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4年に一度の国際ラグビー界のビッグイベントを総チェック! B&I・ライオンズ南アフリカ遠征 前半戦レビュー、後半戦プレビュー【B&Iライオンズ南アフリカツアー J SPORTSで全試合配信】

2021.07.13

2019年W杯のトライ王、WTBジョシュ・アダムス。シグマ・ライオンズ戦で4トライを挙げる活躍を見せた(Photo: Getty Images)

コロナ陽性者確認で緊急事態も、ビッグスコアの3連勝で前半戦乗り切る

6月26日にスコットランドのエディンバラで日本代表と対戦(28-10で勝利)したB&Iライオンズは、南アフリカ到着から5日後の7月3日に、ヨハネスブルクを本拠とするシグマ・ライオンズと遠征初戦を行なった。ゲームは開始3分に20歳の新鋭WTBルイス・リースザミット(ウエールズ )のトライで先制したB&Iライオンズが序盤から主導権を握り、21-7とリードして前半を折り返し。後半、シグマ・ライオンズの激しいコンタクトに手を焼く場面もあったものの、65分以降に3トライを挙げて突き放し、56-14で勝利を収めた。

上々のスタートを切ったB&Iライオンズだったが、7月7日のシャークスとのツアー2戦目を前に激震に見舞われる。試合当日に所定の検査で選手1人、スタッフ1人の新型コロナウイルス陽性者が確認され、さらに選手8人、スタッフ4人が濃厚接触者に。急遽キックオフを1時間遅らせ、当初の登録メンバーから8人を入れ替えて試合を実施することになった。

もっとも、そんな緊急事態にもチームはぐらつかなかった。開始2分、あざやかな連続オフロードパスから抜け出したWTBジョシュ・アダムス(ウエールズ)がトライを挙げて猛攻の口火を切ると、さらにWTBドゥハン・ファンデルメルヴァ(スコットランド)らが3トライを追加し、26-0でハーフタイムを迎える。後半、連戦の疲れが見え始めたところでシャークスに1トライを許したが、そこからリザーブのフレッシュレッグを次々と投入してふたたびリズムに乗り、計8トライを奪取。54-7で連勝を飾った。

南アフリカ出身で同国U20代表経験もあるWTBドゥハン・ファンデルメルヴァ。
母国でのテストマッチ出場に向け猛アピール(Photo: Getty Images)

その後も非常事態は続き、プレトリアに会場を移しての遠征3戦目は、当初対戦が予定されていたブルズの選手4人とスタッフ1名に新型コロナウイルス陽性者が出たため、3日前に戦ったばかりのシャークスとの再戦に変更された。前節を欠場したメンバーの多くが復帰し、先発15人中13人を入れ替えて臨んだB&Iライオンズだったが、気迫を前面に押し出したシャークスの攻守に受けに回り、26-26のイーブンで前半を終了。しかし後半4分にシャークスのSHジェイデン・ヘンドリクスが危険なプレーでレッドカードを受け一発退場になると、流れは大きくB&Iライオンズ側へと傾く。直後の47分にラインアウトモールを押し込んでゴールラインを越えたのをはじめ、後半だけで7トライを加えて圧倒。71-31のビッグスコアで、ツアー3連勝を決めた。

目を引く防御面の充実とBKの決定力。ボクス戦ではセットプレーが焦点に

南アフリカでは現在、新型コロナウイルスの第3波が猛威を振るっており、綱渡りのやりくりが続く今回のB&Iライオンズだが、チームの仕上がりという点では着実にステップを重ねている。とりわけ目を引くのは、ディフェンス面の充実だ。ジャパン戦からシグマ・ライオンズ戦、シャークス戦と、ゲームを重ねるごとに連携が強化され、安定感が向上。シャークスとの第2戦はルーズなプレーも散見され5トライを許したが、大勝した相手と短いスパンでの再戦で気の緩みが出るのも仕方のない部分があり、心配する必要はないだろう。

アタックではバックスリーの決定力が際立っている。中でも好調ぶりをアピールしているのがアダムス、ファンデルメルヴァのWTB2人で、これまでの4試合でそれぞれ8本、5本とトライを量産しているのは心強い。アンソニー・ワトソン(イングランド)もシャークスとの第2戦で2トライを挙げて実力を示しており、テストメンバーをかけたチーム内競争は激化している。

スプリングボクスとのテストマッチで最大の焦点と見られているのは、攻守の起点であるスクラムとラインアウトだ。2019年のラグビーワールドカップでは、この2つのセットプレーを制圧したことが南アフリカの優勝の原動力になった。今回のB&Iライオンズにはその時に苦渋をなめたイングランド(決勝で12-32の敗戦)、ウエールズ(準決勝で16-19の敗戦)のメンバーが多数含まれており、相当な決意を持ってこのツアーに臨んでいるはず。ここまでの戦いぶりを見ても随所に研究と対策の成果が見てとれるだけに、どんな局地戦が繰り広げられるのか、興味がふくらむ。

7月10日のシャークスとの第2戦でゲームキャプテンを務めたHOジェイミー・ジョージ。
テストマッチに出場すれば2019年W杯決勝の雪辱戦となる(Photo: Getty Images)

2013年のオーストラリアツアー、2017年のニュージーランドツアーに続きB&I ライオンズで3回目の指揮を執るウォーレン・ガットランド監督は、遠征の前半戦ですべての選手に先発機会を与えることを明言し、実際にさまざまな布陣でテストマッチに向けたメンバーの見極めを進めてきた。リーダーについても、ジャパン戦で負傷し離脱したLOアラン=ウィン・ジョーンズ主将(ウエールズ)に代わってSHコナー・マレー(アイルランド)をツアーキャプテンに指名したほか、FBスチュアート・ホッグ(スコットランド)、LOイアン・ヘンダーソン(アイルランド)、HOジェイミー・ジョージ(イングランド)を順にゲームキャプテンとして出場させるなど、入念に備えを施している。ここはこれまでのB&I ライオンズでの経験がもっとも生きる分野であり、チームの仕上がりのよさの要因ともいえるだろう。

3度目のライオンズ指揮となるウォーレン・ガットランド監督。過去の経験を生かし、どんなゲームプランでテストマッチに臨むか(Photo: Getty Images)

ひとつ気がかりなのは、選手のコンディションだ。スクランブル起用を余儀なくされたことで、試合間隔を考慮しながら37人のメンバーをローテーションさせるのが難しくなり、一部の選手に連戦の負担が集中しつつあるのは痛い誤算だろう。7月11日にはアキレス腱を痛めたSOフィン・ラッセル(スコットランド)に離脱の可能性が持ち上がり、そのカバーとしてプレミアシップでハリクインズを優勝に導いた22歳のSOマーカス・スミス(イングランド)が追加招集された。今後は7月14日の南アフリカA戦、17日のストーマーズ戦を経て24日の第1テストを迎えるが、タイトな日程、限られた機会の中でいかにチーム状態をピークに引き上げていくか、首脳陣の手腕が試されることになる。

世界一のフィジカルにどう対抗するか。国際ラグビー界の潮流を左右する一戦

迎え撃つ南アフリカも、チーム状況を懸念されている。7月に入りジャック・ニーナバーヘッドコーチを含む複数のスタッフと選手が新型コロナウイルスの陽性を確認され、1年8か月ぶりのテストマッチとなった2日のジョージア戦(40-9で勝利)を終えた翌週の練習をすべてキャンセル。9日に予定されていたジョージアとのテストマッチ第2戦も中止になった。

2019年の世界最優秀選手に輝いたFLピーター=ステフ・デュトイ。足の大ケガで選手生命の危機に陥ったが、ジョージア戦で久々のテストマッチ出場を果たした(Photo: Getty Images)

チームは6日間の隔離を経て、10日土曜日の検査で陰性を確認されたメンバーたちが、翌11日からトレーニングを再開。現在はキャプテンのFLシヤ・コリシを筆頭に、PRオクス・ンチェ、HOボンギ・ンボナンビ、HOスカーラ・ントゥベニ、FL/NO8ダン・デュプレア、WTBマカゾレ・マピンピの6人がコロナ陽性で隔離されており、代役としてシャークスのHOフェズ・ムバタとブルズのPRリゾ・ゴボカが招集された。同じく隔離が続いているニーナバーヘッドコーチに代わり、ダイレクター・オブ・ラグビーのラシー・エラスマス(2019年ラグビーワールドカップ時の南アフリカ代表監督)が臨時でフィールドセッションをリードし、急ピッチでチーム作りを進めている。

ジョージアとの第2テストができなかったことで、スプリングボクスにとって14日の南アフリカA-B&Iライオンズ戦は、より重要な意味を持つ一戦となった。これはB&Iライオンズにおいても同様で、テストマッチに近い強度のゲームを経験できる絶好のチャンスとなる。それぞれがどのような布陣を組み、どんなゲームプランで挑むのか、そしてその結果がどうなるかによって、24日の第1テストの見通しも大きく変わってくるだろう。

ニーナバーヘッドコーチは11日のトレーニング再開に際し、こうコメントを発表している。

「非常事態に際しチームとして適応しなければならなかったが、それを実行した選手たちとマネジメント陣を称賛したい。私が離れている間、ラシー(エラスマス)がチームの舵取りをしてくれるのもすばらしいこと。彼は何年もその役割を担ってきており、現スコッドの選手たちの多くを2019年のラグビーワールドカップでタイトルに導いている。チームは安泰だといえます」

世界王者スプリングボクスを率いるジャック・ニーナバーヘッドコーチ。2019年W杯ではディフェンスコーチとして当時のラシー・エラスマス監督(右)を支えた(Photo: Getty Images)

ラグビーワールドカップ2019日本大会において、南アフリカは強靭なフィジカルを前面に押し出したパワーラグビーで頂点に立った。慣れ親しんだホームで戦う今回のB&Iライオンズとのテストシリーズは、ボールがよく飛ぶ高地でのゲームという要素を存分に生かし、キックでエリアを進めて、コンタクト局面の強みにフォーカスした戦い方を踏襲してくることが予想される。

そしてB&Iライオンズはそのスプリングボクスに対抗するために、2年近くをかけてあらゆる準備に取り組んできた。そうした両者の歩みとプライドが激突するテストマッチ3戦の結果によって、国際ラグビー界の次の潮流にも大きな変動が出てくるだろう。この重要な審判の機会を、刮目して楽しみたい。

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