今季初白星を挙げる。流経大ラグビー部の西山大樹主将が、取材用の撮影レンズに向けて述べる。
「2戦を落としていたなかでの勝利。素直に嬉しく思います」
10月16日、茨城県内の本拠地グラウンド。冷たい風が横殴りの雨を作り、人工芝の所々に水たまりができた。流経大が関東大学リーグ戦1部の3戦目に臨む。
試合終了間際にFBの河野竣太副将がトライとコンバージョンゴールを決め、31―27と逆転勝利。フィフティーンは安堵したか。
前年度の成績は8チーム中2位も、今季は初戦から同6位の大東大、同5位の中大に連敗。同7位の関東学大とぶつかる今度のゲームへは、背水の陣で臨んでいたような。
ただ、内山達二監督は「負けた過去は変わらない。きょう、これからに集中していた。特に、追い込まれていた精神状態ではなかったと思います」。西山はこうだ。
「連敗するなか、もう1回、自分たちのラグビーをやり直そうという意識で練習してきました」
勝つのは大変だった。試合開始早々に自陣でキックミスと反則を重ね、0—3と先制を許す。前半10分には自軍キックオフからプレッシャーをかけて7―3と逆転するが、終始、防御を崩すのに手こずる。西山は続ける。
「自分たちの(ボールを動かす)ラグビーをするなか、どんどん前に来るディフェンスだなと感じていました」
この日まで1勝1敗の関東学大は、横幅を保った防御ラインを鋭くせり上げる。特に、球を蹴った後のラインの繋がりは見事。球の落下地点の周りから壁を作り、強力なランナーを大外へ相手を追い込む。タッチラインの外へ追い出したり、落球を誘ったり。
「夏合宿からフォーカスしてきたディフェンスには、皆も自信を持っていた」
話をするのは芳崎風太。司令塔のSOに入って計5本のゴールキックを決めながら、鋭いタックルも連発する。
「チームで、ディフェンスをしています。内側(接点周辺)からの声が活きた(自身のタックルに繋がった)と思います」
前半23分、7―6と追い上げる。その折のペナルティーゴールのきっかけのひとつは、自軍スクラムからの自身のラインブレイクだった。
関東学大は続く35分、敵陣ゴール前左でモールを組む。普段参加しないBKの選手まで参加。なだれ込む。7―13と勝ち越した。
対する流経大はハーフタイム直前に14―13とリードを奪い返し、後半12、17分の連続トライで24―13と点差を広げる。しかし、勝負を決めるにはまだ時間を要した。
「ノックオーン!」
スタンドの応援部員が叫んだのは後半23分。敵陣ゴール前右で流経大のSO、柳田翔吾が球を落とす。
関東学大のSHで主将の三輪悠真が、すかさず圧をかける。ルーズボールに反応したのは、同じく関東学大でPRの兒玉隆之介だった。グラウンディング。直後のゴールも芳崎が決め、24―20と迫る。
関東学大は、試合終盤も堅陣を崩さない。30分頃には中盤で攻撃側の反則を引き出し、敵陣へ深く侵入する。ここで流経大は、さらなる試練に出くわす。
31分、FLの當眞真が危険なプレーで一時退場処分を受ける。事実上、最後まで数的不利の状態で戦うことになった。
危機的状況の流経大は32分、失点する。
この時、関東学大は敵陣中盤右中間の自軍スクラムで「アドバンテージ」と宣告されていた。向こうが塊を崩すなか、しばらくミスを恐れずに攻められる。
パスをもらった芳崎は、左大外へキックを放つ。落下地点に待ち構えたWTBの阿部竜二がタックラーを振り切り、そのままインゴールエリアへ滑り込んだ。
まもなくスコアは24―27となる。芳崎はこうだ。
「アドバンテージを積極的に使おうと。BK全員から『外側にキック』の声がかかったので、それを信じて蹴っただけです。いいコミュニケーションがありました」
40分。関東学大は最後も我慢の局面を迎える。相手にキックの選択肢がないのを見越し、15名中14名が前がかりで守る。
「タックルだけ!」
「ノーペナ!」
ベンチからの声に倣い、接点へはあまり絡まない。無用な反則を取られるリスクを減らし、分厚い網を敷く。
それでもエアポケットが、できた。
ロスタイム。流経大のSOとして途中出場していた荒木龍介が、パスダミーで目の前に穴をあける。直進する。最後尾で構えていた関東学大FBの川崎清純副将を引き付けると、その裏へキックを放つ。
弾道を追うのは、スピードに定評のあるFBの河野である。追いつく。ドリブル。
ポールの真下で楕円球に触れ、まもなくノーサイドを迎えた。
「強豪校はひとつのミスを突いてくることがわかった。そこまでいいディフェンスができていましたが、80分を超えてもそうできるよう意識したいです」
惜敗の芳崎がこう反省するなか、殊勲の河野が喜ぶ。
「逆転する強い気持ちをチームとして持っていました。自分が、獲りきる力を出しました」
かたや西山は、試合全体の流れを回顧する。
振り返ればこの日は、大きくパスを回す攻めで永山大地、當眞寮の両WTBがフィニッシュしていた。クライマックスの局面でも部是の「ダイナミックラグビー」を全うしたと、船頭は言う。
「シンビンが出た時はピンチでしたが、自分たちで、ワンチームで(点を)取り返そうと声をかけていました。自分たちのダイナミックラグビーができればスコアまで持って行けることは、前半から感じていました。後半ロスタイムも、信じて、アタックし続けていました」
チームは6月上旬からの約2か月間、活動を自粛した。クラスター発生のためだ。
再始動後もコンタクト練習を制限。9月26日に開幕したリーグ戦では、試合の強度へ対応するのに難儀した。西山は「ゲーム経験のところが足りない」と話したこともある。
今度の白星で、さらにギアを上げられるか。4戦目は31日。埼玉・セナリオハウスフィールド三郷で昨季8位の専大とぶつかる。
「きょう、この天候のなかでもボールを動かすダイナミックラグビーができたのは収穫です。ただ、過去2戦でも出たブレイクダウン(接点へのサポート)の課題は残ったままだと思います。これからの連戦。誰が出てもいいように、ワンチームで戦いたいです」
かたや関東学大は、惜敗も手応えを掴んだか。主将の三輪は語る。
「ディフェンスで圧力をかけられるところもできたし、雨のなかにあってはいい出来でした。でも、負けています。最後に流経大さんに(点を)獲られたのは自分たちの甘さ。勝ち切れたゲームを落としたのは、悔しく思います」
次戦の日時と会場は流経大と同じだ。相手は日大。前年度3位で開幕3連勝中の重量級クラブである。三輪は「もう1回、いいところを伸ばす。もっと自分たちのラグビーで感動してもらえるように準備していければ」と、明日を見据える。