ともかく、試合はできた。
よい思い出として残る。
9月20日、中学日本一を決める太陽生命カップの最初の代替試合があった。コロナで2年連続の中止にならなければ、この20日が3日間開催の大会の最終日。男子は12人制、20分ハーフで行われ、中学校とラグビースクールの2部門で争われる。
天理親里ラグビー場では、大阪の中宮(なかみや)と奈良の天理が戦う。両校は中学の部で出場予定だった。スコアは28−22(前半21−10)。中宮に凱歌が上がる。トライは同じ4つながら、勝敗はゴールキック差でついた。
「選手たちはよくやってくれました」
監督の黒田義則は破顔する。
中宮は優勝候補筆頭だった。今年6月、東海大大阪仰星の持つ公式戦連勝記録を50で止める。府総体の決勝は34−0。仰星はそれ以前も1敗を挟んで51連勝していた。1敗は主力の3年が海外への修学旅行で欠場したため。万全で試合に臨めていれば、連勝は最低でも101。太陽生命カップも2017年の8回大会から3連覇していた。
中宮の強さは経験値の高さにある。13人の中3のうち、8人が小6で全国準優勝をする。ヒーローズの決勝は東大阪KINDAIに10−25。学校のある枚方(ひらかた)は「弾力化」を採り入れており、校区の中学に希望する部活がない場合、市内で越境が許される。
その8人にコーチングが溶け込む。黒田はこの11月で42歳。保健・体育教員でもある。楠葉(くずは)と蹉駝(さだ)の2中学を赴任したその時々で強くした。仰星や東海大の現役時代はフッカー。その経験と選手の能力からワイドラインを使う。東福岡のように長いスクリューパスで相手の穴を広げ、突く。
天理は意識が外へ行く。その隙を突き、前半1分、井本章介が密集を突き破る。同17分にはキックカウンターの菅原幹太からボールをもらい、ゴールラインを駆け抜けた。背番号4のロックはチーム最多の2トライを挙げる。後半18分には相手を吹き飛ばすタックル。一時退場をさせる。その突破力、追走、守りは奥井章仁の楠葉中時代と重なる。帝京大2年のフランカーは世代の中心にいる。
井本の体格は176センチ、88キロ。自身の自主練習を聞かれ、こう答える。
「天井に向かって、手をつくようにジャンプしています。1回は2分間くらいです」
体重は食事で増えるが、身長を伸ばすのは難しい。井本はその部分にトライをする。向上心は強い。
上田倭楓(いぶき)は、4本のゴールキックをすべて決める。背番号7をつけスタンドオフに入る。最初の2本は左中間、右中間と高校生でも難しい位置だった。前半10分にはイン切りでインゴールにも飛び込んだ。13得点と獲得の半分近くを叩き出した。
「ゴールキックは淀川の河川敷にでっかいHポールが立っているんで、そこで蹴っています。自転車で40分ほどかけて行きます。目標は田村優さん。キックは正確だし、パスも胸の位置に来ます」
キヤノンと日本代表の司令塔に範を取る。
経験者が軸になる中宮に対して、天理は兄貴分の高校との太いつながりを感じさせた。攻めはフラットのショートライン。守りはダブルタックルを決める。
「最低でも月に1回くらいは合同練習をさせてもらっています」
監督で事務職員の渡辺徹は話す。この大会での優勝回数は最多の3。仰星と並ぶ。
前半14、20分には高校も得意のラインアウトモールを押し込んでトライ。最初は9人、次は8人と圧力をかけた。
「試合は、はいりが悪かったですね。受けてしまいました」
渡辺は敗因を開始10分までの連続失トライに見る。この2校は今年3月、練習試合をした。その時は中宮が40点ほど獲り、天理はワントライ。過去の力関係も影響した。
この代替試合が正式決定したのは1週間ほど前。両校ともそれまでは部活動を停止していた。大阪では非常事態宣言が出ており、奈良は宣言こそなかったが、市の要請を受け入れる。試合は、「全国大会」、という特例に加えられ、練習が再開された。加えてこの日の奈良の最高気温は31度。調整不足に残暑もあった。それでも井本はにっこりする。
「試合ができてうれしかったです」
試合後には、大会開催なら参加記念品になった赤いタオル、ピンバッジなどが両チームに贈呈された。立ち会ったのは松原忠利。関西ラグビー協会の中心になる理事長だ。竹内哲也は試合などを映像におさめた。日本ラグビー協会のマーケティング部長は東京から泊まり込みで奈良に来る。当日の運営を支えたのは北畑幸二。主管の奈良県ラグビー協会では書記長である。レフリーはベテランの立川誠道。関係者は努力をする。
「子供たちにとっては十分ではないかもしれないけれど、去年は大会そのものがありませんでした。そのことを考えると協会をはじめ関係者の方々はよくやって下さった。感謝したいです。ありがとうございました」
黒田は謝辞で結んだ。
この代替試合、ラグビースクール部門の芦屋と伏見の試合などは10月10日に予定されている。関東では10月下旬をメドに調整されている。参加を予定していた中学生たちをなぐさめる試みは、しばらく続いて行く。
◆先発メンバー◆
【中宮中】
1竹崎司②
2西岡凌我③
3花岡透真②
4井本章介③
5永井豪③
6村上栞汰③
7上田倭楓③
8山添仁琴③
9名取凛之輔❸
10菅原幹太③
11鷺森大晟③
12伊勢亀大悟②
【天理中】
1奥村勇介③
2清家陸③
3平岩悠三③
4内田旬③
5門脇諒真③
6酒井健晴③
7安川和志③
8田中源太③
9生野壱②
10北原隼②
11隅田陸斗③
12山崎祥永❸
※丸数字は学年。白抜きは主将