2019年の雪辱に燃えるアイルランド。ブレイクダウンとハイボール処理が鍵に
1年8か月ぶりのテストマッチ、しかも相手はイギリスとアイルランドの精鋭がひしめくあのブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズである。歴史的勝利には届かなかったものの、随所に持ち味を発揮しての10-28の敗戦という結果は、あらためて日本代表の地力向上とさらなる躍進の可能性を感じさせた。そして、だからこそ、1週後の7月3日に行われるツアー2戦目のアイルランド戦(日本時間21時キックオフ@ダブリン・アビバスタジアム)は、より内容を問われる重要な一戦となる。
過去の戦績はアイルランドが9勝(キャップ非対象のアイルランドXVとして戦った2試合を含む)、ジャパンは1勝とアイルランドが圧倒しているものの、直近の対戦である2019年のラグビーワールドカップでは、ジャパンが19-12でアイルランドから初白星を手にした。現在ワールドラグビーランキング4位の誇り高き緑の戦士たちは、雪辱を果たすべく必勝を期してこの試合に臨んでくるはずだ。そこできっちりと対抗してふたたび勝利をつかむことができれば、2023年のワールドカップフランス大会に向けたジャパンの強化に大きく弾みがつく。
ライオンズ戦では、ブレイクダウンのフィジカルバトルでプレッシャーを受け反則が重なったことが、前半の劣勢と失点につながった。クイックテンポのゲーム運びはジャパンの生命線であり、当然ながらアイルランドもそこで圧力をかけて組み伏せにくるだろう。激しく体を当てるとともに、緻密なスキルと滑らかな連携、鋭いリアクションでスピーディーにボールを動かし続けることが、勝利への鍵となる。
もうひとつの見どころが、ハイボールの処理だ。アイルランドは伝統的に高く長いキックで前進したところから強力FWでたたみかける戦法を得意としており、その起点となるSHからのボックスキックやハイパントの対応でエラーが起これば、必然的に流れはアイルランド側へ傾く。相手の蹴り上げたボールをしっかりと確保し、ピンチの芽を摘み取っていくことが、主導権を握る上での絶対条件といえる。
アイルランドは、負傷したLOアラン=ウィン・ジョーンズに代わってツアーキャプテンに指名されたSHコナー・マレーを筆頭に、PRタイグ・ファーロンやLOイアン・ヘンダーソン、CTBロビー・ヘンショウら主軸7名をライオンズに送り出しているほか、SOジョニー・セクストン、PRキアン・ヒーリー、WTBキース・アールズのベテラン3人も休養のため今夏の代表入りが見送られた。とはいえ、北半球屈指のLOと評されるジェームズ・ライアンや、ヨーロッパを代表するハードワーカーであるピーター・オマーニー、ジョシュ・ファンデルフレイヤーのFL陣、中盤でBKラインを牽引するCTBガリー・リングローズ、2018年のシックスネーションズのトライ王であるWTBジェイコブ・ストックデールらを擁するスコッドは強力だ。上記の5人をはじめ2019年のジャパン戦で苦渋をなめた選手が9人含まれており、相当な決意でこのゲームに挑んでくるだろう。
アンディ・ファレル監督率いるチームは6月22日にダブリン郊外のアイルランドユニオンのハイパフォーマンスセンターに集合し、ジャパン戦に向けたトレーニングキャンプをスタートさせた。国内のクラブに所属する選手は6月13日までPRO14のレインボーカップを戦っており、選手個々のコンディションはほぼトップフォームに近い状態だろう。一方でチームとしての活動期間はまだ10日ほどしかなく、仕上がりという点では、5月末から合宿を行いサンウルブズ戦とライオンズ戦の2試合を戦っているジャパンに分がある。ジャパンとしてはそのアドバンテージを生かし、相手の焦りを誘うような展開に持ち込みたいところだ。
ライオンズ戦で印象残したインパクトプレーヤーたち。この試合の結果が今後の強化を左右する
ライオンズ戦を振り返ると、前半はコリジョンの部分で相手の圧力を受け思うようにアタックを仕掛けることができなかったが、後半はフレッシュな選手を次々と投入して攻撃の流れを引き寄せ、自分たちの形で攻め込むシーンを数多く作った。とりわけ鮮烈なインパクトを残したのが、今季のスーパーラグビーで新人賞に選出されたハイランダーズ所属の姫野和樹だ。6月19日のスーパーラグビー トランス・タスマンの決勝後、ただちにニュージーランドを経って21日に合流するという強行軍だったが、50分にキャプテンのFLリーチ マイケルに代わってピッチに登場するや、自慢のパワフルなボールキャリーでディフェンスブレイクを連発。59分にはラインアウトからのサインプレーでタックラーを弾いてトライも挙げるなど、存分に強みを発揮してチームに勢いをもたらした。体調、コンビネーションいずれも良化が期待できるアイルランド戦では、さらに多くの見せ場を作ってくれるだろう。
歴史的一戦で記念すべき初キャップを獲得した23歳のSH齋藤直人も、サンウルブズ戦に続いて強い輝きを放った。ラックができた瞬間にボールアウトするような高速の球さばきはこれぞ日本ラグビーの真骨頂というべき躍動感をたたえており、初めてのテストマッチ、それもライオンズを相手に堂々と自分らしさを出せる度胸のよさも頼もしい。過去2戦は後半からの登場でテンポを上げる役割を担ったが、スタメンに起用して序盤からフルスロットルで振り回す展開に持ち込むのもおもしろそうだ。
初代表組でただひとり先発に起用されたWTBシオサイア・フィフィタ、2016年以来5年ぶりの代表返り咲きで途中出場を果たしたNO8テビタ・タタフも、持ち前の推進力を生かした突進で実力をアピールした。ともにジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制のジャパンで活動するのは今回が初めてで、周囲との連携が成熟していくのはまだこれから。トレーニングやゲームの経験を重ね、名参謀のトニー・ブラウンアシスタントコーチが描く多彩なチーム戦術にフィットすれば、さらなる上昇も十分見込める。
2019年の対戦はジャパンのホームゲームで、日本特有の蒸し暑さが残る中での戦いというアドバンテージもあった。一方今回は、敵地での過ごしやすい気候下の試合となる。アイルランドは今週に入り主将のLOライアンが内転筋のケガを抱えていることが明らかになり、ジャパン戦の出場は微妙な状況だが、ホームの地で、同じ相手に2度続けて負けられないという思いは強いはず。そうした要素を跳ねのけて勝利を挙げることができれば、いよいよジャパンは文句なしのティア1国として世界から遇される存在になるだろう。
コロナ禍によりおよそ20か月も実戦から遠ざかったブランクを埋めるためには、ここから2023年ワールドカップまでの2年間で強豪国との対戦を数多く組むことが重要になる。テストマッチで戦う力を高めるには、テストマッチの経験を重ねていくしかない。そして目の前のテストマッチの結果と内容が、その先のマッチメイクの道筋を左右する。2015年と2019年のワールドカップでの躍進は、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦というこれ以上ない機会をもたらしてくれた。この絶好の流れをより大きく強くしていく上で、今回のアイルランド戦はジャパンにとって非常に重い意味を持つテストマッチといえる。
チームはライオンズ戦翌日の27日にスコットランドを出発し、ダブリンへ移動。28日月曜日よりアイルランド戦に向け本格的なトレーニングを開始した。ヨーロッパ到着から2週間が経ち、今回は時差のない短距離移動ということもあって、前週以上にいいコンディションで試合に臨めるはずだ。最大限のパフォーマンスを発揮し、すばらしい結果でツアーを締めくくってくれることを期待したい。
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