自分は自分だ。言葉にしなくても、立ち姿で、動きでその意を表す。
明大ラグビー部1年の安田昂平は、9月12日、東京は八幡山の本拠地グラウンドにいた。チームが昨季制した、関東大学対抗戦Aの初戦に挑んだ。
身長181センチ、体重86キロと堂々の体躯で、グラウンド最後尾のFBに入った。切れ長な瞳の奥を光らせ、ウェイブのかかった髪をなびかせた。自陣からのロングキック、さらにはユニークなフットワークを披露した。
前半25分頃、敵陣22メートルエリア右で走る。最後は落球も、そこまでの過程に独自性をにじませる。球をもらう前から外側へ膨らむよう加速。タックラーの手の届く範囲から、巧妙に逃れようとしたのだ。
続く37分には、それと同種の走りとオフロードパスを組み合わせ、組織的なラインブレイクを演出する。まもなく味方がトライを決めた。
そこまで明大は、昨季最下位という青山学院大のタックルに手こずっていた。安田のプレーをきっかけに14-3と点差を広げ、最後は52-3で勝てた。開始36分でレッドカードによる退場者を出しながらの白星で、かえって地力の差を示した。
記者がクラブ側に質問を託したリモート会見において、期待の新人は課題と収穫を整理して述べた。
「よかったところは、ボールをもらえたらゲインラインを切れたこと。悪かったところは…。もうちょい、積極的にトライチャンスを狙えたらなと思うところがありました」
奈良の御所実高時代に17歳以下日本代表入り。小学6年で地元の御所ラグビースクールへ入る前から、「僕、人と被るのが好きじゃなくて」。持ち物や行動で周りと差をつけたい、との意味か。幼少期にサッカーを始めた頃も、周りの子どもが買っていない「ナイキ」の珍しいスパイクを選んだ。
生来の気質は、進路選びにも影響した。
現所属先との出会いは高校2年時。当時の田中澄憲監督がいち早く声をかけ、本人はすぐに前向きになった。
「一番、声をかけてもらうのが早かったのが、明大だった。それが(明大を希望した)一番(の理由)。あとは日本一を獲れるチームに入りたい、という思いもありました」
御所実高とパイプが太いと見られる大学は、他に複数ある。安田も明大の田中前監督との出会いの後、高校の竹田寛行監督、別な強豪大の指揮官との三者会談をおこなっている。
「高校2年の花園(全国大会)の時期だったかと思います」
その折、安田は正直かつ紳士的に意思を伝えている。先方の指導者がわずかに離席したのを見計らい、信頼する竹田監督へ「僕が行きたいのは明大なので、明大に行かせてください」と告げた。
そして今季、80名以上いる現役部員のうち御所実高出身者は安田と同級生の登根大斗を含めて2人だけだ。
安田が「僕、人と被るのが好きじゃなくて」と言ったのは、この話題に触れた時だ。早期のラブコール、全国優勝13回という実績以外にも、明大志望の理由があった。
「(他の御所実高OBとは)違う道に行きたかった。御所実高から明大というルートがあまりなかったこともあり、自分が明大に行こうかな、と」
春は高校時代に負ったけがを治しながら、主力グループと行動できた。
「毎日、充実している感じです。ご飯を食べる時も栄養士の方がついている。高校生だと偏って食べちゃうところ、大学生はしっかり全部を(バランスよく)摂っている」
復調するや出番も得られた。6月13日には、対抗戦で上位を争う帝京大との招待試合に後列端のWTBで登場。圧巻のフットワークでトライを決めた。
「ボールを持ったら勝負できる。それまでの過程というものを学んでいけたら。コミュニケーション、ボールを持っていない時の動きを重点的に取り組んでいきたいです」
肉体強化にも着手する。6月20日の招待試合で対する天理大の留学生のフィジカリティに「えぐい」と驚き、己に課すハードルを高めている。
高校時代は司令塔のSOにも挑んだが、今後はWTBとFBでのプレーを希望する。
「トライを獲るのが好きで、走ることが好きなので」
現体制の日本代表は大学生の抜擢を控えて久しいが、選考基準には心身両面でのタフさ、チーム戦術への適応力、さらには「キャラクター」を掲げる。
強化に携わる関係者の1人は、リーチ マイケル、稲垣啓太ら個性豊かな隊列でワールドカップ日本大会8強入りを果たしたのを受け「キャラクター」の重要性をしみじみ語ったことがある。
長らく人のまねをせずに生きてきた安田は、無意識的にではあるが挑戦権には手をかけていそう。「大学生なんで、(日本代表入りが)夢じゃなく目標に変わった」。高校で果たせなかった日本一達成を目指しながら、その向こう側にも目を向ける。
「御所にもいい顔をして帰れるようになりたい。恥のないプレー、恥のない行動をして、最終的には日本代表に選ばれたら。シンプルに、一番うまくなったら入れるかなと。WTBには御所実高の先輩でもある竹山晃暉さん(現 パナソニック、2021年のトップリーグで新人賞獲得)もいるなか、勝負しなくてはいけない。努力していきたいです」
今年6月に就任の神鳥裕之監督には、「春の帝京大戦でだいぶ、スケールを感じました。大事に育てたいです」。そのままの個性を期待される。