ラグビー日本代表がヨーロッパ遠征を終えて帰国し、藤井雄一郎・日本代表ナショナルチームディレクターが総括メディアブリーフィングをおこない、秋の活動や今後の課題についても語った。
英国とアイルランドの精鋭を集めたブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに10-28で敗れ、世界ランキング4位のアイルランド代表(日本代表は10位)には31-39と惜敗したが、パフォーマンス的にはいい試合ができたと思う、と藤井ディレクターは振り返る。
「(5月下旬に)別府合宿からスタートして、チームは尻上がりに良くなった。負けはしたが、いい方向に向かっているんじゃないかなと思う。アウェイでの試合、それにコロナで隔離された環境のなかでホテルから一歩も出られず、選手はストレスもあったと思うが、集中力を切らさずにワンチームを保って、最後まで、コーチ陣、選手ともに戦い抜いてくれた」
遠征前の準備期間は約1か月間しかなかったが、いいパフォーマンスが出せた要因は、2019年のワールドカップを経験した選手たちの存在が大きかった。コーチ陣やリーダー陣がどのようにしたらチームに早く戦術・戦略を落とし込めるかというノウハウを身につけていたため、新しい選手たちにとっても助けになったという。
藤井ディレクターは、プレー面ではセットプレーの奮闘を評価。「セットプレーの進め方も含めて、リーダー陣とコーチ陣がうまく連携して、起きている間はずっとセットプレーの勉強をしている感じだった」
SH齋藤直人やWTBシオサイア・フィフィタなど若い選手もテストマッチデビューを果たして活躍し、「少し層は厚くなったかな」と、今回の遠征で良かった点として挙げた。
そして、強豪のライオンズとアイルランド代表に対して、「つけ入るスキルをみんな身につけた」という。「今後はそれを相手によって変えていくことが必要。パワーであったりスピードであったり、スキルが身についてきたので、どういうふうにして相手を弱らせていくかという方法を身につけたのはいいことだと思う」
遠征中には姫野和樹や松島幸太朗などが負傷してしまったが、藤井ディレクターによると、幸い大きなけがではなく、時間が経てばきっちり治っていくだろうとのこと。
試合以外でも課題は見つかり、“アウェイの洗礼”は今後に向けていい経験となったかもしれない。
藤井ディレクターいわく、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦がおこなわれたスコットランドでは、最初、練習場として連れていかれた場所はポールもないようなグラウンドだったという。
「オールブラックス(世界トップクラスのニュージーランド代表)だったら絶対使わないような練習場だった。そういう意味ではまだまだ、世界と渡り合えるところまではいけてないなと実感した。かなりストレスを感じる環境のなか、みんな集中力を切らさずよくやったなと思うが、サインプレーがほとんどバレていた。気をつけてやったのだが、完全に丸裸にされていた。そういう意味では今後、意表を突くプレーも自分たちのなかで作っていかないと、ああいう相手には勝てないんで、いまからの課題かなと思う」
練習場の確保など環境面の整備については、コーチ陣や選手の問題ではなく、日本ラグビー協会や自分たちの仕事とし、「私たちが直接入って交渉していかないと、アウェイではストレスしかなくなってしまう」と藤井ディレクター。「(ライオンズ側からは)絶対に負けられないという雰囲気は感じていた。そのなかで勝つためには、いまのままだとコーチ陣、選手たちがプラス10%の実力をつけないと勝てない状況なので、ギリギリのチームに勝つにはその部分でも上回っていかないといけない。全体で戦わないと、特にアウェイでは、勝つのは難しいと思っている」
今回のヨーロッパ遠征で多くの収穫と課題を得た日本代表。秋にもツアーを予定しており、8月末から再び選手を集めて活動を再開する。
人数は、今回ヨーロッパに行った選手(36名=FW:21、BK:15)よりは多めに招集する予定。
春に発表されたワイダースコッド(日本代表候補)以外からも呼ぶ可能性はあり、日本代表の強化試合のためにサンウルブズのメンバーとしてプレーした選手も対象となる。声がかかった選手は個人メニューで少し早めに動き出すことになりそうだ。そして、今回遠征に行ったメンバーで、体脂肪率や規定のフィットネスの数字が合格ラインに達していない選手は早めに始動し、9月2日にテストをおこない、その時点で最初の合宿から呼ぶ選手などを決めていくという。全員そろっての合宿スタートは9月中旬ころになる予定。
秋の試合については、ホームで練習試合も含めて2試合、海外に行って3試合、計5試合を交渉中だという。現時点では、11月20日にエディンバラでスコットランド代表と対戦することが決まっている。
2023年のワールドカップ・フランス大会まであと2年だが、日本代表に続く次のレベルの選手たちのプレー機会が十分ではないのも課題のひとつ。コロナ禍の影響でU20(20歳以下)日本代表が出場する予定だったワールドラグビー U20チャンピオンシップは2年連続で中止となり、ジュニア・ジャパンは昨年3月のワールドラグビー パシフィック・チャレンジを最後に活動できていない。国内トップレベルの新リーグは来年1月スタート予定で、日本代表選手以外は試合間隔がかなり空くことになる。
藤井ディレクターもそれについては重要な問題と考えており、頭を悩ませているという。
「(日本代表の)スコッドに外れた選手が、次のレベルでやるチームがない。ちょっといいなと思う選手を、代表の次のクラスで国際レベルの試合を経験させたいなと思っている。サンウルブズがなくなってしまったので、若い選手にどうやって経験を積ませるかというので悩んでいる。例えば、トップリーグで1チーム作って若い選手を大会に出させるとか、トップリーグに出させるとか、そういうチームを作っていかないと。ちょっと見たい選手が、自分たちのやりたいラグビーのなかでできるかどうかというのがなかなか見られない状況なので」
サンウルブズがスーパーラグビーから除外されて解散し、ジュニア・ジャパンやU20日本代表などが参加できる国際大会がかつてのように実施されるのはいつになるかわからない現状、日本代表につながる次のレベルの選手たちの育成も重要課題となっている。