勝利を手にした。
後半にモールでトライを重ねられるなど、手放しでは喜べぬ展開だった。
しかし、大田尾監督は前向きだった。
流れが変わっても同じゲームプランで戦い続けた修正力の足りなさや、相手の変化に対応できなかった防御には苦言を呈したものの、勝利をつかんだことを評価した。
「結果だけを見れば、前半は良くて、追い上げられた試合。モールで何本もトライを取られもしました。でも、(11月3日の)帝京戦に負けたあとの(緊張感ある)早慶戦という中で、学生たちは(チームを)立て直した。力を発揮してくれたな、と思います」
課題が出たのなら、これから直していけばいい。そう話した。
同監督は、帝京大に敗れた後のチームの空気の変化が嬉しかった。Bチームで戦うジュニア選手権で選手たちは好ファイトを見せた。
11月7日、帝京大に49-45で勝つ。その1週間後には東海大を55-40と倒した。
それぞれ、ジュニア選手権では12年ぶり、9年ぶりの勝利だった。
「みんな体を張ってくれました。4年生がチームに勢いを与えてくれた。きょうの(早慶戦前の)ロッカールームの雰囲気も良かった。いいゲームをしてくれるんじゃないかな、と感じました」
自身も学生時代は、伝統あるチームで、伝統の一戦を戦ってきた経験がある。
11月14日に逝去した、OBで元監督の日比野弘氏との思い出も話した。「当たり前のことを当たり前にやる。些細なことが大事、と教わりました。(そういうことの積み重ねが)ギリギリのところで出る」
高校(佐賀工)3年時、故人が九州に足を運んでくれた時に話したことも覚えている。
「(ある年の)早慶戦の直前に主力選手がテーピングを切るハサミを1年生に取ってもらったそうです。それを戻すときに、ありがとうと言って渡した。そのとき先生は(当日の試合に)勝つと思った、と」
大歓声が降り注ぐピッチ。異様な空気がスタジアムを包む。
「そんな極限の状況の中でも力を発揮する選手は、そういう細かいところまできちっとしている。当たり前のことを当たり前にやれる」
試合の出来を問われ、「日比野さんがきょうの試合を見たら、モールはなんとかならんのか、とおっしゃるでしょうね」と笑わせるシーンもあった。
しかし、報道陣の質問に答えて話した昔のエピソードは、会見場の隣に座る長田智希主将をはじめとした選手たちに、人生訓を伝えているようだった。