従来の地方協会のイメージには収まらない。
リーグワン1部所属のNECグリーンロケッツ東葛が9月15日、ホストエリアである千葉県流山市と連携協定を結んだ。同日に同市市役所で協定締結式があり、NECグリーンロケッツ東葛から梶原健代表、流山市から井崎義治市長らが参加。「ラグビーを通じた地域振興・地域貢献の相互連携に関する協定書」に調印した。
この場に参加していた創設1年目の新興協会が、流山市ラグビー協会だ。
流山市在住の元トップリーガーたちが名を連ねる。会長は協会創設者で、元IBMの川合毅さん。流山市の「流山ラグビークラブ グレイトホークス」のクラブ代表であり、母校法政大のアシスタントコーチも務める。
副会長は3人。クボタでスクラムコーチを務めた佐川聡さん。同じくクボタで活躍した松下寛朗さん。日大BKコーチの森田茂希さん(元NEC)。
顧問を務めるのは、パーソナルトレーナーとして活躍中の首藤甲子郎さん(元NEC)だ。
錚々たるメンバーだが、協会は今後「スポーツ経験も国籍も問わない」という方針で、多様な人材を招こうとしている。40代前半の川合会長は言う。
「私達の大きな夢は『子どもたちが当たり前にラグビーボールで遊んでいる風景』です。その実現のためには子ども達への普及活動が大事だと思っています。本気で普及を考えるなら、ラグビー経験者だけで構成された組織より、多様な経験を持つ皆さんに参画してもらった方が将来性、発展性があると思っています」
「スポーツ経験がない方でもいいですし、外国人の方でも問題はありません。制限を設けずに人材を募集して、いろんなアイデア、能力を結集させ、流山市が提唱する『良質な街づくり』にも貢献する協会にしたいです」(川合会長)
すでにマーケティング担当として協会、クラブに参画しているスポーツメーカー勤務の妹尾さんは野球経験者だ。多忙な仕事のかたわら、競技経験のないラグビーの団体の運営に関わっている。
「2019年のワールドカップを観ていたので、そもそもラグビーに対して『ラガーマンは紳士』といった良いイメージを持っていました。コーチをしている元トップリーガーの皆さんも良い方ばかりです。そんなラグビーの普及に携われたらと思いました」(妹尾さん)
事務方は、国家公務員の楠木さんが担当。犯罪者や非行少年の社会復帰支援施策に携わりつつ、コロナ対策の指針作成などをボランティアで行う。楠木さんは高校時代にラグビーを経験しているが、人材募集の方針について川合代表の考えに賛同している。
「代表が言っているように、女性、というか、『男性以外』の参画は必須だと思います。また多様性文化のあるラグビーだからこそ、子ども達のLGBTQ(性的少数者)の方への受容の態度を育んでいくのに貢献できることもあるだろうし、ジェンダー平等に向けた取組みができるのではないかと考えています」(楠木さん)
多様性の尊重は、協会メンバーの子ども達が通うグレイトホークスと共通している。
グレイトホークスのコーチは約30名。その多くがラグビー未経験者の保護者というから驚きだ。
國學院久我山−日大−クボタの松下さんは、クラブのヘッドコーチとして大勢の保護者兼コーチをまとめつつ、親と子どもが一緒に楽しめる練習プログラムも考案している。
「子どもは未経験者がほとんどなので、プログラムは『楽しい』を最優先し、小学校学習指導要領体育編を参考に開発しています。コーチの皆さんに対しては、プログラムの内容が一目で分かるように工夫して、ラミネート加工して練習前に掲示しています」(松下さん)
ただしラグビー未経験者のコーチもプログラムのブラッシュアップに参加し、積極的にアレンジを加える。「これは本当にすごいこと」と驚くのが、啓光学園(現常翔啓光)−立命大−NECの森田さんだ。
「一般的にラグビースクールのコーチは経験者が中心だと思いますが、グレイトホークスでは、ラグビーをやったことがないお父さんたちも参加してメニューを完成させています。これは本当にすごいこと。いつも感心しながらコーチをしています」(森田さん)
グレイトホークスは市内の江戸川大学とコラボしており、授業の一環で子どもたちを高級カメラで撮影してくれる。スマホ片手に子どもを追う必要がなくなり、一緒にラグビーボールで楽しめる。そんな環境が“保護者兼コーチ”の増加にひと役買っている。
そんな高級カメラで撮影された我が子の写真を「祖父母に贈っています」と笑うのが、桐蔭学園−早大−NECの首藤さんだ。
プロアスリートなどのパーソナルトレーナーとして活動する首藤さんは「感覚の言語化」を切り口にパフォーマンスを最大化させる独特な指導スタイル。立教大ラグビー部、ラクロス部、プロバスケットチーム「福島ファイヤーボンズ」のパフォーマンス向上にも携わっている。
グレイトホークスでは最上級生にあたる小学2年生以上を担当し、協会では顧問として「元選手という立場を活かして魅力を発信しつつ、スポンサー獲得などにも貢献できれば」と展望を語ってくれた。
協会の今後について、地域協会という立場にこだわらず「世界に出ていきたい」との思いを抱くのが、崇徳−龍谷大−クボタの佐川さんだ。クボタで選手を11年、コーチを9年務めたスクラムコーチは、豊富な経験、国際的な人脈を持っている。
「もちろん拠点は流山市に起きつつも、今後は世界と繋がっていきたいですね。その可能性がある協会、メンバーだと思うんです。元トップリーガーの5人に加えて、妹尾さんや楠木さんのような方もいます。協会メンバーや地域のコネクションを活かして、現在の海外のアカデミー事情、ラグビー人口動向、育成や強化の情報を集めて、発信したり企画したりしたいです。こうして言っていれば実現するような気もしますし(笑)」
人口減少が続く日本にあって、流山市は人口増加率で全国792市中で4年連続1位だ。
勢いのある流山市に生まれた、従来の地域協会のイメージに収まらない流山市ラグビー協会。今後どんな発展を遂げていくのか楽しみだ。