腹を割って話し合った。
全国優勝13回の明大ラグビー部は、関東大学対抗戦Aの日体大戦の内容を猛省していた。10月9日、東京・江戸川区陸上競技場での一戦は46-10で勝ってはいるが、SHの飯沼蓮主将の評価は手厳しい。
10日後、世田谷区内の本拠地グラウンドで言った。
「今年の明大はフィットネス、相手よりも速く立つという基礎の部分(を大事にしている)。ただ、(最近は)準備に甘いところがあった。技術云々ではなく——FWがボールをもらう時もBKがもらう準備をしてオプションを作る、とか——いいアタックをするための土台ができていなかった。それで1対1でも圧力をかけられましたし…」
ずっと消化不良気味だった。9月中旬に開幕の対抗戦では、前年度の下位層を向こうに3連勝もプレー後の起き上がり、陣形の整備などに乱れがあった。
神鳥裕之監督はもともと、「凡事徹底」を心掛ける。いわば、本来重視していた領域に課題があった。
指揮官は「あまりメンタリティという言葉は好きではないのですが…」と前置きしたうえで、言葉を選びつつ現状を分析する。
「…明大に、こういう、文化があったりする。それも、変えていかなければいけないのですが、いままでの3戦では相手の分析を詳しくしたわけではないですし、対抗戦に臨む緊張感が薄かったというのが本当のところです」
危機感が芽生えた。日体大戦後は、選手同士でミーティングを実施。飯沼いわく、「お互いの意見を交換できた」。喧々諤々の議論があった。この集まりに参加していない神鳥監督も、その状況を把握している。
「これは、コーチ陣からやれと言ったわけではありません。いろいろ、話をしたみたいですね」
明大は、転倒からの起き上がりとその後の回復力が際立つクラブだ。
「コロナ禍」と叫ばれ出した昨季も、スタート前の練習試合で快勝していた慶大に12-13と惜敗する。しかしその後は最上級生が道具の片づけを率先して実施。暮らしぶりを変えて雰囲気を引き締める。手早く敵陣に入るようプレーの仕方を見直したこともあり、帝京大、早大といった上位校を撃破。対抗戦制覇を成し遂げた。
大学選手権の準決勝では優勝する天理大に15-41と屈したが、それまでの過程に進化の足跡が浮かぶ。
飯沼は、前年度と今季との違いをきまじめに補足する。
「今年は、明大のテンポを出すための基礎の部分にずっと取り組んできた。順序だてて、自分たちのやりたいラグビーにフォーカスしてきた。だから、うまくいかなかったらその原因が自分たちでわかる。今後は、そういうことを試合中に気付いて、修正できるようになりたいです」
勝負はこれから。その意志をのぞかせる。日体大戦後から、それまでコーチ陣がしてきた試合の分析を4年生部員が実施し始めた。分析箇所を攻撃、防御、接点と分担し、映像を精査。続く24日の次戦に向けては、選手自らが対戦相手のプレビューをプレゼンしたようだ。
今年5月までトップリーグのリコーを率いた神鳥監督は「選手に責任を持たせるのも大事」と、学生クラブならではのタスクに取り組んでいる。
「最初は観察しながらコーチ主導で進めていましたが、こういう(自主性を促す)仕掛けをすることで選手たちがより自分たちの映像を見なくてはいけなくなります」
飯沼も、いまの方式になったことで選手のプレーへの理解度が増したと実感する。
「自分たちの足りないものがよりわかった。いい気づきがありました。チーム皆でAチームのプレーをレビューすれば、選手も(課題や焦点を)より理解できる。いい取り組みだと思います」
今度の相手は筑波大だ。専用の寮を持たないながらも、接点での激しさとスピードランナーを活かした攻めに活路を見出す。今季は上位を争う帝京大、早大にそれぞれ7-17、14-21と応戦。慶大には34-12で快勝している。
好調なライバルとの一戦を前に、明大が「危機感」を覚えるのは自然な流れだ。ただ、その「危機感」の醸成そのものがシナリオ通りと捉えられなくもない。
選手の身体操作、体調管理を任される里大輔は、自信ありげに言う。
「結果的にうまくいっていないように見えるところも、パフォーマンスとしては満足できます。例えば、ボールをこぼした。そこには判断やちょっとした技術のミスがあります。ただ、そこまでの(受け手が)走る速度、角度、タイミングは合ってきている。我々としては計画通りです。いまは(動きの)部品を組み上げている段階。まだ組み上げていない部分はこれからだな…というところです」
ここまでは主力のけが人にも泣かされたが、長らく離脱していた右PRの大賀宗志、FBの雲山弘貴ら前年度以前からのレギュラーがようやく戦列に戻ってきた。各自、激しいポジション争いに再エントリーする。
24日、自信を持って埼玉のセナリオハウスフィールド三郷に立ちたい。