「1、2、3 GB!」
「1、2、3 日本!!」
試合後、コート中央で円陣を組んだ車いすラグビー日本代表は、イギリスチームへの敬意と日本チームとしての誇りを高らかに叫んだ——。
東京パラリンピック、車いすラグビー競技4日目の8月28日。グループA・1位の日本は、グループB・2位のイギリスとの準決勝に臨んだ。
池透暢、池崎大輔、若山英史、今井友明。
スタートを託された4人がそれぞれの思いを胸に、コートに現れた。
ティップオフを制した日本は池崎が先制トライ。障がいの重いローポインターの今井もスペースに走ってスコアしていく。「いつも通り」の光景に思えたが、パスカット、キャッチミスが立て続けに起きた。
イギリス選手たちの動きを見たケビン・オアーヘッドコーチ(以下、HC)は1ピリオド中盤から選手交替を仕掛けた。
しかし試合は、動き出してはペナルティで止まる。なかなか流れに乗ることができなかった。
10-11で第2ピリオドに突入するも、車いすの転倒が度々起きた。状況をどう打開すべきか、頭をフル回転させながら試合は進んだ。
ピリオド終了間際にはイギリスのローポインター、ジョナサン・コガンが渾身のトライを決める。23-25で前半を折り返した。
普段なら気にならない点差が、やけに不気味に映った。
ハーフタイムの両チームの雰囲気は対照的だった。重苦しい空気が漂う日本に対し、イギリスは和やかなムードだった。
こちらのペースに持ち込みたい日本。しかしスピードに加え、パワーも増した印象のイギリスは集中力も高く、隙がない。
試合が大きく動いたのは第3ピリオド後半だった。
相手チームのトライ後にポゼッションが移りエンドラインからボールを入れる「インバウンド」で、日本は苦戦を強いられた。
最大10点差のリードを許す厳しい展開。1点ずつ得点を積み上げていく車いすラグビーにおいてこの差は大きい。
33-42で迎えた運命の最終ピリオド。ケビンHCは小川仁士、中町俊耶、そしてチーム最年少の橋本勝也をコートに送り込む大胆な選手交替に出た。
試合を、勝利を、あきらめたかのように見えるこの判断だが、そこには「カツヤを投入して若いエネルギーをチームに伝える」「プレッシャーのない彼が見せるラグビーでこの先につなげたい」という意図があった。
橋本は「最後まであきらめない、絶対に逆転してやる」という強い覚悟でコートに立った。代表合宿で学んだこと、地元・福島でコツコツと積み上げてきたことをパラリンピックの舞台で堂々と見せ、5トライを挙げた。
しかし池崎がラストトライを決めると、試合終了を告げるブザーが無情にも響いた。日本は49-55で戦いを終えた。
歓喜の声をあげるイギリスベンチ、泣き崩れる日本。キャプテンの池はメンバー一人ひとりに駆け寄り握手を交わし、ひとりタオルで涙を拭った。
「1、2、3 GB!」
「1、2、3 日本!!」
力強い声が響き渡ると、会場のボランティアや運営スタッフからは惜しみない拍手が送られた。
日本の車いすラグビー界を牽引してきたチーム最年長の島川慎一は冷静に、「悔しいの一言。この5年間、金メダルだけを見て来たので、それがなくなってしまい、今はそれ以外の感情がない」と語った。
エース・池崎は「イギリスが強かった。コロナ禍で国際試合がない中でもすごく力をつけてきた。自分たちが弱いから負けた、ただそれだけ。それに、全勝で予選1位通過というのが初めてのことで、緊張感と今までに味わったことのない思いがあった。勝ったらファイナル、銀メダル以上、そんなことを考えてしまっていた。何も考えずに自分らしいプレーをしようと心がけたが、イギリスのプレッシャーが強かった」と肩を落とした。
そしてキャプテンの池は、「イギリスはすばらしい準備をしてきたが、力の差はないと思っている。往生際が悪いが、正直負けたと思っていない。これまで積み上げてきたこと、やってきたこと、チーム力。そこに関して日本は負けてない」と胸を張った。
車いすラグビー競技最終日の8月29日、日本はオーストラリアとの3位決定戦に臨む。
「アグレッシブに、アタックし続けるのが日本のラグビー。3位決定戦では自分たちのラグビーをコートに戻ってやる。私は日本チームの選手を誇りに思う」
ケビンHCは時折声を詰まらせながら、日本ラグビーへの思いを語った。
東京パラリンピック最後の戦いに挑む、車いすラグビー日本代表。
リオからの5年間の集大成となる、32分間の真剣勝負に注目だ。