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明治に敗れた慶應の収穫。慶應17-46明治のスコアに見出す今季の「これから」。価値ある3トライには「幅」がある

2021.11.05

慶應3本目のトライの「起点の起点」となった山本凱、鬼木崇(写真)らのディフェンス。明治の巨漢BK児玉樹を押し倒す(撮影:松本かおり)

 11月3日、駒沢陸上で関東大学対抗戦2試合が行われ、明大が46-17で慶大を破った。明大は開幕以来5戦全勝で、11月20日に帝京(全勝)と、12月5日には早大(現1敗)と対戦する。大学選手権は5位チームまで可能性がある関東大学対抗戦。筑波大戦に次いで2敗目を喫した慶應は11月23日に早慶戦、12月4日に帝京戦が控えている。

 試合後の慶應サイド。選手は悔しげに、栗原徹監督は淡々と話した。今後につながるチームの闘志と、指揮官が敗戦の中でつかんだ収穫が感じられた。

「慶應としてはディフェンスで対抗しようとしたが」とFL山本凱。「もう少し失点を抑えないと勝てない…」

「この明治を相手に諦めず、3トライ取れたこと。これを糧にしてしっかり早慶戦に備えたい」(栗原監督)

 開始4分、中盤のラインアウトを起点に先制トライを挙げた明大は、前半から24-5と慶應の戦意を削ぎにいく。スクラムからの1次攻撃で取り切るなど、慶應を封じ込める出来を見せた。

 慶應は磨いてきた強みもなかなか形にできなかった。12-34で迎えた後半27分には、自陣のタッチライン際の相手ラックからボールを奪い返す。機敏にショートサイドをパスで抜き、FBに入ったエースランナー山田響が突破する場面を作った。しかし、相手陣中盤も突破したこのアタックをつなぎきれず。山田が孤立して相手ディフェンスに囲まれて作ったラックで反則を取られ、反撃には至らなかった。

 慶應17-46明治の完敗。この試合に栗原監督が見出す光明は攻撃のバリエーションだ。3トライを記録したアタックは、今後のカードになりうる武器だ。

「スキルは一朝一夕に高まるものではないので、引き続き地道に練習していく。きょうの明治を相手にとれた三つのトライ、トライの形は自信になると思う」(同監督)

 これまでは、決定力あるラインアウト・モールに頼ったフィニッシュが目についた。それ以外のアタックに自信を得る一戦になった。

 一つはキックから。一つはフェイズを重ねて。もう一つはラインアウトモールを起点にした大きな展開でのトライだ。

 1本目、前半21分のトライは、SO中楠一期が敵陣深くで高々と上げたハイパントをWTB佐々木隼が度胸満点に競り勝ってキャッチし、右隅に飛び込んだもの。アウトサイドBKとのマッチアップを考え用意されたプレーだ。

 2本目、後半23分は後半起用のNO8福澤慎太郎がゴールラインを越える。相手反則から得た敵陣ラインアウトを起点に、髙武俊輔、山本、福澤が連続して近場を縦に鮮やかな突破。明治を相手に、直線的にゴール下へと前進した。

 3本目は、ベストでない形から選手がうまく対応したトライだった。

 後半36分、押し切れないモールから左へFB山田響がパスアウト、CTBイサコ・エノサが相手ディフェンスラインを分断する前進。食い込んだラックから、さらに左へ回り込んだBKがフラットなパスで最終ディフェンスを破った。SO中楠からパスを受けたCTB鬼木崇の動き、キャッチが目を引いた。鬼木がその背中と左に従えた選手たちもいい仕事(WTB佐々木、山之内颯人)。鬼木にディフェンダーの間を走らせ、抜けてインゴールへもつれ込んだ。

 すでに12-41と点差は開いていたが、互いに力を注ぐラインアウト・モールが起点だっただけに、それが布石となったトライには価値があった。

 この日、反応の良いタックル、前に出続けるプレッシャーで局面では明治を苦しめた鬼木が、アタックでもいいところを見せたのは慶應らしい。ディフェンスで前に出れば、アタックでも前に出られる。鬼木、山本凱ら個々で見せているタックルが今後は組織で機能すれば、試合展開やスコアはまだまだ変わる可能性がある。

 原田衛主将は、得意のラインアウト・モールが封じられたことについては、サインの伝達ミスを挙げている。ここは修正可能な領域だろう。

 体を当てて、当てられて、得意を封じられ敗れた選手はそれでも悔しい。闘志は高まるばかりだ。一方で栗原監督は、悔しさを噛み締めながらも、この日得たいくつかの収穫を糧にシーズン佳境を見据えている。11月下旬まで、ほぼ3週間の準備期間をおいて、慶應はどんな変貌を見せるか。11月23日の早慶戦は、今年も見る価値がある。

身長170センチのCTB鬼木崇(中央上)は福岡の進学校・修猷館出身。2年長く受験準備をして慶應合格を勝ち取った(撮影:松本かおり)