縁は異なもの味なもの、という。
これはなにも女と男に限定されない。会社との関係もそうである。
田中かおりは同意する。
「突拍子もないことでしたから」
花園近鉄ライナーズの庶務は、はるか昔、女学生時代の就活を思い出す。
「あのー、会社案内の資料を請求したのですが、まだ届いていません」
河内の女ではあるが、決して、かましたわけではない。お尋ねをしただけである。相手は当時の近畿日本鉄道、今の近鉄グループホールディングスだ。
田中は短大2年。就活は教育実習もあって遅れ気味だった。確か、募集はすでに終わっていたような気もする。
「明日、上本町の本社に来られますか?」
電話口の男性は、ひょっとしたら姐さん系を想像したかもしれない。腰が低かった。
翌日から、一気にことが進む。履歴書確認、筆記試験、面接、身体検査…。気がつけば、天下の近鉄から内定をもらっていた。
人生、ぶっ込んでみないと、いや、確認してみないと分からないことがある。
素晴らしい会社ですね?
「はい、そう思います」
笑うと、ぱっと花が咲いたように周りは明るくなる。その笑顔でうん十年、働き続けている。会社は見る目があった。
内定式はラグビー部の大卒たちと並ぶ。カヤーンこと栢本(かやもと)和哉は大経大出身のフルバック。しなやかな走りで代表の下のグレード、日本選抜までいった。
「ラグビー部があることも、花園ラグビー場の存在もまったく知りませんでした」
競技に興味のない人はそんなもの。採用は短卒が5人、大卒は30人ほどだった。
総務部を振り出しに4つほど勤務先が変わる。チームには2011年に来た。
「最初は大きな人ばっかりで、かちんこちんに固まってしまいました」
それを見た先輩がアドバイスをする。
「噛みつかないから、怖がらなくていいよ」
ガルルルル。
今年、スタッフの中では最長の11年目に入った。今や金銭管理をする田中がいなければチームは回らない。
「楽しく仕事をさせてもらっています。みんなよくしてくれますから」
仕事はお金だけでなく、多岐にわたる。
「突発的なことが多いです」
社員証をなくしたり、割ったりの対応やジャージーを繕ったりもする。まるでお母さんのようだ。
この野郎、と啖呵(たんか)は切らない。心とは裏腹に笑みを絶やさない。
「偉そうに言わないようにしています」
ラグビー選手は子供、という真理を分かっていらっしゃる。やはり、お母さんだ。
プライベートでは中2の娘・かのこがいる。
「のという字は丸いでしょう。和は大事だと思っています。かのこは鹿の子、シカの子供でもあります。その模様も好きです」
和はラグビーにも欠かせない。今考えれば、娘の名前も楕円球と縁があった。
チームで特に応援している選手を挙げてもらう。
「ラグビーは未だによくわかっていませんが、高島さんや文さんです。かわいいですもん」
高島卓久馬は宗像サニックスに戻って行った。文裕徹(むん・ゆちょる)は同志社出身の新人である。2人はともにプロップ。体重は100キロを超える。
単なるデブ専のようである。
「わーっはっはっはー」
文は実際、いじらしい。
「ジャージーが破れたら、自分で繕ってきます。それくらいやってあげるのに、と思います。そういうところを見ると応援したくなります」
個人トレで久保田早紀の『異邦人』をかけるなど、22歳にもかかわらず、懐メロ好きなのもいい。
チームは来年1月、新規で開幕するリーグワンで、二部にあたるディビジョン・ツーに振り分けられた。
「頑張ってやっているけど、結果がでていません。ちょっと残念です。1日も早くディビジョン・ワンに上がってほしい。何よりも、このチームにいてよかった、とみんなに思ってほしいです」
選手たちとは美味しいお酒にしたい。趣味は飲みながら話すこと。
「好きなのはハイボール。量はロング缶1本くらいです」
500ミリリットル。ほんまですか?
今はコロナも落ち着いてきたので、勝利の前祝いの宴も可能である。ラグビー場界隈には、花園ラグビー酒場、餃子の王将、伊吹そばや焼き肉元など、美味しく、楽しく飲めるお店がたくさんある。
たまにはそういうところで慰労会をしないと。お母さんはいて当たり前だけど、いなくなることもありますから。
大事にしないとね。