ラグビーリパブリック

天理大は2年ぶり夏合宿。小松節夫監督が相手の立場から考えたこと。

2021.08.20

体育館でセッションを見守る天理大の小松節夫監督(撮影:向 風見也)


 できることの幅を広げる。天理大ラグビー部が夏合宿を始めた。昨季はパンデミックの影響でおこなえなかったが、この夏はワクチン接種を経て長野・菅平に来られた。

 2日目の8月18日は、早朝から大雨に見舞われた。グラウンドでの練習を取りやめる。部員はふた組に分かれ、ホテル併設の体育館でセッション。走り込み、ユニットプレーの確認をおこなう。

 主力の多いグループは、攻撃戦術もチェックした。小松節夫監督の手ほどきのもと、球を動かす順序と方法を落とし込む。小松監督は説く。

「キックを含め、いろんなバリエーションを持って攻める。その引き出しを広げるという意味で、やっています。『(複数ある攻め方のうち)どれが使えて、どれが使えないか』を見て、シーズンに向けてチームを作っていく。その一環です」

 関西大学春季トーナメントの決勝では、同大に19-35で敗れた。7月4日、奈良・天理親里ラグビー場でのことだ。

 HOの佐藤康主将は、「接点の弱さは反省点」。攻撃中、球の出どころとなる接点(ブレイクダウン)で圧力を受けていた。佐藤主将は続ける。

「ただ、春にそれを学べたのは大きかった」

 テンポよくパスをつなぐのを伝統とするこのチームは、初の大学日本一となった前年度の主力を数多く卒業させた。いまは新たな組織作りの途上にありながら、秋からの関西大学Aリーグでの6連覇を目指す。

 昨季の大学選手権では、攻守両面で接点を前に押し込みながら局面ごとに先手を取れた。今度の7月の同大戦では、その強みが損なわれたのか。

 いや。「ブレイクダウンは試合によって、相手によって違う」と小松監督。当時と現在との違いについて、こう述べるのだった。

「(昨季は)向こうのチームの対策はそれほどではなかった。(実際に天理大との試合を)やったら『ブレイクダウン、強かったね』というの(相手の感想)はあったかもしれませんが、(自軍から見て)そこまでブレイクダウンで勝負してくるチームはなかったので」

「相手のやることがわかればその対処法は生まれるわけで、去年、優勝したことで、うちのやることは全国にさらされています。『天理大の特徴はボールを動かすこと。ブレイクダウンでプレッシャーをかけて、天理大のテンポを狂わせる』。我々のラグビーを見たら、どの相手でもそう考えます。そして、それ(接点に圧力かける作戦)を徹底された時に意外とうちに力がなかったと、春(季トーナメント)でわかったんです」

菅平で流経大と練習試合をおこなった天理大。観に来ているのは原則、控え部員や関係者のみ(撮影:向 風見也)

 翌日はサニアパーク菅平で、今度のキャンプ中初の練習試合をおこなう。前回の大学選手権の準々決勝(昨年12月19日/大阪・東大阪市花園ラグビー場)では78-17で下した流経大を、今度は50-0で制した。

「きょうはちょっと、ましでした」

 指揮官の謙遜する口ぶりには、久々のゲームにあっては上々の出来だった、との意味が込められていた。

 チームは防御時の接点に圧をかけて攻守逆転を狙ったり、FWの走者が前に出たりと、同大戦で課題だった接点を制圧できた。指揮官は「ブレイクダウンはお互い、試合によって違う」と控えめながら、要所でのターンオーバー成功は前向きに捉えていた。

「うちはすべての接点でターンオーバーを狙う感じではない。『ここ』といった時に(狙う)。そこはよかった。春によくなかったのは、相手が『ここ』だと思って(自軍の接点へ圧を)かけてきた時の対処。ただ、きょうはその点でもよかった。きょうの流経大さんがそこにこだわっていなかったからか、うちが(圧力を喰らい過ぎないように)うまくボールを回せたからかはわからないですが」

 さらに続けるのは、接点で圧力をかけられないための方策についてである。

「うちは、相手に(接点で圧力を)かけられないようにボールを動かしたい。(攻撃方向が)ワンパターンにならないように。相手に(次にボールを回す場所は)『ここしかない』と思われないように」

 防御に的を絞らせなければ、球の受け手が複数名に取り囲まれるリスクは減る。そうなればランナーと援護役との共同作業により、接点で強い圧力を受けずに次の攻めへ移れる。体育館で攻め方の講義をしていたのは、同大戦で受けたような接点の圧力を削減するためでもあったのだ。
 
 いまはできることの幅を広げ、次第にすべきことを絞り込みそうな天理大。秋のリーグ戦、冬の選手権と、実戦を通して進化したい。

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