試合を終えて会場を後にすると、入口付近で子どもに話しかけられた。
「どうすればうまくなりますか」
明大ラグビー部1年の木戸大士郎は、「…楽しむことです」。少年と別れ、苦笑した。
「(自分は)全然、うまくないんで…」
6月20日、長野は飯田市総合運動場。昨季全国優勝の天理大との招待試合で、背番号6をつけて先発した。
「僕としては課題ばっかり残るゲームやった。克服できるようにしたい」
「ファーストタックルが高く、飛ばされたり、弾かれたり」
「(自身の役目が地上戦で働く)FLなんで、一発で倒すタックルを(決めたい)」
口をつくのは反省の弁ばかりだったが、持ち味も発揮した。
迫りくるランナーを正面からつかみ上げ、跳ね返した。チョークタックルと呼ばれるプレーで、背中や上腕、腰の強さを披露した。64分間、プレーし、26-21と競り勝ったのだ。
今年6月就任の神鳥裕之監督は、「1年生、いいね」。この午後はFLには木戸に加え、中部大春日丘高前主将の福田大晟も起用した。名手揃いのルーキーの台頭により、選手層を底上げできそうだ。
「(2人は)コンタクトが強い。活きのいい選手がこういう経験ができたことは、(シーズンが本格化する)秋に向けていいことです」
木戸は大阪の常翔学園高を経て、FWの強い伝統校であるのに憧れて明大入り。八幡山の合宿所では、「プロテインは1日に何回飲むとか、いろいろとルールがあって、毎回、皆、守ってる」。先輩方の醸す文化に惹かれる。
あの日、少年に問われた「うまさ」について、木戸は確たる答えを持っていない。ただし確かなのは、木戸が求めるものは「うまさ」と異なる領域にありそうだ。本人は言う。
「全然、自信ないんで、練習して自信つけていきたいです。(大学)選手権優勝、(試合の)メンバーに絡めることが目標です」
実力者の群れにあって力をつけ、表層的な「うまさ」を凌駕できるようになりたい。強くなるのだ。