熱を帯びていた。一言に意味があった。
ラグビー日本代表は10月23日、昭和電工ドーム大分でオーストラリア代表と激突する。初の8強入りを果たしたワールドカップ2019日本大会以来となる国内での代表戦に向け、チームは9月下旬から宮崎、別府でキャンプを張った。
候補メンバーが絞り込まれる前の宮崎合宿では、2度の公開練習があった。初回にあたる10月2日午前、スクラムセッションが見られた。
FWが6対6、8対8と人数を変えながら、ぶつかり合うまでの形を確認する。23日の先発HOとなる坂手淳史は組みながら声を出し続ける。間合いや塊の状況について、周りと情報共有しているのだろう。
2016年秋からこのエリアを担う長谷川慎アシスタントコーチ(AC)は、限られた時間で目指すスタイルを選手へ落とし込む。ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズなどと戦った今春のツアーを前に、指導の手順をアップデートしている。始動前に話した。
「ターゲット、ミーティングとのつながりをしっかり考えてやる。いらない(不要な)練習はしない。いる(必要な)練習だけをしっかりやっていこうと思います。コロナ期間中(2020年春)は家にいたので、ワールドカップ(日本大会)のレビューをする時間、次の日本代表でしたい練習を考える時間がものすごくありました。だから、いらない練習はしない(ことが可能)。必要な練習だけをしようとすると、短い時間でできるようになる」
実戦を想定する。セッションの合間に、「いま『ギャップを取って』と言ったよ」と宣言する。試合中、担当レフリーが「ギャップ(お互いの間隔)」を空けるように告げられた場合に、どう対応するか、選手たちは瞬時に判断する。
具体的には、最前列のPRやHOの選手が、LOやFLら後ろの選手へ足を前方に置くよう指示する。そうすることで、相手との間合いが遠ざかっていても一枚岩で力を入れられる。左PRの稲垣啓太は補足する。
「我々はギャップを詰め、相手を窮屈にさせたい。それは2019年から言い続けていることです。では、レフリーに言われて距離を取るしかない時にどうするか。バックファイブの足をちょっと詰めるように言って、(彼らの)膝が伸びきらないようにするんです。膝が伸びきった瞬間、(力が入らず)相手に乗られて(押し込まれて)しまいますから。これは、序盤(組み始める前)のうちに言っておかないと難しい。(スクラムを組み始めると)LOは頭を(前列の選手の尻の間に)突っ込んで耳が聞こえないですから。そこらへんのコミュニケーションも、一貫してやっていきたいですね」
8人が密接した小さな塊を作り、大きな相手が力を出しづらくするのを目指す。向こうの懐に入れれば理想に近づくが、「ギャップ」を作るよう告げられても次善策を用意しているわけだ。試合本番までに、その都度すべきことを身体化したがっていた。稲垣は続ける。
「ギャップ。実際はそこまで空かないと思うんです。全世界のスクラムを見ても、(両軍の最前列の)頭が当たっていない状態はあり得ない。ただ、頭がそこまで当たらずにちょっと入っている(触れている)だけなのか、ちゃんと当たっているのかの差は大きいです。その時にバックファイブが足を詰めているか、詰めていないかで、ヒット後に前に出られるかどうかの大きな差が生まれる」
2019年に好スクラムを重ねた現体制は、2023年のワールドカップ・フランス大会に向けて「ハイブリットなスクラム」を作り上げたい。長年かけて作り上げた自分たちの形で相手を崩すこと、その自分たちの形を状況に応じて微妙に変質させること。その両方を自然とできるようになればいい。
最近好調で世界ランク3位のオーストラリア代表との試合では、その進化の過程が見られそうだ。
HOでリザーブ入りの庭井祐輔は、「(合宿の)最初から高いレベルで(スクラムを)組めている。やろうとしていることが最初からできていた」と自信を持つ。
自らにとって約3年ぶりのテストマッチへ、22日の前日練習では試合をするグラウンドの感触をチェック。人工芝やハイブリット芝に比べて滑りやすい天然芝であると再確認した。
オーストラリア代表の左PRで先発するジェームズ・スリッパーについて聞かれれば、日本代表の右PRの具智元の名を挙げて言った。
「映像、めちゃくちゃ見ています。いま部屋が一緒の具智元と一緒に『こういう癖、あるなぁ』と話しながら対策しています。強い相手ですけど、勝ちたいです」
そして長谷川ACもまた、対戦が噂された段階から向こうの選手の特徴、癖などを分析していた。
一瞬のぶつかり合いに、幾多の知恵と工夫がにじむ。
▼日本代表 豪州戦 試合登録メンバー(19番は負傷のリーチ マイケルに替わり德永祥尭)
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