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「ゴールデンエイジを預かる責任」。シャイニングアークスアカデミーが目指す先進的なビジョン。

2021.10.11

10月5日の体験会には約30名の小学生が参加した(撮影:BBM)

 リーグワンの開幕を前に、各チームは地域密着の取り組みを進めている。
 次世代を育成するアカデミー事業もそのひとつだ。

 シャイニングアークス東京ベイ浦安は、これまでのアカデミーとは異なる新たな価値を提供しようと動き始めた。

 同チームが運営する、浦安市、東京ベイエリア在住の小学生(U12)を対象とした「シャイニングアークスアカデミー」は10月19日に開校予定だ。
 5日と9日には体験会が実施され、ホームページとSNSのみの事前告知でそれぞれ約30名と50名の小学生がアークス浦安パークに集まった。

 同アカデミーは慶應キッズパフォーマンスアカデミー(慶應KPA)の協力のもと、プログラムを提供していく。横浜市を中心に活動する慶應KPAは、慶⼤⼤学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)と⼀般社団法⼈慶應ラグビー倶楽部が連携して運営するアカデミーだ。

 慶應KPAは特定の競技に特化した「技」の能力の向上を目的とせずに、さまざまな運動を通して「体」と「心」の成長をサポートする。
 慶應KPAの廣澤崇ヘッドコーチは、もっとも運動能力が伸びやすい小学生年代、いわゆる”ゴールデンエイジ”を「ひとつの競技に絞るのではなく、いろんな運動をやることが大切な時期」と語る。

「競技スポーツはルールから入る。あれしちゃいけない、これしちゃいけないと、極端に言えば”縛り”から運動を始めることになります。そうするとやらない動き、できない動きが出てきてしまう。この年代はルールのない中で自由に体を動かして、可能性を広げてあげることが一番大事になる」

 アカデミーの運営責任者でもある内山浩文GMも、こうした慶應KPAの考えに共感した。
「大切な子どもたちの大事な年代を預かる責任があるので、自分たちのメソッドだけで安易なものを提供することはできません。なので慶應SDMとの共同で、しっかりとしたガバナンスやプラットフォームを提供していく」

 シャイニングアークスアカデミーの体験会からもそうした意図は感じられ、ブリッジ、前転といった体操や正しい走り方のレクチャーなど、基礎的な運動に多くの時間が割かれた。ラグビーボールに触れたのは最後の10分程度だ。

体験会ではクロックセンサーを用いて30㍍走のタイムを計測。最新設備、技術が揃う(撮影:BBM)

 同アカデミーのもうひとつの特徴はデータの活用にある。アカデミー生にGPS受信機をつけて、運動量や運動強度などを測定。NTTコムのICTソリューションを駆使して、正確なデータでフィードバックをおこなう。

 廣澤HCは「これまではなんとなくできたとか、なんとなく上手くなった、で片付けられていたところを、きちんと可視化して成長を感じてもらう。データリテラシーを学んで、自分で読み解いて、さらに工夫をして、改善して…。自分の成長を自走式で回していければ」と狙いを話す。

 いずれは収集されたビッグデータを研究し、オープンシェアしていくことで、他競技や他分野にまで活かしていく考えだ。スポーツにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を模索してきた内山GMは、慶應SDMの神武直彦教授とかねてより付き合いがあった。

「これからはスポーツのデータを教育やまちづくりに活かしていかないといけないと話していました。データを見る楽しさが新しくスポーツを好きになる切り口になるかもしれないし、運動能力向上のためのアドバイスができるかもしれない。もしかしたら子育てに役立てられたり、どのスポーツに自分が合っているかを測れるベンチマークになるかもしれません」

 浦安市と連携して学校教育の現場に活かすことも、内山GMが描く構想のひとつにある。産官学で連携すれば、ラグビー界では初の事例となるだろう。内山GMも「トップランナーとしてやっていきたい」と意気込む。

「学校教育の現場では決してできないことをやる。ここまでのリソースをかけるのは、プロのスポーツクラブでも難しいかもしれません。これは(企業とプロの)ハイブリッドの良さだと思います」

 リーグワンが掲げるミッションのひとつが「社会に貢献する人材の育成」だ。内山GMはアカデミー生だけでなく、指導側の選手たちにも目を向ける。

「最終的にこうしたプログラムを教えられるというライセンス制度を作れれば、引退した選手たちが異動先の各地方でスポーツを活性化できる。それが分散型社会を作り、社会課題を解決できる糸口になるかもしれません。それはリーグワンの使命でもあって、選手は引退したら終わりではない。何かしらラグビーで活躍できる人材を世の中に出していくことも僕たちの使命です」

 シャイニングアークスは大きなビジョンのもと、アカデミー事業を開始する。

*10月17日開校予定のシャイニングアークスアカデミーは定員80人予定(小学1~3年生40人、4~6年生40人)。応募などの詳細はこちら

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前転や倒立などの柔軟な動きも身につけていく(撮影:BBM)