どちらも主力を欠いていた。その影響の少なそうな方が、鬼気迫る展開を演じた。
10月31日、埼玉はセナリオハウスフィールド三郷。関東大学ラグビーリーグ戦1部の一戦で、前年度3位の日大が同7位の関東学院大を迎えた。
日大は、左PRのシオネ・ハラシリ、LOのテビタ・オトを欠場させた。ハラシリは、前節で犯した危険なプレーを受けての裁定がその5日後までに下って出場停止。オトは本番3日前の練習で故障した。
FWを軸にするクラブにあって、突進力が期待される2人が欠場。さらに大型フィニッシャーであるWTBのナサニエル・トゥポウも、長らく戦列を離れている。
それでもFLの飯田光紀主将は、こう強調した。
「けが人が出た分、フレッシュな選手たちが入ってくる。来年に向けてもいい経験になるのかな、とは思っています」
対する関東学院大もまた、頼れる軸を失っていた。まずSH兼SOの三輪悠真主将、タックルの強いLOの山崎海がリハビリ組に回る。攻守で動くSO兼CTBの芳崎風太にいたっては教育実習、それに付随したという部活動の休止要請で日大戦をあきらめざるを得なくなった。
昨季3シーズンぶりに1部へ復帰し、今季はここまで1勝2敗。10月17日の3戦目では、昨季2位の流経大に27-31と接近している。つまり、上昇気流のさなかにチームの再編成を余儀なくされた。
しかし、NO8でこの日のゲーム主将の小濱康嵩副将は、飯田と同じく前向きだった。
「けがした選手の代わりに入ってきた選手たちが、日大に向けての練習で意識を高めてきてくれた」
両方が手負いの状態にあって、充実して映ったのは関東学院大だった。
序盤は約3分間にわたって自陣で攻め込まれながら、時折、鋭いタックルで相手ランナーを跳ね返す。最後は自陣22メートル線付近右でのスローフォワードを誘って失点を免れる。
その後は反撃を点数につなげられない時間帯もあったが、18分、敵陣ゴール前左のラインアウトからフェーズを重ねる。先制トライを決めたのは、防御でも魅したCTBの長尾貴大である。直後のゴール成功でスコアは7-0となる。
日大の飯田主将は言う。
「関東学院大さんの前に出るディフェンスに対し、思ったようなアタックができなかった。自分たちが受け気味になってしまった。自分たちがボールを持った時にダブルタックルを受けて前に出られず、関東学院大さんにディフェンスから(勢いに)乗られた部分があると思います」
関東学院大は続く20分、29分の失点で7-10と逆転されたが、32分、敵陣10メートル線付近右のスクラムを前に進める。
縦に突っ込む長尾をおとり役にして、左大外へ展開。WTBの阿部竜二がスワーブを切り、正面にいた日大FBの普久原琉を振り切る。最後はFBの川崎清純副将がフィニッシュ。ゴールキックが決まったことで、関東学院大は14-10と勝ち越した。
日大はかねて、重量感のあるスクラムを看板としてきた。ところがこの日は、トライにつながった1本を含め関東学院大の方が首尾よく組んでいたか。左PRの兒玉隆之介がせり上がり、対峙する側の面々が苦しそうに頭を上げる。日大の中野克己監督は言う。
「(スクラム練習の)質も量も足りてないかなぁ…」
前半ロスタイムには、敵陣10メートル線付近右で関東学院大がプッシュ。SOの荒牧太陽がペナルティゴールを得て、17-10とリードしてハーフタイムを迎えた。
ハーフタイムがあけると、登録選手の平均体重で14.2キロも上回る日大が流れを取り戻す。ところが17-22と日大リードで迎えた後半33分、関東学院大が自陣からのハイパントの再獲得でチャンスを得る。
敵陣22メートル線左のラックから、途中出場していたSOの立川大輝がパスを受ける。右大外へクロスキックを蹴る。
WTBの田代蓮がグラウンディング。22-22と同点とする。
試合を振り出しに戻された飯田は、仲間にこう伝えたという。
「気分を落とすな! 次のキックオフから集中しよう! 自分たちのアタックのテンポを出していこう。モールはちゃんと組んでいこう」
蘇生する。船頭の一言を「的確だった」と振り返るWTBの水間夢翔が、右サイドを豪快に駆け上がる。自陣からハーフ線付近まで到達。日大はここから左へ、中央へと大胆に揺さぶり、関東学院大の反則を得るやモールを前に進める。
次は右中間でパスをもらった普久原が、飛び出す防御の裏へグラバーキック。WTBの廣瀬和哉が仕留めた。22-27。ノーサイド直前にもだめを押した日大が、辛くも逃げ切った。
互いに苦しい陣容で臨んでいた80分を、敗れた板井良太監督はこう総括した。
「前回の流経大戦、そしてきょうと、また勝つ厳しさを味わうことになってしまって。最後の残り15分。そこで強いチームと弱いチームの力の差を痛感しました。我々にはけが人が多くベストメンバーではなかったんですが、代わりに出た荒巻、東(皓輝、SH)が頑張ってくれて…。また気持ちを作り、次戦に臨みたいです」
この日は今季のリーグ戦1部で初めて、対面形式での記者会見があった。ターニングポイントとなった飯田の檄が「喝」と捉えられそうになると、日大の中野監督は「うちはコンプライアンスですから。決して上から抑えつけるようなことはありませんので…」と記者団を和ませた。
穏やかな人柄で知られる指揮官は再度、気を引き締める。
「大東大さんとの試合(10月17日に31-0で勝利)の前は、選手にもそれなりに危機感があっていいムードでした。しかし今週の入りは少し、その時と違ってしまった。まだまだ大人になり切れていないところがあるのかなと、改めて感じています。ただ、最後は主将が中心となって勝ち切れたのは大きな収穫にもなっています。残りの試合では、準備の段階からしっかりしてひとつでも多く勝てるようにしたい」
リーグ戦の第5週計4試合は11月7日、各地である。4連勝中の日大は東京・上柚木公園陸上競技場で、前年度2位も今季2勝2敗とやや苦しむ流経大が相手。かたや1勝3敗の関東学院大は、同6位で目下2勝2敗の大東大を神奈川県内の本拠地に迎える。