大阪の「電通」である。
広告代理店ではない。校名は大阪電気通信大学高校。上がついているその私立共学校にはラグビーによる推薦入試がある。
「5年ほど前にできました。それもあって単独校として大会には参加できています」
顧問の農端悠亮(のばた・ゆうすけ)は話す。部員は36人になった。
ラグビーを含め、卓球、野球など6クラブにスポーツ推薦がある。魅力的な学校作りや生徒数の確保などを考え、各クラブの賛否を聞いた上で導入された。
学校創立は1941年(昭和16)。太平洋戦争勃発の年に東亜電気通信工学校として始まった。80年の歴史を有する高校の楕円球強化を農端は背負う。
頼もしい味方がいる。叔父の幸二だ。淀川工科の監督である。両校の距離は徒歩15分ほど。「ヨドコー」と呼ばれる名門は13回の全国大会出場歴がある。
「チームを持たせてもらってから、練習に行かせてもらっています」
農端は2010年、社会科教員として新卒赴任した。以来、この叔父に師事をする。
叔父は父・芳之(よしゆき)の弟にあたる。金岡から東海大に進んだフランカー。土井崇司の高大の後輩で、大学はひとつ下。土井は付属校の仰星に創部し、強豪化させた。現在は同じ付属の相模の中高校長をつとめる。
叔父の元に「出げいこ」に通うのは別な理由もある。平日の練習は2時間半ほどだが、校内のグラウンドが狭い。土で50×40メートル。その場所を野球とサッカーで分ける。淀川工科は公式戦開催校。フルサイズのグラウンドでのびのびと練習ができる。
グラウンドの不利とは真逆、交通は至便だ。京阪は急行停車駅の守口市、大阪メトロは守口駅から徒歩10分ほど。学校のある街は大阪市の東に隣り合う。
「特別なことはしていませんが、今の2年生からなぜか生徒が増えました」
1、2年は各100人増の400人超え。アクセスのよさと生徒増は無関係ではない。
ラグビー部の創部は1973年(昭和48)。2年後に50周年を控えるが、全国大会などの出場はない。府予選は3回戦進出が最高だ。現在の顧問団は3人体制。農端のほかに中村文彦と吉川尚道がいる。
直近の大会、76回目の大阪府総体(春季大会)は桃山学院と牧野など7校が組む合同Fの予選リーグを勝ち上がる。しかし、一番下のシードを決めるCシード決定戦(7〜12位)はコロナの緊急事態宣言発出のため、中止になった。
その前の72回目の近畿大会予選(新人戦)はBブロックで2つ勝つ。都島工と汎愛(はんあい)の合同Dには24−10、北野を67−19で降した。準決勝では冬の全国優勝5回を誇る常翔学園には0−148と大敗する。
「目が覚めました。1個か2個、何かできるかな、と思ったけど、何もできませんでした」
農端は肩を落とすが、2勝の戦績が示すように、普通の相手なら負けなくなってきている。これからの課題は、トップチームとの差をいかに詰めていくかである。
農端は34歳。小学校の6年間、堺ラグビースクールに籍を置いた。父は登美丘(とみおか)でラグビーを経験する。今、この高校はダンスで名を馳せる。農端は高校で競技を再開。初芝(現・初芝立命館)から関西Bリーグの甲南大でプレーを続ける。ポジションはスクラムハーフだった。
教員になったのは叔父の影響もある。体つきは同じ。どちらかと言えば短躯(たんく)だが、がっしりしている。
「農端家のDNAです」
笑顔が広がる。
「おじさんは中学生勧誘など色々なことを丁寧に教えてくれました」
特定の中学と信頼関係を築け、むちゃくちゃ行くな、と言われた。その教えを守る。関係の深いのは中宮(なかみや)。この中学は今年、日本一の呼び声が高い
勧誘のひとつの長所は、「デンダイ」と呼ばれる大学つきの提案ができることだ。
「7年でどうですか、と話ができます」
入学を希望すればほぼ100パーセント通る。入学金免除などの利点もある。
高校は工学科と普通科の2科制。今風のロボットやデジタルゲームを開発する工学系のみならず文系も設置して、生徒をすくうようにしている。スポーツ推薦の合否は国英数理社の5教科と体育を合わせて勘案される。
「課題を持った子は指導します。今まで勉強だけでドロップアウトした子はいません。それもウリです。グランドもない、戦績もない、そこだけで部員とは関係を作っています」
農端は力を込める。
主将でスタンドオフの鎌田龍也(かまだ・りゅうや)は笑顔を浮かべる。
「毎日、楽しいです。練習の雰囲気はいいし、友達も増えました」
鎌田ら3年生13人にとって最後になる101回目の全国大会予選の1回戦は10月10日。相手は叔父の淀川工科に決まった。
参加44チームが3地区に分かれる中、同じ第1地区、そして初戦で対戦する。
「縁やなあ、って思います。ここまで強くなったのはヨドコーのお蔭。やっつけて、おじさんに恩返ししたいと思っています」
叔父は今年還暦を迎え、定年退職となる。その後は最大5年の再任用を希望する予定だが、この大会はひとつの節目になる。
甥の成長か、叔父の威厳か。万感の思いがこもる戦端はまもなく開かれる。