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FB中洲晴陽[近大]は「絶対にやれる」。初の天理撃破へ、最後の挑戦。

2021.09.17

近大のFB中洲晴陽はボールキャリーが武器。日本代表、松島幸太朗のプレーを参考にする(撮影:宮原和也)

 関西大学リーグにとっては2年ぶりに、総当たりのリーグ戦が始まる。
 開幕カードのひとつが、昨季日本一の天理大と近大の対戦だ。近大は昨季、コロナウイルスの影響で順位決定戦を棄権。8位(最下位)にまわったことで、この2校が初戦でぶつかることになった。

 近大はこの初戦に並ならぬ思いで挑む。
 主将のCTB福山竜斗はまだ1年生の時、同期に言った。
「4年で天理を倒そう」

 1年の秋に初めて天理大と対戦し、0-50で敗れた。力の差を痛感し、今から意識して努力しないと差は縮まらないと思った。

 今季はその天理大と勝負できる実力者はそろう。4年生にはPR紙森陽太をはじめ、世代別代表や下級生からレギュラーの選手が多い。1年時から出場を続けるFB中洲晴陽(はるや)もそのひとりだ。

 福山主将の言葉を証言する。
「竜斗は4年の時に俺らで絶対に天理を倒すと、本当にずっと言っていました。だから僕らの学年には常にそのマインドがあって、同じ気持ちで過ごしてきた」

 春のトーナメントは5位に終わった。でも2回戦では天理大を苦しめる。
 これまで大差をつけて敗れていた相手に、22-27で惜敗。後半30分まではリードしていた。
「最後の最後に取り切れずに負けてしまったのが、その時点での実力だなと。勝負弱さが出たし、そこで勝ち切れるのがやっぱり天理。ゴール前での意地というのを見ました」

 中洲が入学して以降の近大は、関西リーグ6位、5位、8位。いずれも下位に甘んじている。
「この3年間は悔しかったです。いつも惜しいところで落としてきた。その勝負弱さがずっとあるので、今年はいい勝負で終わるのではなく、勝ち切りたい」

 今春はフィジカル、ディフェンス、フィットネスの強化を掲げ、夏は合宿を実施できない中でも引き続き強化してきた。
「レベルアップできてる実感はあります。フィットネスは去年まで1、2種目くらいでしたけど、今年はフィットネスの時間がしっかり設けられて取り組むようになりました」

 フィットネスの強化中も意識するのは天理大だ。
「キツくなったところでも、『天理だったらここからもう一段上げてくるぞ』という声かけが出てくる。自分たちはその上にいかないといけないので、もう一個ギアをあげようと。強いチームは、後半の後半に集中力を上げてくる、それを自分たちもやる」

 中洲も最高91㌔まで増えた体重を85㌔まで絞る。当たり負けせず、かつ走れる体に仕上がってきた。
「最初はぽちゃぽちゃしてたんですけど(笑)、今年に入って絞れてきた。ブロンコの計測タイムも上がってますし、仕上がりは良いです」

 ラグビー一家に生まれた。玄海ジュニアラグビークラブに入ったのは、まだ2歳10か月のとき。ラグビーをしていた父の影響で、「気づいたら」楕円球に触れていた。一歳上の兄、6人の従兄弟とみんなでグラウンドに通うのが日課だった。

 高校は兄を追うような形で筑紫に入学。1年時は福岡県の枠が増えた95回目の全国高校大会に出場する。早くも花園の芝に足を踏み入れた。
 1回戦で東京朝高を26-19で破り、2回戦でシード校の大阪桐蔭に10-31で敗れる。中洲は正SOとしてグラウンドに立ち続けたが、「ビビッて思い切ったことはできなかった」。

 翌年の春も選抜大会に出て、2度目の全国を経験する。ここでは予選リーグで全敗に終わった。
 全国大会にあまりいい思い出はない。

「高校時代は自分が通用している実感がなくて、自信がなくて。ビビりだったんです」

 大学入学後もそうだった。

 1年時から15番に定着した。関西大学リーグの初戦はメンバー外も、けが人の影響で2戦目からリザーブ入り。3戦目で先発の座を勝ち取った。でも自信はなかった。
「ボールキャリーが強みなのに、カウンターにいけなくて、パスとかキックに変えていました」

 初先発は冒頭の天理大戦だった。0-50の完敗。
「何もできませんでした。それが悔しくて」

 福山主将が天理を本気で倒そうと言った時、自分も同じ気持ちだった。それが中洲の分岐点になった。

 このままではダメだと努力し続けたら、いつしか弱気な自分は消えていた。
「試合を重ねていく中で、1年生の終わりあたりからボールキャリーが通用していると感じるようになりました。意外といける、そんなにビビらなくていいんだと。自信持っていけるようになりました」

 最上級生となった今季はBKリーダーとしてチームをまとめる。福山主将は先頭で引っ張ってくれるから、自分は一歩引いて落ち着いて指示を出す。
「FBは1番後ろなのでみんなのことが見える。チームは結構、感情的になってしまうところがあるので、落ち着かせるような言葉を言ったり、みんなの顔色を見ながら声をかけたい」

 中洲にとって、関西リーグで天理大を倒すラストチャンスは、9月19日14時、キックオフ。
「始めは天理に勝ちたいな、だった。でも今は絶対勝つ、という強い思いに変わってる。絶対にやれると思います」