高校、大学、そして社会人でもキャプテンになった。すんなり3つのカテゴリー、ではない。今回は葛藤があった。
花園近鉄ライナーズは9月2日、アナウンスを発した。野中翔平が主将に就く。この11月で26歳になるFLである。
打診は新ヘッドコーチ(監督)になった水間良武からだった。同志社の先輩である。
「正直、うーん、という感じでした。代表に選ばれたり、世代のカテゴリーに入っていた訳でもありません。力不足だと思いました」
代表歴は関西学生のみである。
一方でチームを見る。自身、所属4年目に入ったが、一度もトップリーグで戦っていない。勝ちたい、という思いは強かった。
「降格が卒部式と重なりました。午前中はみんなが、『頑張れ』と言ってくれましたが、夜は『おつかれ』に変わりました」
2017年度の最終戦、近鉄はNTTドコモに13−21。最下位16位が決まり、トップチャレンジに自動降格する。
この4年時、野中は苦い思い出が残る。部員の信任を軸に主将についたが、関西リーグは6位。3勝4敗で関西学院、関大と並ぶも、両校に14−21、5−14と負ける。優勝42回を誇る同志社の6位は2回、7位は1回。終戦の翌1946年、関西の大学ラグビーが再開されてからの記録である。6位はワーストに近い。無力感にさいなまれた。
「仰星って全員でやる。戦術をバチっと決める。それで優勝しちゃった。これが『正しい』とチームに持ち込んだ。ラグビーはこうでしょう、と。そして、頭を打ちました」
野中の日焼けした柔和な顔はゆがむ。
同志社へ行く前は東海大仰星に通った。高1からNO8でレギュラー。3年時には先頭に立って全国優勝を呼び込む。93回大会(2013年度)は決勝で桐蔭学園に19−14。同校3回目の頂点だった。仰星は決勝前日でも、普段と変わらず、中等部を含めた150人以上の部員で同じ練習をした。
同志社に成功体験を持ち込んだ。そして、6位という現実を突きつけられる。仰星時代の恩師・土井崇司はその理由を推測する。
「野中は熱過ぎたのでしょう。熱いことは大事。でも、彼の当時の熱さは仰星でしか通用しない。大学生は勉強も含め、遊びや異性にも目が向いてしまいますから」
ラグビーに一途になれない者を許容できなかった。結果、孤高の人になる。
「大学の時は、全員でやろう、と言って、ほんまにやってたんか、と思います。あの時の不満や悲しみを浮かべた部員たちの顔が今でも浮かぶことがある。結局、正解なんてわからない。成功を重ねて、正解にしていくことが大事なんじゃないかと今は思います」
その挫折を経験しても、ラグビーは「全員でやるもの」と信じる。
「近鉄の1年目、メンバー外の席で試合を見ました。選手がミスをしたら笑う人がいた。チームがひとつではありませんでした」
新人時代、恥部を見る。
「試合に出られなかったら悔しい。その感情が大半を占める中でも、メンバーやチームを応援する気持ちがないといけない。メンバーも出られない人たちの応援を引き出すプレーが必要です。そういう中に充実感がある。それがないと勝っても意味がありません」
2、3年目はリーグ戦に全試合先発する。183センチ、100キロの体を利したタックルと続くボール奪取を評価された。出られない、出る、という両方の気持ちを知り得たことはリーダーとしての幅の広さにつながる。
副将には3人を指名した。HO樫本敦、FLジェド・ブラウン、そしてオーストラリア代表110キャップを持つSHウィル・ゲニア。3人とも年上。学年でいけば樫本とゲニアは8つ、ジェドとは5つの差がある。
「今年の強化ポイントのひとつはスクラム。樫本さんはそこを分かっているし、主将経験者です。ジェドは人間性がいい。自分の技術を惜しみなく他人に伝えます。『その態度はよくない』ということも言える。ゲニアは世界最高の選手。勝つことを考えられます」
ブラウンとは同じポジション。自分が出られなくなる可能性より、チーム・ファーストで考える。困難は承知で、過程と結果の両立を求める。試合出場やそうでないに関わらず、部員の満足度を保ち、同時に勝利する。自分を含めた4人を軸にそれ実現させる。
全体を思いやるのは野中家の家風でもある。実家は建築資材を扱うケイロン産業。祖父の昇は創業者会長、父の尊(たかし)は社長だ。野中は三代目になる。
「働いてくれている人は100人くらいいるかと思います」
大阪・寝屋川の本社を含め西日本に10か所の支店などを持つ。年商は100億円だ。
「祖父には色々なことを教えてもらいました」
恩返しのため、昨年、プロになった。空き時間で家業を手伝う。それまでは近鉄グループホールディングスの総合職として、鉄道に勤務していた。100社以上のグループ会社を統べる社長になる可能性を返上し、まずラグビーに集中する。そして、家のことをやる。
チームは9月13日から4日間、和歌山・白浜で新チーム初の合宿を行った。初めて全選手が顔を合わせた。本格的な始動である。野中は目標を口にする。
「チームはディビジョン2なので、1年でディビジョン1に上げることです」
トップリーグから新装されたリーグワンでは二部に振り分けられている。
高校の栄光、大学の挫折。順番からいけば、社会人では栄光と再会するはずである。