対戦相手と対峙する前に、超えなければならないライバルが大勢いる。
南アフリカ代表や日本代表候補をはじめ、外国出身選手ながら長くチームに在籍している男、そしてベテランも。
横浜キヤノンイーグルスの田畑凌(たばた・りょう)は、その中でチャンスを掴もうと必死に生きる。
京都産業大学から加入して3シーズン目。トップリーグへの出場はルーキーイヤーのカップ戦に1試合出ただけ(三菱重工相模原戦)。2シーズン過ごした中でリーグ戦出場はまだない。
「もう2学年分の後輩がいます。中堅の立ち振る舞いでいないと」と自覚する。
リーグワン元年は必ずピッチに立ちたい。
2年目の昨季はシーズン前に肩を脱臼し、復帰したのはシーズン中盤過ぎだった。
BKラインはコミュニケーションが重要だ。メンバー争いに割って入ることはできなかった。
そんな日々を過ごしたから、まず今年は「グラウンドに立ち続ける」ことが重要だ。
「日頃の練習から一貫して高いパフォーマンスを出して、コーチ、チームメートの信頼を得たい。そして練習試合に出て、いいプレーをする。それができれば、シーズンに結果も残せると思っています」と話す。
177センチ、93キロ。均整のとれた体躯を持つ。
武器は強さと勤勉さ。
「沢木(敬介)監督との面談でも話しました。誰よりもハードワークして、アタックでもディフェンスでも、1対1で負けないようにプレーします」と覚悟を決める。
CTBには南アフリカ代表のジェシー・クリエル、ベテランの南橋直哉、トンガ出身のハヴィリ リッチーがいて、経験値の高いマイケル・ボンドもミッドフィールドでプレーできる。
さらに、サントリーから梶村祐介も移籍。日本代表候補の加入で、さらに層が厚くなった。
梶村は高校時代(報徳学園)の1学年先輩で、ともにCTBを組んだこともある人。
実力をよく理解しているだけに、「一緒にやれるのは嬉しいし、楽しみですが、手強いライバル!」と話す。
ただ、その表情が暗くないのは、自分を成長させてくれる存在と知っているからだ。
「高校のときは手の届かない存在でした。その後、自分も大学、社会人とプレーして成長し、少しは近づけているかな、と思っていました。しかし(当然ですが)梶村さんも進化されていました。以前とは違う自分を見せ、吸収もしていきたい。『(キヤノンでは)こういうとき、どうするの』と聞いてもらえることもあるので、一緒に良くなっていけたら、と思っています」
1年目、2年目とコロナ禍の中で試合数が少なかったことも、実績のない自分にとっては逆風となった。
それだけに、リーグワンで試合数が増えるのは歓迎だ。「常にグラウンドに立てる準備をしておいて、巡ってきたチャンスをものにしたい」と語る。
沢木監督がアタッキングラグビーを前面に押し出した昨季を過ごし、そのスピリットは自身にも染み込んだ。
大学時代は日本代表キャップ79を持つ元木由記雄コーチの指導を受けた。
「CTBは強く前に出ろ、と教わりました。メンタルが大事、と。CTBは攻守の要なのだから弱気はダメ。BKでいちばんハードに、一貫して体を張れ、と」
12番が得意も、出番を得られるなら13番でも構わない。世界的ミッドフィルダーであるクリエルの動きを見て、学べることもたくさんある。
「彼のプロフェッショナルな取り組みは参考になるし、アドバイスもくれる」と、置かれた環境がどれだけ恵まれたものなのかを理解し、上を見る。
2022年1月に始まる新シーズンを「チャンスの年、勝負の年」と表現する。よりハードになる新リーグの中でチームに貢献したい意欲と、あとがない危機感が入り混じる。
開幕してからでは遅い。
10月、11月、12月のプレシーズンマッチに、テストマッチの緊張感を持って臨む。