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【東京五輪総括】 7人制日本代表ヘッドコーチの岩渕氏とマキリ氏、本城ディレクターは退任

2021.08.12

男子セブンズ日本代表のヘッドコーチを務めた岩渕健輔氏(撮影:松本かおり)


 日本ラグビー協会は8月11日、岩渕健輔・男子セブンズ日本代表ヘッドコーチ、ハレ・マキリ・女子セブンズ日本代表ヘッドコーチおよび本城和彦・男女セブンズナショナルチームディレクターの退任を発表した。

 2013年7月からオリンピック・セブンズ部門長、セブンズ強化委員長を経て現役職名となった本城氏は、男女セブンズ日本代表ヘッドコーチ退任に伴う強化体制の刷新を理由に2021年8月31日をもって退任となる。東京2020オリンピックで指揮を執った岩渕ヘッドコーチ(在任期間:2018年6月~2021年8月)とマキリ ヘッドコーチ(在任期間:2020年12月~2021年8月)は任期満了で、8月11日をもって退任となった。

 東京2020オリンピックでは、ラグビー男子日本代表は12チーム中11位、女子日本代表は12位という成績だった。

 今後の新体制については、「次期ヘッドコーチ選考会議(議長:森重隆・日本ラグビー協会会長)」を設置し、ヘッドコーチ推薦候補者を選考、理事会審議を経て、決定次第公表される。なお、次期体制の決定前または次期ヘッドコーチ合流までの期間においては、現行のスタッフのなかからヘッドコーチ代行を立て、男女セブンズ日本代表の強化活動を継続するという。

 男女セブンズ日本代表は、9月以降に活動を再開する予定。9月4日、5日に予定されていたアジアセブンズシリーズの韓国大会は中止となったが、11月には同シリーズのUAE大会がある。また、男子セブンズ日本代表がコアチームとして臨むワールドセブンズシリーズ2021は、9月18日にカナダのバンクーバーでキックオフとなる。

 8月11日、東京オリンピックを終えての総括会見がオンラインでおこなわれ、登壇した上記の3名がそれぞれ思いを語った。

「まずはじめに、世界中の多くの方がつらい思いをし、大変な状況にあるなか、オリンピックという舞台でプレーする機会をいただけたことに、心から感謝申し上げます。そして、男女セブンズ日本代表に期待を寄せてご声援、ご支援、ご協力いただいたすべてのみなさまに心から感謝申し上げるとともに、大変申し訳ない結果となり、みなさんをがっかりさせてしまったことを、心からお詫びしたいと思います。この責任について重く強く受け止めております」

 冒頭、本城ディレクターが述べた。

「選手、スタッフはチームの目標達成に向けてはもちろんのこと、日本でのセブンズラグビーの発展を願い、また、いま多くの方々が関心を寄せられているラグビーという競技をさらに盛り上げていくために、この5年間、日々ベストを尽くしてくれました。選手、スタッフのこれまでの身を削るような努力と流した汗に、否定されるものはひとつもなく、本当にいろんなことを犠牲にしながらよくがんばってくれました。心からお疲れさまと申し上げたいです」

本城和彦・男女セブンズナショナルチームディレクター

 2020年に開催予定だった東京オリンピックは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により1年延期となった。この影響について本城ディレクターは、正直なところとして、日本は厳しい結果に向いたと思うと語る。
「男女とも現場は知恵を絞り、工夫をして実戦経験の機会も作ったが、ただでさえ国際経験が厳しい我々にとって、本番に向けてベストなパフォーマンスを発揮するコンディショニングは難しかった。男子が最後に戦った国際大会は、2020年3月。女子は2020年2月。男女ともその後予定されていた昇格大会、いくつかのワールドシリーズを経てオリンピックに臨んでいたとしたら、結果は少し違うものになっていたのかなと素直に思う」

 この5年間、地力を上げることに取り組んできた。地力を上げるための取り組みのひとつは、極めてシンプルだが、代表チームの活動日数を増やすこと。男子は、この5年間の年間平均活動日数は、リオオリンピック前を42日上回る164日で、2019年は232日を数えた。強化拠点の整備も進んだ。

 もうひとつの取り組みは、セブンズの専門性が高まっていくなか、セブンズ専任でプレーする選手を増やすこと。2020年12月に発表した第3次オリンピックスコッド20名に照らし合わせてみると、2017年は7名、2018年は11名、2019年は13名がほぼ専任。2020年、2021年は20名が専任でプレーした。7名が5年間ほぼ専任でプレーしたことになる。専任化にあたっては、所属チームとの契約、また選手との直接契約も含めた制度を導入した。専任化の推進、制度の導入の目的は、オリンピックまでの4年間、早いタイミングからある程度メンバーを固定して強化することにあった。

 しかし、4年間継続して強化できたかどうかは議論する必要がある。
 
 専任化の推進について、本城氏は「諸刃の剣であることも認識しておかなければならない」と言った。なぜなら、選手にセブンズをプレーするか、15人制をプレーするか、早い段階で決断を迫ることになるため、結果として代表チームの水準が下がってしまう危険性もあるからだ。
「選手の立場からすると、15人制日本代表も目指したいし、自分の所属チームでもプレーしたいというのは当然のことであり、自然な流れだと思う。そのなかで、4年間セブンズで専任でプレーするというのは大きな決断になる」
 日本には、日常的にセブンズをプレーする環境がないのも問題であり、セブンズ自体の価値・魅力・ステータスを上げていく取り組みをしていかないと、なかなか選手に選んでもらえる存在にはなっていかないと思うと本城氏は言う。
「オリンピックでメダル獲得を目指す選手を増やすために、セブンズの魅力、価値の発信は避けて通ることはできない。十分な検討がなされるタイミングに来ていると感じる。ただ、選手のポテンシャルを悲観することはない。パリへ向けても、メダル獲得の旗を降ろさずにチャレンジしていってほしい」

東京五輪初戦で王者フィジーに挑んだ男子日本(Photo: Mike Lee – KLC fotos for World Rugby)

 男子セブンズ日本代表を率いた岩渕氏は、「前向きな結果が出せず、本当にも申し訳なく思っている」と言った。日本ラグビー協会の専務理事も兼任するという激務だったが、東京オリンピックを11位で終えた結果について本人は、「兼任していたからどうということではなく、ヘッドコーチとしての力がなかったということだと思っている。選手・スタッフはとにかく、ホントに勝たなきゃいけないところまで持って行ってくれて、それをうまく勝たせられなかった。ひとえにヘッドコーチとしての力量の問題だと思っている」と責任を認めた。

 前回のリオデジャネイロ大会で男子日本代表は4位となり、東京ではメダル獲得が期待された。当然、岩渕ヘッドコーチは緻密に周到な準備をして大会に臨んだ。
 しかし、初戦ではディフェンディングチャンピオンのフィジーを相手に奮闘して勝利を手にする流れを作ったものの、ミスから逆転負けを喫した。2戦目のイギリス戦は、キックオフでコンテストに競り勝ちながらも、不運にもそのボールを手にすることができず、立ち上がりの悪さが大敗につながった。
「7人制のなかで、ナイーブさ、繊細さというのがゲームのなかで出てくるときに、チームをどうやって立て直すかというのがひとつの大きなカギだった。その部分を、特に1戦目、2戦目は、いい形でパフォーマンスさせることができなかった。そこに大きな責任を感じている」(岩渕氏)

 コロナの影響でさまざまな混乱が生じる前は、強化は順調だった。しかし、2020年3月からワールドシリーズなどの国際大会ができないような状況となり、保守的になってしまったと岩渕氏は反省する。

「この1年半の国際大会ができないような状況になってから、コロナ禍において、陽性者を出さないで活動することを優先しながら強化を進めてきたが、もともと男子の実力を考えると、保守的な戦い方、あるいは保守的な強化の仕方ではなかなか結果を出せないのは過去の力関係からもはっきりとしていた。しかし、そこで思い切った強化戦略を私自身がヘッドコーチとして出すことができなかったというのが、自分自身の反省として、責任として強く感じている。1年延びた期間を逆に有効に使うのが我々の仕事だったと思うが、その仕事が十分できなかった。保守的になってしまって、十分その時間をうまく使うことができなかった。これは非常に結果に大きく影響してしまったなと強く感じている」

 地力をつけるべく強化をしてきたが、この1年半の間に地力をつけるような取り組みをゲーム形式のなかでするのが非常に難しい状況になった。本番と同じようなプレッシャーをかけるような練習にも取り組んできたし、選手たちも努力をした。が、本番と同様のプレッシャーがあってそのなかで自分たちが判断をしていく、あるいはベンチの方から判断をしていく、そういったことがオリンピックの大切な舞台でうまく機能させることができなかった。
「ひとえに私の責任だと思っている」
 岩渕氏は何度もそう言った。
「強化の担当者として、どちらかといえば積極的に強気にいろんな強化を進めてきたと自分自身は考えているが、ヘッドコーチとしての現場での最終的な決断のところ、試合のなかでの決断のところで積極的にいけなかった。そこの判断のところが非常に鈍ってしまったというのがあったと思う。試合のなかで選手交代や戦術だったりとかをどうやって伝えて、選手がうまく機能しないときにどうやって助けるかというのが大きなポイントだったと思うが、そこの部分がうまく判断できなかった。いい形で決断ができなかったというのは、ひとえに私のところの問題だと強く思っている」

 もっと革新的にチャレンジしなければ勝てない。オリンピックはそういう舞台だった。

女子セブンズ日本代表のヘッドコーチを務めたハレ・マキリ氏(撮影:松本かおり)

 女子の場合、2020年12月にヘッドコーチが替わり、波紋を呼んだ。2017年からけん引してきた稲田仁氏がパフォーマンスマネージャーという役職になり、ハレ・マキリ氏が指揮を執ったのは本番までわずか7か月間という短い期間だった。
「いささか唐突感があったと思うが、オリンピックが1年延期になったことによって、新しい刺激が必要だと判断した。動かずして結果を待つのか、リスクをある程度承知した上で動いてチャレンジして結果を待つのか。後者を取ったということ」(本城ディレクター)

 大変な任務を引き受けたマキリ氏は、自分が持っているリソースをすべてぶつけたいという気持ちで取り組んだ。
「チームの強化に関しては、それまで女子の選手たちが培ってきたもの、強化してきたものをすべて一から変えることはしたくなかった。そのなかで何を変えてチームを強化したかというと、彼女たちのマインドセット、ディシジョンメイキングの能力、そしてプレッシャーにさらされた状況のなかでも自信を持ち続けること、そういったものを新たに彼女たちに持たせたいというのがあった。それを主軸にして、強化の基本的な部分から、フィジカルレベルの向上、ラグビー的なところの強化に努めてきた」

 7か月間という短い期間のなか、メダル争いの土俵にチームを引き上げるべく、ベストを尽くした。しかし、目指す所と現在地のギャップ、多くの現実を突きつけられた結果となった。体格、フィジカル、スピードなど、アスリート性での苦戦は織り込み済みのところもあったが、日本らしさも発揮できなかった。

「ラグビーはゲームのなかで常に革新的でなければならない競技だと私は思っていて、そのあたりをもっと発揮できればよかったが、足りずに、みなさんの期待に応える結果が残せなかったのは自分自身も残念であり、申し訳なく思っている」

東京五輪で代表デビューし、奮闘した梶木真凜(Photo: Mike Lee – KLC fotos for World Rugby)

 女子のこれまでの取り組みは、大きく言って競技力の底上げと人材育成の2点だった。
「競技力の底上げは、2014年に創設した太陽生命ウィメンズセブンズシリーズのチーム数の充実、ゲームレベルの進歩を見れば、競技力が高まったのは明らか。女子は、アカデミー、デベロップメントと代表へのパスウェイがしっかりできており、早い選手は高校生から太陽生命シリーズにチャレンジしているので、うまくリンクしていると思う。その点からすれば、チーム強化の一貫性、継続性の担保は比較的スムーズだったと思う」
 本城ディレクターはそう振り返る。ただ、多くの選手の代表デビューが大学生、高校生だったことを考えると、ベースの競技力が上がったとしても、代表チームの底上げ、選手層に厚みをもたらしたかは疑問だ。今回、東京オリンピックで戦った女子セブンズ日本代表の平均年齢は22歳。世界と比較してまだまだ成熟しきれておらず、この選手たちが3年後のパリオリンピックでも中心となって活躍することを期待する。

 そして、人材発掘については、他競技からの転向によるアスリートの発掘に積極的に取り組み、トライアウトを経て、これまで5名の選手がラグビーに転向をして東京オリンピックを目指した。しかし、結果として最終メンバーには残らなかった。
「海外選手と比較して、アスリート能力の差が大きい女子は、ラグビー選手としての(代表への)パスウェイ、強化はもちろんのこと、体格やある特定の能力に秀でた選手の発掘・育成は今後も欠かせない。男子よりも長いスパンでの強化設計が必要だ」(本城ディレクター)

 マキリ氏は、選手をひきつけるためのプログラムというのがひとつ肝になると言う。
「ハイパフォーマンスの観点でのアプローチになるが、もっと積極的に、これまでやってきていないことにも手を出していく。そしてもっと探求していくことが必要かもしれない。選手を発掘するにあたっては、3つのポイントが重要だと思っている。それは、スピード、パワー、高さ。ラグビーを教えること自体は難しいことではないが、選んだ選手の体のサイズを変えることはできないので、自分たちがやろうとしているプログラムに対してどういう選手を求めていくのかを細分化して、明確にする。それぞれの可能性のある選手が必要とされていること、そこだったら自分はできるかもしれないというモチベーションを明確に持ってもらえるようにしていくことも、この先考えられるアプローチなのかなと私は思う」

 そして最後に、日本ラグビー協会の専務理事でもある岩渕氏は、これからについてこう述べている。
「今回のオリンピックが終わって、会長、副会長ともいろんな話をした。ラグビー協会としてはっきりしていることは、男女とも、メダルを獲りに行くという強い姿勢で今後も7人制を強化していくというスタンスは一向に変わらないし、より加速させる必要があるというのが協会としての結論というのははっきりお伝えしたい。一方で、さまざまな解決しなければいけないこともある。今後の強化については、男女とも、どこの国もやっていないような先進的な取り組みが必要になると思う」

東京五輪の熱戦は終わった。次は3年後、パリで(Photo: Mike Lee – KLC fotos for World Rugby)