ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】夏はスクラムの季節。岡田明久 [天理大FWコーチ]

2021.07.27

スクラムの質問に答える岡田明久コーチ。天理大のスクラムを全国屈指にした。その理論は単純明快で支持者も多い(写真撮影は大阪が蔓延防止法に移行した7月下旬の午後。マスクは取ってもらいました)



 夏休みが来ました。
 昨年に比べたら、じっくりスクラムが組めるチームが多いのではありませんか。

「スクラムは数を組まなアカンねん。組み方ちゃうねん」

 アキさんこと岡田明久さんの声は大きくなります。元プロップ。漆黒の天理のスクラムを大学屈指の強さにしました。昨年度、この国をリードしてきた早明に押し勝って、初の学生日本一の称号を手にします。

 スクラムの重みは2年前の『ラグビーマガジン5月号』で話しています。
<スクラムで10センチ前進できれば、味方のバックスはスピードに乗った状態で、1メートル前で相手と対峙できます。スクラムは自分たちのプレーにおける決めごとが組み立てやすいだけでなく、相手ディフェンスの立ち方、配置も設定できます>

 押された方はより消耗しますしね。密着プレーなので、モールにもその効果は波及します。スクラムは試合の行方に大きく影響します。その強化をアキさんは「組むしかない」と言い切ります。

「数を組んだら自然に形ができてくる。数を組まんスクラムはすぐ壊れるやろな。料理人は魚を焼く時、夏は塩を多めに振りかけるやろ。それと一緒や。何回もやっているうちにどうしていいかが分かってくるんや」

 経験を積んだ料理人は、夏は汗をかくことを計算して、薄味にならないよう塩を多めに使う。スクラムも一緒、と説きます。組む回数を重ねていけば、スクラムにおける強い形、「低く、固まる」が自然にできてきます。

「ワールドカップの時、日本がスクラムを押し込んだように見えたわなあ。あれは、日本はなんにもしてない。低く、固まっただけや。外国人は押せんもんやから、焦って個々に行った。自分らで崩れて墓穴を掘ったんや」

 組み込めば足首も柔らかくなります。可動域が広がれば、地面と平行に低くなれる。相手に対応しやすくなります。
「俺らが現役の頃は、フロントローはくるぶしをカバーするハーフカットのスパイクを履いていた。今はそんなん見んやろ」
 椅子とテーブルの生活。畳で正座はめったになくなりました。

 8人の共闘を大前提に、前列中央のフッカーの重要性も語ります。例を引くのは最後のトップリーグで初4強入りしたクボタ。南アフリカ代表のマルコム・マークスがいます。

「フッカーは後ろがおらんやろ。ロックの押しがないから1対1なんや。せやから、そこが強いと相手の芯が抜ける。腑抜けになる。クボタの両プロップはマルコムについて行くだけでええんや。ただ、彼が抜けたらクボタのスクラムは変わるやろな」

 さて、そのスクラム練習はどれくらいの時間をかければよいのか。

「社会人のフロントローは強い奴を3人集めとる。だから短くてもええ。でも大学なんかは違う。時間をかけんといかんわな」



 予定では30分でも、熱が入ると3倍ほどの時間を費やすこともある。
「最初は誰でも押せるんや。問題は疲れてから押せるかどうかなんや」
 数を組むことはそのためにも必要です。

 でもスクラムは計16人いないと組めません。ひとりでできる練習法はありますか?

「仰向けに寝て、首を浮かせて上下、右と左に動かす。100本づつ、300本してみ。50回過ぎたら首が固まってくるで。安全の面からも首を鍛えるのは大事や。マシンにひとりで当たるのもええ。組み合う時に肝心なんはヒット。地面を蹴るくらいに行くんや」

 最近はあまり聞かれなくなったけど、昔はよく「首を獲る」と言っていました。自分の首と肩で相手の首を固めて、動けないようにしてしまう。体重は関係ありません。また、ヒットの速さと強さは、すみやかによいポジションを取るためにも重要です。

 アキさんは肩車やお姫様だっこをさせて100メートルを走らせたりもします。体重は常に移動するため、ウォーター・バッグと同じ役割を果たし、腹筋や背筋、腰などコアが鍛えられる。「体の強さ」はこの体幹に起因しています。ここがしっかりしていれば、体重が劣っても、大きな問題にはなりません。

 ただ、スクラムは相手のあることなので、押されることもあります。その時はダイレクト・フッキングを推奨します。投入されたボールをフッカーが一気に外にかき出す。劣勢で時間をかけたくない時に使います。

 勝て、と言ってスクラムを組ませているのに、負けた時を想定した練習はできない、という指導者もいますが…。
「その気持ちはわかる。せやけど、試合では何が起こるか分からへん。だから、お守りとして持っとくべきなんやな」
 第二案の準備を言います。

 それでも負けることはある。
「その時は素直に負けを認める。ああじゃ、こうじゃ言い訳をしない。素直というのはいい選手になる最低限の条件や」
 味方や相手やレフリーのせいにしない。ベクトルを自分に向け、再び鍛錬する。

 最後にこう結びました。
「俺は部員たちに、スクラムを押されることは満員の国立競技場で裸になるより恥ずかしいことや、って言うてるよ」
 秋のシーズン本番に向け、悔いを残さないように夏の鍛錬を—。

◆おかだ・あきひさ 1962年(昭和37)5月13日生まれ。59歳。大阪府出身。天理、明大、ワールドでプロップとして現役生活を送る。大阪産業大を経て、2008年度から天理大のFWコーチとしてスクラムを指導する。小松節夫監督とは高校の同期。関西での優勝12回のうち、小松監督が成した8回すべてに関わった。2019年のワールドカップで日本代表スコッドに選ばれたプロップの木津悠輔(トヨタ自動車)は教え子のひとり。

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