一昨季に史上最多となる16度目の大学日本一に輝いた早大で、今季の主将を務めるのは長田智希だ。
8月某日、その代の主将にのみ与えられる寮の一人部屋でオンライン取材に応じた。シーズン開幕への手応えを語る。
「皆、チームの『こういうラグビーはするんだ』については理解している。そのプレーのディテール、それをするのに必要な部分も落とし込まれている。あとは…」
身体をぶつけ合うCTBを担う。身長179センチ、体重90キロと一線級の群れにあっては大柄でないものの、攻守両面における的確なポジショニング、鋭いキックチェイスとタックル、防御を引き付けてのパスといった、味方を支える動きに定評がある。
それでも今季は、「主将としてだけでなく、12番としてもチームを引っ張れる存在、よりボールを前に運べる選手になりたい」。今年度は昨季の定位置だったアウトサイドCTB(13番)よりも、インサイドCTB(12番)での出番が増えるか。さらに競技の構造や現在のチーム戦術上、12番は接点に近い位置でプレーしそうなのだ。
チームは卒業生で元ヤマハの大田尾竜彦新監督のもと、新たな攻撃の仕組みを会得している。長田はこうも言う。
「(新指揮官は)自分でグラウンドのなかで教えるタイプの監督。大田尾さんのなかにあるラグビーの理論というものに基づいて、僕たちに落とし込んでもらっているなと感じます」
変化へ適応するのは他の部員も然り。新チームは始動時期から、早朝のレスリングトレーニングを導入する。午後には通常通りの練習もあったため、長田は「練習時間もタイトでした」と振り返る。
前年度の大学選手権では、天理大に接点で差し込まれて28-55と大敗した。「コンタクトで課題が出た。そこを無視するのは無理」と覚悟する。タフな練習も望むところなのだ。
そして時間が経ったいま、変化の兆しも感じているという。
「コンタクトで前に出るのは一番のテーマ。春の試合では——ここ(レスリングなどのセッション)が直接的につながっているかはわからないですが——前に出るタックルの数が増えたというスタッツ(統計)は出ていました」
日本一を至上命題とするクラブにあって、船頭役を託された。もっとも当の本人は、「まとめるのが得意じゃない方だった」。自身が思うトップに立つための要件を他者と共有するのに、少し苦労しているという。
「高校からトップでやってきたメンバーもいれば、高校時代はそこまでではないけど…というメンバーもいる。そんななかでチームの目標である日本一に向く…というのがまだまだ難しいかなと」
たとえば、グラウンドにごみが落ちていたとする。長田は「自分たちが使っているグラウンドにごみが落ちていたのなら、拾うのがあたりまえでしょう」と自然とそのごみをズボンのポケットにしまう。長田の考える「日本一を狙う組織」の選手はそうするのが自然だと思うが、全ての選手がそうするとは限らない現実も直視した。
最近、感じるのは、自分たちに向ける「ベクトル」をほどよく外に向ける必要性だと話す。
「(主将を含めたチームの)リーダー陣にはベクトルが自分に向く選手が多くて、僕自身も周りに言うよりまず自分に動こうというタイプでしたが、(今後は)それだけじゃなくて周りにも要求する、下級生ができていないなら指導する(ことに注力したい)」
かような思いを込めて、冒頭の「あとは」の続きをこう述べるのだった。
「…タックルひとつ、アタックひとつを取っても、プレーの精度を高める。それと、チームとして同じ方向を見て、周りに対する厳しさを持って、(初めて)日本一に向かえるかなと」
早大は9月12日、埼玉・熊谷ラグビー場で加盟する関東大学対抗戦Aの初戦(対 立教大)に挑む。