理路整然としていた。
「最高目標はラインブレイク3本とターンオーバータックル1本。最低の目標はアタックでは前を見ること、(ボールを呼び込むために)コールをすること、ディフェンスでははやいセット(位置取り)を置いていました。この試合で達成できたところは多かったのですが、はやいセット、(味方の)名前を呼ぶコール、2人目のサポートの部分で課題が見られたので、そこを修正していきたいと思います」
早大ラグビー部1年の佐藤健次は9月25日、関東大学対抗戦Aの日体大戦に先発した。96-0。東京・八王子市上柚木公園陸上競技場で開幕2連勝を飾る。「この試合での目標設定とその達成度合いは」という問いへ、過不足のない答えを示す。
試合を主催する関東ラグビーフットボール協会は昨季から、感染症対策のため公式戦後の取材機会を制限する。この日2トライを挙げた佐藤のインタビューは、記者に託された質問をチームスタッフが代読して進めた。
質疑応答に第三者が介することで、発言がぎこちなくなる選手もいなくはない。ただし春先から正NO8に定着するルーキーは、顔の見えない聞き手の意図を想像し、自分の言葉を練っていたような。
振り返れば、主将を務めた桐蔭学園高時代からノートを使って思考を整理してきた。日々の練習や試合の様子を「GOOD」「BAD」「NEXT」と項目立てて記し、現状把握と改善点の抽出に努めた。
主将として全国大会2連覇を果たすまでの間、頭と言葉で身体をドライブさせる感覚を勝ち得ていたのだ。
秋に本格化したシーズンの戦いについては、このように述べていた。
「(会場の)雰囲気、ひとつのプレーへの責任(の重さ)が自分のなかでもわかってきた。(開幕から)2試合ともミスをしている。次はミスを減らし、ゼロに近づけていきたいです」
高崎ラグビークラブを経て横浜ラグビースクールに入り、中学3年時の全国ジュニア・ラグビーフットボール大会で関係者の注目を浴びる。「神奈川県ラグビースクール代表」の突破役兼名黒子となり、準優勝という結果に涙を流しながら「世界のどんな相手にも通用する選手になりたい」と語った。
秋の公式記録上は「身長177センチ、体重98キロ」。強靭な身体を突破、ジャッカルに活用する。特に攻撃力は出色と謳われ、最近ではパワー一辺倒ではない動きも披露する。
球をもらう前、もらった直後にステップを踏む。防御の芯から逃れて前進する意識は、先の日体大戦でも見られた。大田尾竜彦監督、権丈太郎コーチの助言で進化したと笑う。
「大学に入ってから権丈さん、大田尾さんに『まっすぐ当たるのではなく、ショートステップを踏んで自分の間合いで当たるようにしたら』と言われ続けてきて、それが(試合に)出たのかなぁと思います」
力と技のハイブリッド型FWと言えば、堀江翔太が想起される。2019年までワールドカップに3大会連続で出場した堀江は、NO8を務めてきた帝京大を卒業後にHOへ転身。スクラムを最前列中央でリードしながら、球の動く場面でも存在感を発揮している。
佐藤も「自分が上(のレベル)に上がっていくなかで、HOというポジションを経験してみた方がレベルアップにつながると思った。世界を見た時、HOというポジションで日本代表のジャージィを着たいとも」と、将来的にコンバートを希望する。
両者に共通点がありそうだが、佐藤はあくまで佐藤である。かねてこう自己分析していた。
「走れて、強くて、パスも放れて、キックも蹴れて…。HOで何でもできたらすごいんじゃね? と、自分で思ったので。それが(いまのラグビー界では)堀江さんというにはなると思うんですけど、堀江さんを目指しているというよりは、自分が表現できるところがそこ(万能性のあるHO)なのかな、と思っています」
自分で考え、自分で進化する18歳は、10月9日、東京・江戸川区陸上競技場での筑波大戦でも背番号8をつける。