ラグビーリパブリック

車いすラグビー国内公式戦が再始動。次世代を担うルーキーが躍動

2021.11.10

左から今井友明、羽賀理之、池崎大輔

乗松聖矢(左)と橋本勝也(右)
羽賀理之(左)と池崎大輔(右)
躍動した新人たち。左から草場龍治、森澤知央(©JWRF)、若狭天太、青木颯志



 タックルの衝撃音が轟く、車いすラガーマンたちの熱い戦いが戻ってきた。

 高知大会(10月9日、10日)を皮切りに、埼玉(10月30日、31日)、東京(11月6日、7日)の3会場で、第23回車いすラグビー日本選手権大会(2022年2月開催)予選リーグがおこなわれた。

 国内の公式戦としては2019年12月の日本選手権以来、実に1年10か月ぶりの開催となった。しかし、そのブランクをまったく感じさせない迫力ある真剣勝負が繰り広げられた。

 感染対策により各会場とも無観客でおこなわれたが、東京パラリンピックで日本を沸かせた車いすラグビーの試合を見ようと、LIVE配信に熱い視線が注がれた。

 高知大会では、国内大会ならではの醍醐味、世界トッププレーヤー・池透暢(Freedom)と島川慎一(BLITZ)が火花を散らす日本代表対決にボルテージが上がり、最年長チーム・SILVERBACKSのいぶし銀なプレーが会場をうならせた。

 埼玉大会は、前回の日本選手権で全勝優勝した、池崎大輔を擁するTOKYO SUNSが同6位のAXEに敗れる波乱の幕開け。
 髪をバッサリ切り心機一転の倉橋香衣は、今春に移籍したAXEで自身の入るラインナップを入念に確認した。

 そして東京大会。延長に次ぐ延長、4回に及んだ延長で大接戦を演じたのはRIZE CHIBAとFukuoka DANDELION。
 試合を制したのは日本代表組のいないRIZE CHIBA! 大きな1勝にベンチは歓喜であふれ返った。
 また、前回大会3位のTOHOKU STORMERSは予選出場全チーム中唯一の全勝(4勝0敗)で、本選での優勝候補に名乗りを上げた。

 現在、日本には北海道から九州まで9つの車いすラグビーチームがある。
 クラブチームには日本代表として世界を目指す選手だけでなく、余暇や生涯スポーツとして車いすラグビーを楽しむ選手も所属しており、コロナ禍の中では体育館の閉鎖や障がいによる重症化リスクの大きさからチームが集まることができない状況が長く続いた。

 それだけに今回の日本選手権・予選大会の開催は大きなモチベーションとなり、再びチームが結集し選手一人ひとりに新たなきっかけを与える機会になった。

 東京パラリンピックから2か月、銅メダルを獲得した日本代表メンバーも各クラブチームで新たな一歩を踏み出した。



 日本代表のエース・池崎大輔(TOKYO SUNS)は「銅メダルの悔しさを引きずっている」と現在の心境を率直に語り、「現実と向き合いながら、再スタートを切るきっかけになれば」と大会に臨んだ。

 チーム最年少の19歳でパラリンピック初出場を果たした橋本勝也は「クラブチームで大会に出場できることがうれしい。代表で得たものは大きいがクラブチームでもやることは変わらない。まずは日本選手権に向けて調整したい」と声をはずませた。

「目標は世界一のプレーヤーになること。プレーだけではなく人として誰からも頼られる存在になりたい」
 その宣言通り、仲間に声をかけながらアグレッシブにコートを駆け回った。

 日本代表が東京パラリンピックで見せた情熱あふれるプレーは人々を魅了し、日本の車いすラグビー界に変化をもたらしている。
 連盟には、「パラリンピックをテレビで観てファンになった」、「今までは観客として見るだけだったが、もっと競技に携わりたい」と、ボランティアや競技スタッフを希望する声が200件近く寄せられたという。

 また、Fukuoka DANDELIONの工棟(くどう)徹キャプテンによると、パラリンピックの試合が地上波で放送された反響は大きく、クラブチームにはリオ大会時の何倍もの問い合わせがあり手応えを感じていると話す。
 実際に今大会では抽選で選ばれたボランティアが試合中にモッパーを務め、同時に審判やTOの講習会も実施された。

 競技においても、ナショナルチームの強化がクラブチームのレベル向上に確実につながっている。
 特にパラリンピック後、育成合宿をいち早く始動したことで、競技歴の浅い若手選手の基礎レベルや意識が高まり、それが日本全体の底上げと競技の活性化を生み出している。

 さらには、車いすを始めたばかりのニューフェイスたちが躍動したことも今大会の大きな特徴だろう。
 この1年間で4チームに新人選手が加入、4人全員が公式戦初出場を果たしトライでデビュー戦を飾った。
 ルーキーたちに共通しているのは「日本代表選手に憧れて」車いすラグビーを始めたことだ。

 怪我で入院していた病院で中町俊耶に声をかけられたという若狭天太は、今年4月に中町がキャプテンを務めるTOHOKU STORMERSに加入。「中町選手に憧れてチームに入った。中町選手のようなかっこいいプレーヤーになりたい。そして抜きます!」と、意気揚々と決意を語った。

 高校1年生の青木颯志(AXE)は先月10月に選手登録をしたばかり。初の公式戦出場も「楽しむことができました。全然緊張はしなかったです」とすでに大物の器を見せ、「1対1とか2対2の駆け引きが楽しい。車いすバスケとは違いタックルもできるのが面白い」と堂々とコメントした。



 新人選手にとっては、チーム内に彼らのお手本となる日本代表経験者がいることも大きい。
 2017年に車いすラグビーの試合を見たことがきっかけで昨年11月から競技を始めた草場龍治(Fukuoka DANDELION)は、自分と同じ障がいがありながら世界の舞台で活躍する乗松聖矢に刺激を受けた。
 チームメートの乗松が東京パラリンピックでプレーする姿に「自分も同じ舞台に立ちたいという思いを持たせてくれた。上を目指したい」と、高い志を胸にトレーニングに励んでいる。

 持ち味のスピードと積極的に仕掛けるディフェンスに「デビュー戦とは思えない活躍で期待しかない。教えていないことでも、状況を自分で判断し打開する力を持っている」と乗松も太鼓判を押す。
 今後の成長が楽しみな選手のひとりだ。

 そして高知大会では、待望の女子選手、森澤知央(Freedom)が公式戦デビューを果たした。
 初トライを挙げるとベンチから温かい拍手が送られ笑顔をのぞかせた。

「女子選手が増えることが目標」だと語っている倉橋はこの知らせに、「本当にうれしい。自分に何ができるとは考えていないが早く会って一緒に楽しみたい」と歓迎した。

 白熱した勝負のなかにも、仲間と試合ができる喜びに笑顔が見られた1年10か月ぶりの公式戦。
 来年2月の日本選手権に向け、優勝争いの行方とともに新戦力の台頭やニューヒーローの誕生に期待が膨らむ予選大会となった。

 車いすラグビーでは11月20日(土)・21日(日)に「2021ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉市の千葉ポートアリーナで開催される。
 日本代表候補選手約30名が出場し、日本の未来を担う育成世代が東京パラリンピック代表組に挑む戦いは必見だ。国内では約2年ぶりに有観客(人数制限あり)で行われる車いすラグビーの大会となる。
 車いすラガーマンたちの迫力あるプレーをぜひ会場で体感してほしい。


◆第23回 車いすラグビー日本選手権大会 予選リーグ結果

【高知大会】10月9日、10日@高知障がい者スポーツセンター
1位 Freedom(高知)
2位 BLITZ(東京)
3位 SILVERBACKS(北海道)

【埼玉大会】10月30日、31日@埼玉県立障害者交流センター
1位 TOKYO SUNS(東京)
2位 AXE(埼玉)
3位 OKINAWA Hurricanes(沖縄)※出場辞退により不戦敗

【東京大会】11月6日、7日@日本財団パラアリーナ
1位 TOHOKU STORMERS(東北)
2位 Fukuoka DANDELION(福岡)
3位 RIZE CHIBA(千葉)