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【ラグリパWest】ジャイアント・キリング 中宮中学校[大阪府枚方市]

2021.07.08

中学ラグビー界の巨象・東海大大阪仰星の連勝記録を50で止めた枚方市立中宮中学校の黒田義則監督。仰星中の能坂尚生監督は東海大の後輩になる。後方は練習後のクールダウンをする部員たち



 大阪・枚方(ひらかた)の市立中学校では、「弾力化」という言葉がある。

 校区の中学に希望する部活がない場合、市内に限り、その部活のある中学に行ける。柔軟な対応が「弾力」である。

 市内の公立は19校。ラグビー部は中宮(なかみや)、さだ、楠葉(くずは)、枚方三、杉の5校にある。

 人気があるのは中宮だ。監督は保健・体育教員でもある黒田義則。これまで、楠葉で6年、さだで9年を過ごし、その時々、それぞれを強豪にした。今年42歳。日焼けした肌から精悍さが漂う。

「今の中3はヒーローズカップで準優勝したメンバーのうち、8人が来てくれました」
 地元の枚方ラグビースクールは2018年度、小学生の全国大会決勝で東大阪KINDAIに10−25と敗れた。このスクールには中学部がない。主力は中宮に入学する。同時に黒田が赴任。異動のうわさは前から出ていた。

 中学ラグビーは12人制で20分ハーフ。8人は1年から試合出場。磨かれた才能に黒田の3年のコーチングが溶け合う。快挙は必然だった。6月19日、大阪府総体で優勝する。東海大大阪仰星を34−0と完封した。
「うれしかったです。仰星は近くにあって、常にトップ。リスペクトしていました」
 同じ枚方にある2つの中学は徒歩で20分ほどの距離にある。

 仰星は中学界の「ジャイアント」だった。中学日本一を決める太陽生命カップで2017年の8回大会から3連覇。優勝回数3は天理と並び最多。その連勝は日本一を絡めた中では中学2位となる50だった。

 中宮はその記録を止める。

 仰星は実は50の前に中学1位となる51連勝があった。その間の黒星はわずかひとつ。この2つはつながるはずだった。

 2018年11月4日、近畿大会の初戦で京都の藤森(ふじのもり)に15−47で敗れた。この時、3年生はハワイへ修学旅行中。そのため下級生で試合に臨んだ。仰星は、同年9月、太陽生命カップに優勝している。

 さらに、昨年はコロナの影響で、太陽生命カップなど関わる4大会が中止になった。それらが開催されておれば、トータルで100を優に超える連勝をしていたことになる。

 連勝記録としては、社会人では日本選手権と全国社会人大会(トップリーグの前身)を7連覇する神戸製鋼の71(1988〜1994年度)。大学は選手権9連覇の帝京の50(2012〜2015年度、対社会人は除く)がある。

 仰星の最初の51連勝がスタートしたのは2017年1月14日。北河内地区の新人戦で、くしくも黒田の前任校であるさだを56−0と破った。監督の能坂尚生は黒田の東海大の後輩。仰星は全国大会優勝5回を誇る高校と一緒の練習を軸に、強さを磨き続けた。

 黒田は仰星高を卒業後、東海大、同大学院に学んだ。現役時代は正HO。仰星を凌駕した方法論を語る。
「フィジカルに力を入れました」
 体の強さとスタミナをつける。コンタクトバッグに当たり、寝て、ボールを置き、ヒットを続ける。30メートルの正方形を10キロほどのウォーターバッグを差し上げて、リレー形式でぐるぐる回る。



 雨が降れば、校舎の廊下で雑巾がけや手押し車。階段はおんぶをして上り下り。ウエイト設備などはない。土のグラウンドは狭く、トラックは200メートルだ。
「ポールは建てられません。試合をするには出て行くしかありません」
 平日の練習はコロナのため45分。さらに週2日のオフが義務づけられている。その現状を聞いて、高校時代の恩師、仰星中高の土台を作った土井崇司(現・東海大相模校長)は絶句したと言われている。

 逆境でも黒田はアイデアを考える。練習中は精力的に動き、助言を送る。
「ナイス。今のパスは愛情がこもっていた」
 ほめてやる気を引き出す。
「先生は教えるのがうまいです。僕たちが納得できます。楽しいしです」
 主将の名取凛之輔は充実感を漂わせる。168センチ、69キロのCTBである。

 名取も準優勝メンバーのひとり。越境して中宮に来た。本来は招堤(しょだい)の校区だが、ラグビー部は以前に廃部になった。路線バスで片道30分ほどかけ登下校する。
「バスの本数は結構あります」
 学校は市の中心、京阪枚方市駅から車で南へ10分ほどの住宅地にある。

 中宮の学校創立は1971年(昭和46)。全校生徒は500人弱の中規模校だ。ラグビー部の創部は1990年。7年ほどして廃部になったが、9年前に復活する。顧問は黒田と英語教員の秋元文利。枚方高から摂南大に進み、現役時代はWTBだった。現在の部員数は48。3年生から順に13、19、16人。弾力化のため、半数以上が経験者だ。

 枚方は大阪と京都の間にあり、北に淀川を臨む。地域的には北河内と呼ばれる。含まれるのは枚方、交野、四条畷、大東、寝屋川、門真、守口の7市。この地域はラグビーが盛んで、高校全国大会の優勝校として、仰星、大阪桐蔭、常翔啓光の3校がある。

 中宮を含め北河内にある中学は、勝ち続ければ最大で年間7大会をこなす。北河内の大会が3回。新人戦(1月)、春季(4月)、秋季(11月)。今年、この新人戦決勝で中宮は仰星と顔を合わせたが、コロナで中止になった。春秋の北河内大会で勝ち上がれば、それぞれの府大会に出場する。春は太陽生命カップ、秋は近畿大会の出場権がある。

 ただ、太陽生命カップの出場は変則で、大阪府選抜として参加する関西大会の結果で決まる。毎年7月末に岐阜・数河(すごう)で開催される大会において、選抜が勝てば、出場権は単独チームに回って来る。この府選抜に中宮は7人を送り込んでいる。

 出場権を得ても、コロナのため、2年連続で太陽生命カップが中止になる可能性もある。仮にそうなっても名取は前向きだ。
「3年は負けなしで、出る全部の大会を優勝して終わりたいです」
 中学ラグビー界にすい星のごとく現れた中宮。その名前をさらに高めていくことだけを部員も指導者も考えている。