8月27日、東京パラリンピックの車いすラグビーは予選ラウンド最終戦がおこなわれ、ここまで2勝0敗の日本は1勝1敗のオーストラリアとの大一番に臨んだ。
アジア・オセアニア地区を代表する強豪国の両者は「因縁のライバル」関係にある。
ここ数年の公式戦を見ると、2018年の世界選手権は日本、翌2019年におこなわれたアジア・オセアニア地区のパラリンピック予選はオーストラリア、その1か月後の「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」では再びオーストラリアが勝利と、勝ったり負けたりを繰り返している。
「オーストラリアン・スティーラーズ(Australian Steelers)」の愛称で親しまれている車いすラグビーオーストラリア代表には、世界No.1プレーヤーとも称される絶対的エースのライリー・バット(2019年に300キャップ達成)やクリス・ボンド(200キャップ)、ローポインターのベン・フォーセット(150キャップ)といった経験豊富なプレーヤーが名を連ねる。
『世界ランキング1位』、『パラリンピック2連覇』という肩書きはあるが、ケビン・オアー日本代表ヘッドコーチ(以下、HC)は「オーストラリアに対して日本は苦手意識がなくなっている」と言い切る。
それほどまでに、あらゆる場面を想定して、この日のため、そしてパラリンピック金メダル獲得のために綿密な準備とトレーニングを積み重ねてきた。
この日の試合前、ケビンHCがチームに伝えたのは「我々にはゲームプランがある。自信をもってプレーしなさい」ということだった。
車いすラグビーでは車いすのポジション取りがとても重要になる。
その駆け引きは、試合開始のブザーが鳴る前から始まる。
張り詰めた空気の中、8分×4ピリオド、32分間の戦いがスタートした。
オーストラリアは執拗にボールプレッシャーをかけ、攻撃の要となる池透暢を3人で囲うなど、一段も二段もギアを上げて立ち向かってくる。
一進一退の攻防を繰り返し、第1ピリオドは12-11だった。
第2ピリオド開始早々、日本の気が緩んだ隙にボールを奪われ、オーストラリアが連続トライを決める。
しかし、やられたらやり返すと言わんばかりに乗松聖矢がライリー・バットの動きを止め、その間にターンオーバーしてトライ。オーストラリアの「個」の強さに対し、日本は声を出し合いチームワークで戦った。
ピリオドの残り4.1秒、池崎大輔が1点を加えて29-27でハーフタイムを迎えた。
第3ピリオド、ライリー・バットのスーパープレーが飛び出した。
トライライン前で守る選手とコーンのすき間のわずか数十センチを、バランスを崩しながらも片輪で通り抜けトライ。会場からは驚きとため息がもれた。
※ トライは、エンドライン中央8メートルのトライラインに車いすの車輪が2つ乗るか通過(後ろ向きでも認められる)すると1点が入る。その際、トライライン両端のコーンに触れてはいけない。
コートの中では徐々に会話が増えていく。そしてベンチからはたくさんの情報が声で届く。
日本はコミュニケーションを積極的に取り、コート上の4人、いやベンチを含めた12人全員が同じ絵を見ながら戦った。
一度もリードを奪われることなく、第3ピリオドを終えて43-40とリードした。
第4ピリオドに入ると、頻繁に車いすの座面と腰のあたりを気にしていたライリー・バットが、車いすトラブルのためコートからはずれた。日本は、その間に得点を重ねていった。
その結果、日本は57-53で2年前のリベンジを果たして予選ラウンド3戦全勝。グループA1位で準決勝に駒を進めた。
チーム最多の24得点を挙げた池崎は「一段一段、階段をのぼってきている。コミュニケーションを取りポジティブに声を掛け合いながら、チームのまとまりが徐々によくなってきた。どんなにプレッシャーを受けたとしても、仲間の声ひとつで助けられる、その声ひとつでいいプレーにつながる、その声ひとつでいいディフェンスができる。チームとしてすごく成長してきている」と手応えを口にした。
4チームによる総当たり戦の結果、日本と同じグループAはオーストラリア、フランス、デンマークが1勝2敗で並び、直接対決の得失点差によりオーストラリアが準決勝に進んだ。
また、グループBは2勝同士の直接対決を制したアメリカが1位通過。グループ2位のイギリスが28日の準決勝で日本と対戦する。