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7-0の勝負を制して。桐生第一の元トップリーガー監督、最高の予想外は選手たちの成長 [群馬県花園予選決勝]

2021.11.10

桐生第一の霜村誠一監督は日本代表キャップ6を持つ名手。その経験をしても計れなかった選手の力、チームの力を、決勝で見せられた(撮影:松本かおり)

 第101回を迎える花園(全国高校大会)の群馬県予選決勝が11月6日、アースケア敷島サッカー・ラグビー場(前橋)で行われ、桐生第一が明和県央を7―0で降し、2大会ぶり3回目の出場を決めた。

 春、夏の戦績からすれば、逆転での花園きっぷだった。

 桐生第一は、春の関東大会予選は準決勝で東農大二に敗れ(7-25)3位、6月のセブンズでも農二の壁を破れなかった(準決勝26-29)。それを勝負の花園予選では、見事にひっくり返した。準決勝は桐生第一26-7東農大二の快勝。この時、霜村誠一監督は、決勝へ向けて意気上がる選手たちを諌めた、という。

なめらかなフォームで放る桐生第一SH亀田翔蹴(撮影:松本かおり)

「準決勝は戦略的な面でうまくいきました。ただ、スキル的には、それまでやってきたこと以上のことはやっていない。気持ちよく勝って、その意識のまま決勝に入ると危ない。もう一度、決勝ですべきことを、自分達にフォーカスして整理した」

 トップリーガーとして多くの舞台を踏んできた霜村監督ならではの助言だった。決勝とはそういう場所なのだろう。「想定と違ったことが起きた時に、パニックになってほしくなくて、危ないよ、と注意した」

 試合は熾烈な守り合いになった。互いに激しいタックルを放ち、なかなか敵陣深くには入れない。桐生第一は、明和県央の強みに対してしっかりと対応した。

「明和県央の特徴はセットプレーとディフェンス。非常に力強い。出足がすごく速い」(霜村監督)。果たしてこの決勝を通して相手には一つもスコアを許さなかった。しかしまた、桐生第一も思ったようにアタックを繰り出せなかった。

「実は、もう少し取れる、スコアできるのではないかと思っていました。後で振り返れば、ちょっと判断が堅かった。一つのアタックに表と裏があるとしたら、表ばかりに偏ってしまいました」

 霜村誠一は選手たち自身の判断を尊重する。それは決勝での誤算の一因になった。

 ただ桐生第一がたくましさを見せたのは、そこからだ。勝利の源泉もまた、彼ら自身の状況判断の文化にあった。

 桐生第一にトライが生まれたのは後半20分。中盤の反則で桐生第一が22㍍付近に左ラインアウトの拠点を作った。ラインアウトでキャッチしたボールが少し暴れ、変則的なリズムでSHへ。ボールを受けたBKはCTB矢内大翔③を突破させ、矢内がそのままこの試合唯一のトライスコアラーになった。

 桐生第一は後半1分にSO鈴木成昌②をケガで欠いていた。勝負どころのBKアタックはファーストチョイスのメンバーではなかったが、先発陣でもきっと平常心ではいられない場面で、乱れた球出しから一発、ムーブを決めて見せた。突破役を果たしたCTB矢内は試合後、笑顔で監督に報告した。「少し動いたら、抜けました」。分析が生きた。相手ディフェンスの特徴を突き、横の動きを入れてみる――試合前週から話し合っていた相手チームについての情報が、試合終盤、とっさに矢内の体を動かした。

 思ったほど攻められず、予想以上の相手のディフェンスと粘りに苦しんだ霜村監督。しかし監督にとっていちばん意外だったのは、教え子たちのたくましさ、落ち着きだった。

「試合前に、こういうふうにやろうねって決めていたディフェンスを、状況によって自分たちで破っていった。危ない、と思った瞬間、その綻びが個人の判断でカバーされていた場面が結構ありました。『えっ、そこまで詰めるの』というケースも。選手たちがとにかく落ち着いていました。僕らの指導を超えてきた」(霜村監督)

 対戦相手のタフさにも力を引き出された。明和県央は3年生が6人の若いチーム。それでも、決して切れない粘り強さに、自軍は知らず硬くなっていた。後半早々の司令塔のケガ、土壇場であらわになった落ち着きと、機転。7-0のスコアは、いくつかの「予想外」の結晶だった。備えを尽くした両チームには、大舞台で出てくる力があった。桐生第一、次のステージへ。2年ぶり3回目の花園が待っている。