豪華布陣のライオンズ。チームとしての成熟度に突破口あり!?
歴史的一戦。そんな表現がこれほどふさわしい試合もないだろう。
6月26日に日本代表が対戦するブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズは、イングランド、スコットランド、ウエールズ、アイルランドという強豪4か国の選抜メンバーによって編成される文字通りのドリームチームだ。結成は4年に一度で、近年は南半球のニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアへ4年おきに遠征するのが通例となっている。つまりそれらの国々ですら、ライオンズと戦えるチャンスは12年に1回しかない。
ツアーのために結成されるチームだけに、ライオンズがホームの地で試合をするのはさらに稀だ。かつてイギリス国内でテストマッチが行われたのは、1986年の世界選抜戦、2005年のアルゼンチン戦の2試合のみ。1888年から続くライオンズの長い歴史において、ジャパンはその3つ目のチームという栄誉に浴することになる。
6月22日には早々にジャパン戦に出場するライオンズの登録メンバーが発表されたが、イギリスおよびアイルランドのトッププレーヤーの中から選び抜かれたよりすぐりの精鋭集団とあって、その顔ぶれはまさに「ベスト・オブ・ベスト」というべき豪華さだ。キャプテンを務めるのは世界最多キャップ保持者であるウエールズの闘将、LOアラン=ウィン・ジョーンズ。そのほか、今年の6か国対抗で最優秀選手に選ばれた元気者のFLハミッシュ・ワトソン(スコットランド)、187cmの長身を生かし長いパスとキックでチームを前に出すSHコナー・マレー(アイルランド)、ラグビーワールドカップ2019日本大会のトライ王を獲得した天性のフィニッシャーWTBジョシュ・アダムズ(ウエールズ)らが先発に名を連ね、世界屈指のタイトヘッドと評されるPRタイグ・ファーロン(アイルランド)、精密機械のようなプレースキックと大型FWを仰向けに倒すビッグタックルが持ち味のSO/CTBオーウェン・ファレル(イングランド)らもリザーブ入りした。
今回のライオンズの対戦スケジュールを見ると、日本代表と戦った後すぐに南アフリカへ渡り、南ア国内の4大強豪クラブや南アフリカA代表と5試合を実施。そして7月24日から3週連続で、2019年のワールドカップ王者である南アフリカと3テストマッチを行う。2013年のオーストラリア遠征、2017年のニュージーランド遠征に続いて3度目の指揮を執るウォーレン・ガットランド監督は、メンバー選考に際し「南アフリカとのテストマッチシリーズに勝てるチームだと信じている」と自信に満ちたコメントを残している。
もっとも、イングランドのプレミアシップとフランスのTOP14のプレーオフが重なり、所属先でのゲームに出場する選手が数多く出たため、イギリス海峡に浮かぶジャージー島で6月14日から始まったトレーニングキャンプの初日に集合できたのは37名中26名。今週の月曜日にはプレミアシップ決勝に進出したエクセター・チーフス所属の4人を除く33名がそろったが、チームづくりはまだ始まったばかりといっていい。5月末からハードな合宿を行い、サンウルブズと実戦もこなしているジャパンは、そのアドバンテージを生かした一体感ある攻守で突破口を開きたいところだ。
ライオンズに「負けられない戦い」の重圧。ジャパンの迷いない挑戦に期待ふくらむ
では日本代表の仕上がり具合はどうか。6月12日のサンウルブズ戦では、相手の気迫みなぎるコンタクトに押され前半3-14とリードを許すなど苦しんだ(最終スコアは32-17で勝利)。もっとも、合宿で厳しいトレーニングを重ね疲労が蓄積していた点、またライオンズ戦に向け極力手の内を明かさずに戦った点は、割り引いて考えるべきだろう。国際ラグビー界でも戦略家としてリスペクトされるトニー・ブラウンアシスタントコーチの練り上げた緻密なラグビーを万全のコンディションで遂行できれば、飛躍的に向上したパフォーマンスを見せる可能性は十分ある。
戦力面でも心強い存在が帰ってきた。フランスTOP14のクレルモン・オーヴェルニュで活躍するWTB/FB松島幸太朗と、ニュージーランドのハイランダーズでスーパーラグビー トランス・タスマンの決勝の舞台に立ったNO8姫野和樹の2人だ。所属チームのプレーオフ出場により松島が6月19日、姫野が同21日とライオンズ戦直前での合流になったが、多くのメンバーは2019年のワールドカップでともに戦っており、連携面の不安はほとんどない。海外のタフな環境で揉まれ、さらに成長を遂げたこの2人が出場するとなれば、ジャパンのチーム力はもう一回りスケールアップする。
日本代表はサンウルブズ戦を終えた後、6月16日に日本を出発し、翌17日からスコットランド・エディンバラでのトレーニングを開始。26日の15時(日本時間23時)、同地のマレーフィールドでキックオフとなるライオンズ戦に向け、入念に最終調整を進めている。登録メンバー23人は試合開始48時間前の日本時間24日23時に発表される予定。サンウルブズ戦を経てどのような布陣で世紀の大一番に臨むのか、期待はふくらむ。
ジャパンにとって1年8か月ぶりのテストマッチとなるライオンズ戦の最大の焦点は、セットプレーだろう。ライオンズにはセットプレー大国であるイギリスおよびアイルランドの名だたる猛者たちが集まっており、まずスクラムやラインアウトでプレッシャーをかけにくるのは間違いない。2019年のワールドカップで快進撃の原動力となったように、相手が強みとするこのパートでしっかりと対抗することが、勝利への第一条件となる。
またサンウルブズ戦ではブレイクダウンで劣勢を強いられ、本来のクイックなテンポでアタックを仕掛けられなかったことが苦戦の要因となった。スピーディーにボールを動かすスタイルはジャパンの生命線であり、当然ながらライオンズもそれを阻止するべくブレイクダウンで勝負をかけてくるはずだ。ボールキャリーとサポートの精度をとことん突き詰め、フィジカルバトルで激しくファイトして、存分にライオンズを振り回してほしい。
集合からわずか10日の練習で試合に臨むライオンズは、おそらく複雑なサインプレーや込み入った戦術を自在に使いこなすまでには熟成されていない。シンプルにストロングポイントを押し出してジャパンをねじ伏せにくるだろう。そこできっちりと対抗できれば、攻め手は一気に狭まる。
ライオンズにすれば、近年急成長を遂げている相手とはいえ国際ラグビーの歴史においては圧倒的に自分たちが格上であり、まして滅多にないホームでのテストマッチだ。少なからず「負けられない戦い」の重圧はかかるだろう。一方でジャパンは、サンウルブズ戦とはいわば逆の立場で迷いなくチャレンジすることができる。
ちなみに2005年のニュージーランド遠征前にカーディフで行われたアルゼンチンとのテストマッチでは、フランス選手権のプレーオフと重なり主力26人が参加できなかったアルゼンチンに対しライオンズも控え選手主体で臨み、終了間際のPGで辛くもライオンズが追いついて25-25で引き分けている。むろんジャパンにとってタフな戦いであるのは事実だが、準備期間、選手のコンディション、ゲームにおける立ち位置など、有利な要素も少なくない。勝機は十分にあると見る。
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