ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】ボランティアと商売。畠山和也[ラグビー用品専門店 FIELD 代表]

2021.08.30

ラグビー用品専門店「FIELD]の2代目店主、畠山和也さん。ボランティアで地元・兵庫県ラグビー協会の運営に携わり四半世紀を超える。店のレジには取引のある近鉄のサイン入りジャージーなどが飾ってある



 口には出さない。
 でもみんな見ている、知っている。
 畠山(はたけやま)和也さんが「One For All」のラグビー精神を示していることを…。

 すべては無償。つまりボランティア。兵庫県の高校から社会人まで、運営を手伝う。
「やることは雑用ですね」
 試合日には観客数の把握、チーム旗の上げ下げ、関係者の受け付け、弁当の手配や受け取り…。その時々に手薄な場所を埋める。

 県協会には属していない。ラグビー用品専門店の「FIELD」(フィールド)の代表である。
「ええ格好やないけれど、ラグビーに恩返しをせないかん、という思いから始めました」
 鈴蘭台西高(現・神戸鈴蘭台)を卒業後、スポーツ用品店で6年間勤務する。そこまではサッカー一筋だった。

 フットボール間の移動は32年前である。
「普通、素人で入ってきたら、なめたりするじゃないですか。でも、ラグビーの人たちにはそんなところがなかった。僕を快く迎え入れてくれました。親切でした」

 特に「ダブル松原」の名前が挙がる。関西ラグビー協会の理事長をつとめる忠利さんと県協会の副会長である鉄司さんだ。
「忠さんには色んなことを教えてもらいました。鉄司先生には可愛がってもらいました。」
 ともに高校教員出身。忠利さんは主に御影で教え、鉄司さんは今も神戸弘陵にいる。

 自身も溶け込む努力をする。
「ラグビーの勉強をするためにクラブチームにも入れてもらいました」
 名はアルバトロス。現在はなくなったが、東灘と御影の高校OBが中心だった。ポジションは初心者の定位置、ウイングである。

「お手伝いの長さは10年くらいです」
 明子さんから訂正が入る。妻であり、唯一の社員として店番をしてくれている。
「私と結婚した時にはもうやっていたよ」
 2人は銀婚式を超えた。
「あっ、それなら27年くらいですかね」
 おおらかさが顔をのぞかせる。

 この競技は懐が深く、気に入っている。
「飲みに行っても、ラグビーとわかったら、初対面の人でも仲間になります」
 お店のある三宮界隈には経験者のバーがある。森本努さんの「COLLAPSING」、金村泰憲さんの「THIRD ROW」など。2人は大体大、ワールドでプレーした。

「協会の手伝いは、店の販促のためか」
 そう思う人がいるかもしれない。そんなことはないが、仮にそういう気持ちがわずかでもあったにせよ、少なくともラグビーと人の役に立っている。そして、その活動は四半世紀に渡る。かずやさんが蔵を建てたり、2号店を作った話を聞いたことがない。



 昔、コンバート(旧名・ウシトラ)というラグビーメーカーがあり、大阪の京橋に本店を構えていた。そこの若い人たち—大石、荒木、石元さんら—は高校の大会の時、本部のテントを立て、雑務をこなした。場所は大阪城。堀を埋めた土のグラウンドが2面あった。府内の高校生にとって、チームの強弱に関わらず、そこは身近な聖地だった。

 コンバートにはラグビーで生活が成り立っていることに対する報恩があった。

 今、グラウンドは堀に戻る。店は花園ラグビー場の南に移った。若かった人たちもそれぞれの人生を歩む。かずやさんはコンバートとは関係はないが、古き良き時代—義理と人情—を今に伝える役目も果たしている。

 かずやさんはFIELDの2代目の代表だ。初代は父の弟である明久さん。創業は1985年。おじさんは近鉄ラグビー部の出身だった。1974年から3年間、フッカーとして籍を置いた。坂田好弘、小笠原博、今里良三、原進らそうそうたる先輩らと練習に励む。

 4人のポジションと日本代表のキャップ数は順に、ウイング16、ロック24、スクラムハーフ23、プロップ17。坂田さんは関西ラグビー協会の会長になり、小笠原さんはワールドを率いた。今里さんは近鉄の監督や部長を歴任。原さんは「阿修羅」のリングネームでプロレス界のスターになった。おじさんの入社年度、近鉄は最後となる3回目の日本選手権を制する。33−13早大。12回大会だった。

 そのおじさんに仕え、事業を継承される。
「ざくっと10年前くらいですかね」
 近鉄は今でも取引を続けてくれている。ジャージーなどはミズノが納めるが、ボールや個人の発注などはかずやさんに届く。近鉄以外の大口は50チームほどだ。

 店はJRや阪急など4線が乗り入れる神戸の三宮にある。1970年に完成した大規模商業施設「センタープラザ」の西館3階。店のホームページには、駅からの到着時間が<全速力で3分>と書かれている。
「駅から雨に濡れずに来られます」
 地下や陸橋を通れば天気は関係ない。10坪と小さい店内はスズキやカンタベリーなどが所せましと並ぶ。ブランドはほぼ揃う。

 ただ、築50年の施設、立地はもっとも西側(元町寄り)などもあり、店の左は軒並みシャッターが閉まっている。
「じきクリニックが開くはずです」
 多くの開閉店を横目にしながら、初代から続く事業は37年目に入った。受け継いだ店は夫婦で守り続けるつもりだ。

 ラグビーのお手伝いも変わらない。
「迷惑や、って言われん限り、ずーっとさせてもらえたらと思っています」
 こういう人が楕円球界を下支えしている。

■RUGBY GOODS 「FIELD」■
 〒650−0021 兵庫県神戸市中央区三宮町2−11−1 センタープラザ西館3階
 電話番号 078−391−0058
 FAX 078−391−0068
 営業時間 午前11時〜午後7時30分
 店休日 水曜。祝日の場合は開店