「最初から最後までハードワークをして、ディフェンスでもオフェンスでもアグレッシブにプレーする。私はそういうラグビーが好きだ」
ケビン・オアー日本代表ヘッドコーチ(以下、HC)が、パラリンピック最後の試合を前に、チームに送ったメッセージだ。
「僕もケビンの目指すラグビーが好きです」
キャプテンの池透暢はそう返信した——。
東京パラリンピック、車いすラグビー競技最終日の8月29日。リオからの4+1年間に積み上げてきた「日本のラグビー」が惜しみなく表現された。
オーストラリアとの3位決定戦。
日本は強かった。
2度のパラリンピック・チャンピオンのプレーがかすむほど、アグレッシブに、それでいて丁寧で、基本に忠実に32分間を戦い抜いた。
0-0、1-0、1-1…4-5、5-5、6-5、7-5……。
5年間の道のりを一つひとつたどるように、1点1点積み上げていく。
17-14と第1ピリオドから圧倒すると、ベンチからの声が5番目のプレーヤーとなって仲間の背中を押した。
日本はプレッシャーをかけてボールを奪い、一気にトライラインへと走り、スコアした。
前半を終え30-25と大きくリードしても、日本は攻撃の手を緩めなかった。その勢いに、世界No.1プレーヤー、オーストラリアのライリー・バットでさえも影をひそめた。
最終ピリオドが始まる頃には10点差にまでリードを広げた。それでもなおハードワークし続けるのが日本のラグビーだ。
チーム最年長の島川慎一も、一番障がいの重いクラスの長谷川勇基も、車いすをこぎ続ける。
ケビンHCの指示も、ベンチの声も、一段とボリュームが上がる。
10、9、8…4、3、2……。
大合唱のカウントダウンが会場に響き、52-60で試合が終了した。島川は真っ先に池に駆け寄って肩を抱き、健闘を、そしてリオからの5年間を讃え合った。
「1、2、3 オージー! 1、2、3 日本!!」
日本はリオパラリンピックに続き、2大会連続で堂々の銅メダル獲得!
「金メダルよりも自分たちのプレーが輝いていたと思います」
エース・池崎大輔は誇らしげにそう語った。
そして、予選リーグから3位決定戦までの5試合・全160分中、チーム最長の142分34秒もの間、コートに立ち体を張り続けたキャプテンの池も胸を張っていた。
大会初日におこなった選手ミーティング。メンバーたちははまだ試合も始まっていないのに、涙を流しながら語り合った。「熱いもの、苦しいものを持ってこの5年間を乗り越えてきたのだから金メダル獲りたい」と。
「情熱を持った、すばらしい心を持った12人が集まったんだとその瞬間に思いました。それがあってこそ、一緒にメダルを獲る価値がある。結果だけではない、積み上げた歴史や過程がすばらしいからこそ仲間と最高の時間が過ごせました。それが金メダルじゃなかっただけで、やってきた瞬間瞬間のことは間違っていないし、間違っていないからこそ、テレビの向こうで試合を見た人にも伝わったものはあると思います。メダルどうこうの結果よりも、パラアスリートとしてもとても大切なスポーツの魅力を伝えることがとても大切なことだと思います。それを今回表わせたことが一番大きかったです」
2013年に東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が決まった。それから8年間、日本の人々にパラリンピックの見方、パラリンピックの価値を感じてほしいという思いを伝えてきた。
選手として表現する責任は変わらなかったと話す。
2018−2019年シーズンには、国内に40を超えるチームがある車いすラグビー強豪国・アメリカに単身渡り自分自身と向き合った。
持ち前のキャプテンシーは言葉の壁をも越えた。池が来るからとチームを離れていたメンバーが戻ってきたり、「また全米選手権出場を目指したいと思うようになったよ」というメンバーもいて、謙虚でありながら大きな存在感で人々の心を動かしてきた。
池は東京パラリンピックでの戦いを終え、ケビンHCに感謝の思いを伝えた。
指揮官もまた「彼は特別な存在。ラグビー選手として高い能力があり、ひとりの人としても、これ以上何を求められるかというくらいのものを備えている」と称賛する。
2大会連続の銅メダルに輝いた車いすラグビー日本代表は、金メダル以上に大きなものを日本にもたらし、人々を熱狂させた。
東京パラリンピックでの戦いは終わったが、すぐに若い選手たちによる育成キャンプも予定されているという。
車いすラグビー日本代表の活躍、そして車いすラグビーに今後も注目だ。
【東京パラリンピック 車いすラグビー 結果】
金メダル イギリス
銀メダル アメリカ
銅メダル 日本
4位 オーストラリア
5位 カナダ
6位 フランス
7位 デンマーク
8位 ニュージーランド