肩にかけた小さいポシェットから紫の布を出す。口元へつける。「やっぱり負けたくなかった」と言った。
「勝ち切れてよかったです。いちばん、行けた大学。そこを行かんとメイジに来たというのもあるので。去年負けて、もう負けられない気持ちがありました」
強い陽のさす長野・飯田市総合運動場で、中山律希が安堵の顔つきだ。
明大ラグビー部2年の左PRは6月20日、開催された招待試合に後半9分から出場。ノーサイド直前の勝ち越しで26-21と白星を得た。
相手は天理大。飾り気のない「いちばん、行けた大学」との言い回しは、天理高時代に内部進学を勧められていた経緯を指す。
本人は将来の選択肢を考慮して明大の誘いに応じているが、昨季、大学選手権準決勝での両校の直接対決には出られず。15-41と敗れるのを観客席で見つめた。やがて天理大は、初の大学日本一に輝いた。
中山が「もう負けられない」と述べた理由は、ひとつではなかった。
「去年はスタンドから見ていて…。かなり悔しかった」
特徴ある戦士だ。いまは公式で「身長169センチ、体重105キロ」と小柄も、躍動感ある突破、鋭いタックルを繰り出す。倒れてもすぐに起き上がる。
大阪の真住中2年時にサッカーから転じ、さまざまなポジションを経験して動けるPRとして台頭したのだ。奈良の天理高では17歳以下日本代表、高校日本代表に選ばれている。
大学入学後は、大型選手の多い右PRから技巧派も多い左PRへ転じる。2年目となる今年度は、春季大会3試合中2試合にリザーブに入り。試合終盤にインパクトを発揮する。6月13日の静岡・エコパスタジアムでは、帝京大との招待試合に途中から出て軽快に走った。
なにより今度の天理大戦では、さらに向上させたいスクラムで魅した。相手から反則を誘えた。これには本人が「最近、だめだったんですけど、修正していいスクラムを組めるようになった」と話しただけでなく、指揮官も手応えをつかむ。
今年6月に就任の神鳥裕之監督は、中山の働きをこう評したのだ。
「もともとフィールドプレー(攻守の動き)がむちゃくちゃいい。コーチ陣からの信頼を得るにはスクラムを…とされるなか、きょうは後半の(チームの)スクラムのスタンダードを(好位置に)戻してくれた。収穫でした」
明大はこの午後をもって、春のシーズンを終える。
最近は、始動時から走り込んだ成果を各所で発揮していた。「走り勝つ。メイジの今年の強みです」。チームの「強み」と自分のよさがリンクしている中山はいま、課題と見られていた領域でも進化の兆しを覗かせるのだ。
全国の凄腕が揃う強豪大にあって、誰にも似ない個性を磨く。