正直に向き合う。帝京大ラグビー部4年の細木康太郎は、主将となるや岩出雅之監督から「正しい方向に向かって行けよ」と告げられた。
1996年に就任した指揮官の心は、「(進む道が)斜めになったとしても、真っ直ぐ、自分で正しい方向を見極め、判断してくれれば。もし間違っていれば修正したらいい」。100名超いる部員をどうリードするかに関し、自分で正解を考え、提示してゆくべしとの思いを伝えたようだ。
では、その「正しい方向」とは何か。
この話題に触れたのは6月13日。静岡・エコパスタジアムで明大との招待試合を32-28で制した直後のことだ。
岩出監督が「僕が思うことを伝えることは簡単なんですけど、それでは言われたことをやっていることになってしまう。学生スポーツの大事なところは、僕らが経験側で伝えるよりも学生自身で見つけてくれた方がいい」と述べるなか、細木はこう言葉を選ぶ。
「まだ、正解というはっきりした道が見えていないのですけど…。そこに正解はなく、実際に考えて、考えて、行動に移していくことが、正しい方向に向かっていくこと(につながる)。僕が間違った選択をしてしまう時も、副将の2人(上山黎哉、押川敦治)が指摘をしてくれて、常に新しい、正しい方向を見据えていけているのかなと感じます」
身長177センチ、体重110キロの右PR。神奈川の桐蔭学園高時代から突破力とスクラムの強さを長所とし、帝京大ではけがに泣かされながらも下級生時から出場機会を得てきた。いまは船頭役として、大学選手権9連覇を果たした2017年度以来10度目の大学日本一を目指す。
岩出監督いわく、「(細木からは)言葉に飾りがない分、すごく爽やかな、純粋なエネルギーを感じる」。大学ラグビーシーンは、新手のウイルスに世界が覆われてから2度目のシーズンを迎えている。寮内でのクラスター発生を防ぐための指針について、細木は確かに「飾り」と無縁の思いを語っている。
8月に実施した夏合宿中は、グラウンドとホテルの行き来のみに行動を制限した。コンビニエンスストアへの出入りは平時から禁じているようだ。20代の青年が窮屈さを覚えそうなルール設定について、「正直、ストレスがたまる生活を送っていると思います。ただ…」と、こう述べるのだった。
「1人でもコロナになったら活動が停止してしまうような状態です。感染対策をおろそかにすることと日本一を狙うことを天秤にかけています。日本一になりたいから感染対策をするんだ、感染対策は日本一になるための手段だというふうに捉えてもらって、(部員には)がまんしてもらっています。いまは関係者、(試合の)相手校、自分たちのコーチングスタッフなどの関わっている人に感謝しながら、ラグビーができる幸せをかみしめています。ただ、目指しているのはラグビーができる幸せをかみしめることだけではない。さらに高みを見据えています」
勝つことを目指す。それを果たすための「正しい方向」が何かを考えれば、生活習慣の見直しも避けては通れない…。かような行動規範を、自分たちの頭と心でこしらえようとしてきたのだ。シーズンが本格化してからも、己の本能、己の哲学、己の仲間の声に正直に向き合う。