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【ラグリパWest】ギターから楕円球へ。亀沖泰輝 [天理大/FWバックファイブ]

2021.11.26

天理の大学選手権連覇に向け、力を尽くす亀沖泰輝。FWのバックファイブをこなす。ギターを楕円球に持ちかえて奮闘する

複数のポジションで期待に応える。(撮影/毛受亮介)



 亀沖泰輝(かめおき・たいき)は天理に通う大学4年生だ。
 高校時代、ギターの道に進むことを考えながら、楕円球界に戻って来た。

 チームでのポジションはFWのバックファイブである。
「僕は突出して強いところがありません。だから4番から8番までどこに入っても、何でもできる人を目指しています」
 サイズは184センチ、100キロ。学生レベルでは申し分ない。

 11月20日の京産戦はリザーブスタートもそれまで関西リーグの5試合に先発した。右ロック、右フランカーが2ずつ。ナンバーエイトが1。チームにとって不可欠なスーパーサブと言える選手だ。

 格闘的な競技をしていた亀沖が、真逆の音楽を始めたのは中3だった。
「ラグビーだけの人生はどうかと思いました。ちゃうことをしたい、離れようと」
 夢見たのはバンドを組んで学園祭に出ること。テレビアニメ『けいおん!』などの影響もあった。エレキギターを専門家について習った。本格的だった。

「痛くない、怖くない、格好いい、楽しそう、そんな感じでした」
 幼なじみの小笠原寛人の影響で小4から尼崎ラグビースクールに通っていた。誘われたラグビー強豪校は断った。

 一般受験で尼崎市立尼崎高校、通称「イチアマ」の普通科に合格する。さっそく軽音楽部の創部に向けて動き出した。ギター、ベース、ドラムやシンセサイザー、そしてボーカル志望の20人ほどが集まった。

 顧問を引き受けてくれそうな先生も見つけた。しかし、学校側の回答は、「使える教室がない」。創部は認められなかった。
「自分たちでやれ、ということだったのでしょう。市尼は吹奏楽が強かったですし」
 関西でも屈指の演奏力を持つクラブとかぶる部分もあった。

 入学2か月ほどで大きな目標がなくなった。そのため、ラグビースクールを手伝ったりもした。夏のある日、練習後に高校の試合があった。イチアマが来る。人数が少なかったこともあって出場を誘われた。

「久しぶりにやってみたら、楽しかったんです。思いっきり走れる。経験者やったから、みんなもちやほやしてくれました」

 同級生から問われた。
「なんでできんのに、やれへんの?」
 監督の吉識伸(よしき・しん)はギター教室との両立を認める。プロップとして報徳学園で主将をつとめ、大体大に進んだが、教員として適切に対応した。かくして幼なじみの小笠原とまた同じチームになった。

「週に1回、練習を30分ほど早くあがらせてもらって教室に行きました」
 その秋、全国大会の兵庫県予選は4強戦で関西学院に7−40で敗れる。
「3年生が抜け、中途半端でやっていては、という気持ちが起こり、一本に絞りました」



 高3では国体のオール兵庫に選ばれる。報徳学園から明治に進むセンターの江藤良、フルバックの雲山弘貴らとチームメートになる。97回全国大会予選は初の決勝に進出。0−95で報徳学園に大敗するが、歴史を作った。

 大学はスポーツ推薦で関西学院を受けるも、不合格になった。
「ショックでした。悔しさもありました。同じリーグで関学を倒したいと思いました」
 指定校推薦で天理の国際学部に進む。センターの小笠原は大産大を選んだ。

「自分は運がよかったです。身長も高いほう、横もあった。天理は大きい選手は上に上げる方針でした。父と母に感謝しました」
 天理は小柄な選手が比較的多い。亀沖は「体の大きさも才能」を地でいった。

 Aスコッドと呼ばれる一軍から四軍までのまとまりでスタート。ケガ人が続出。春季トーナメントの関西学院戦は後半6分、出場する。94−12の圧勝劇だった。入学して3か月目のことである。
「一回、倒したいと思っていたので、運命のようなものを感じました」
 秋の関西リーグでも関西学院には4年間、1度も負けることはなかった。

 2年になって、クボタにいったファウルア・マキシに鍛えられた。
「ウエイトがへぼ過ぎました」
 ベンチは65キロほどでセットをこなしていた。ナンバーエイトの2年先輩と一緒にトレーニングをしたおかげで、100キロでセットをこなせるようになった。

 入学した時、寮にギターを持ってきた。アンプにヘッドフォンをつけて時々引いていた。「去年からやっていません。弦が切れてしまって…。これからは趣味でやります。ちょっとひけんねんで、って感じで」

 天理は11月20日の京産大戦に10−19(前半10−7)で競り負けた。開幕の7−23とした近大戦に続きリーグ戦2敗目。勝ち点は前節20のままで、関西6連覇はなくなった。ただし、まだ大学選手権の2連覇は残る。

「ラグビーを選んでよかった。友達もいっぱいできて、充実しています」
 就職はラグビーを絡めてできた。社会人でもプレーは続ける。その前に、納得のいく形で大学ラグビーを締めくくりたい。残りわずかな期間、亀沖は先発、交替に関わらず、漆黒ジャージーのために体を当て続ける。