ラグビーリパブリック

【コラム】盛夏のクライマックス。

2021.08.05

大会中にも成長を見せた佐賀工。十代の戦いは観るものの予想を超えた筋書きをたどる(撮影:長岡洋幸)

 猛暑の東京を離れ、高原の風が吹き抜ける夏ラグビーの聖地へ。

 7月中旬。全国高校7人制大会の取材で菅平へ向かった。昨年はウイルス禍で多くの大会や合宿がことごとく中止になり、結局一度も訪ねる機会がなかったから、個人的には2年ぶりの“山のぼり”である。

◆県下屈指の進学校でもある熊本高校も、菅平を疾走

 本格的にラグビーの現場で取材をするようになったこの15年あまりの間で、菅平に上がらない年は一回もなかった。なくなって初めて、当たり前にあると思っていたものがいかに貴重でかけがえのないことであったかを知る。大会会場のサニアパークで久々に過ごす時間は、これ以上ないほど楽しかった。

 厳しい鍛錬の地である菅平は、ひと夏で選手を大きく成長させる。今大会でも、ひとつの試合、たったひとつのプレーでみるみる変貌を遂げる若者たちの姿を、いくつも目撃することができた。

 大会初日のメイングラウンド第9試合。佐賀工業は京都成章とのプールマッチ屈指の好カードを21-19で制した。前半4分までに3本連続でノーホイッスルトライを奪われる一方的な展開から盛り返し、後半のラストプレーでトライおよび難しい位置からのゴールを決めて逆転するという、劇的な勝利だった。

 白状すると、本コラム筆者はこの試合の後半を見ていない。京都成章が3本目のトライを挙げたところで「勝負あり」と判断し、別のグラウンドに移動してしまったのだ。みずからの不明を恥じるほかないが、それくらい、京都成章の個人技はずば抜けていた。

 翌日、申し訳ない気持ちで佐賀工業の枝吉巨樹監督のもとを訪れた。45歳の指揮官は、ボールを下げずにキープし続ける「自分たちのやりたい7人制ラグビー」で京都成章を撃破したプロセスを語った後、こんなエピソードを教えてくれた。

「試合のあと、小城先生(博・総監督)がおっしゃったんです。『ああやって逆転で勝つ感動的なシーンが、スポーツをやっていて何回あるか。ひょっとしたら生涯に1回かもしれない。そういう体験をできて、今まで練習やってきてよかったよね』と。本当にそうだな、と思って。7人制と15人制はまた別ですが、去年の花園準優勝チームに勝つことができて、生徒も自信になったんじゃないでしょうか」

 5大会ぶり2回目の優勝を飾った東海大仰星は、一戦一戦明確なゲームプランを立てて試合に臨み、勝ち進むごとに飛躍的にチーム力を高めて、あざやかに頂点を極めた。セブンズ王国フィジーを彷彿させるタレントぞろいの報徳学園を31-24で破った決勝トーナメント1回戦、春の全国選抜王者で優勝候補筆頭と目された東福岡に19-7と快勝した準決勝は、今大会の忘れがたきハイライトだ。

「セブンズでも対戦相手に応じて戦術を使い分けながら戦う楽しさを味わえました。ラグビーは奥が深いです」。湯浅大智監督の勝利のコメントである。選抜大会の圧勝で東福岡の独走ムードも漂う中、7人制とはいえここで日本一をつかみとった価値ははかり知れない。冬の覇権争いの楽しみが、これでまたぐんと広がった。

 その東海大仰星を準々決勝であと一歩まで追い詰めた早稲田実業の奮闘も、強い印象を残した。165センチ、80キロの体をフル稼働させてタックルしまくったFW田中勇成の驚異的な働きぶりは、これぞキャプテンというべき責任感をたたえていた。石見智翠館に19-22、仙台育英に12-17と、全国区の強豪と互角に渡り合った滋賀学園の爽快なランニングラグビーも、色濃く目に焼きついたままだ。ボウルトーナメントで決勝まで勝ち上がった城東は、7人制でも15人制でも常に自分たちの力を出し尽くして、いつも感心と感動を呼ぶ好勝負を繰り広げてくれる。

 今大会では、母校の熊本高校の初出場に立ち会うという思いがけない幸運にも恵まれた。

 取材者として自分の後輩たちが全国の舞台に立つ姿を目にするのは、今回が初めてだった。その心境を言葉にすると、「感謝」の一語に尽きる。こんな機会を作ってくれてありがとう。ただただそう思った。ひとつのパス、ひとつのタックル、ひとつのエラーさえもが愛おしい。すべてのプレーを肯定したくなる。「全国大会で母校の応援に来る人たちはこんな気持ちになるのか」。そう実感した。

 予選リーグは2敗に終わったものの、2日目以降に2つの勝利とひとつの引き分けを手にし、最終成績はボウルトーナメント5位。カップトーナメントで3位になった東海大相模との初戦を含め、全試合で2トライ以上を記録した。部員はマネージャー4人を含めて3学年で32人、うち中学までの経験者は半数以下の10人であることを考えれば、立派というしかない。

 6月の県総体(15人制)は決勝で熊本西に5-21と迫った。今大会で全国レベルの圧力を体感した経験は、まちがいなく選手をもうひとまわりたくましくさせるだろう。卒業生としてはつい、「この勢いに乗って久々の花園へ」と前のめりになってしまう。

 熊本高校では、春の総体を終えると3年生は受験に備えて引退するのが通例だ。秋冬まで続けるケースもあるものの、何人が残るかは代によって異なる。13人いる今年の3年生も、現状では残る部員、引退する部員、決めかねている部員が混在しているという。

 ボウルトーナメント1回戦で富山第一から大会初勝利を挙げたあと、キャプテンの羽野隼矢に話を聞くと、「まずはこの大会に集中して、(残るかどうかは)終わってから考えようと思っています」と答えが返ってきた。

 いいぞ。もちろんここまで来たのだから最後まで挑戦してほしいのがOBの本音だけれど、そうやって思考を重ねる過程こそが価値のあることだとも思う。ぜひ、存分に考えて考え抜いてほしい。たしかな正解のない問いにとことん思い悩んだ時間は、きっと人生の貴重な財産になる。たとえどんな結論にたどりついたとしても。

県内屈指の進学校でもある愛称「クマタカ」の疾走。コラム筆者の直江氏は、後に日本代表となる向山昌利氏とCTBコンビを組んで花園に出場した(撮影:長岡洋幸)
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