ラグビーリパブリック

【ラグリパWest】お兄ちゃん、桜のジャージー着てね♡。髙橋采絹・和花

2021.06.17

兄の髙橋汰地さんを激しく応援する妹たち。年長の采絹さん(左)と年少の和花さん(右)。抱き上げられているのは6人目の家族になった9か月の柴犬・鳴門くん。日本代表のジャージーを着せてもらっています。

 本人の偉業は家族にとっても幸せ。妹が2人いれば、華やかさが増します。

 姓は髙橋、名はたいち(汰地)。6月24日に25歳になるウイングは、初めて日本代表の合宿に呼ばれました。

 今回の代表はブリティシュ&アイリッシュ・ライオンズと史上初めて戦います。アイルランドと英3チームから選抜された『世界最強』との一戦は誕生日の2日後。アイルランド代表とは7月3日に対戦します。

 トヨタ自動車に所属するたいち君は、5月27日に追加召集を受けました。2歳下の妹のあやきさん(采絹)は振り返ります。
「家族のグループLINEで知りました」
 本人は照れくさそう。
<あのー、急きょ代表行くことになりました笑>
 母のまゆこさん(繭子)が真っ先に反応。
<まじー、おめでとう>
 スタンプばんばん。一般的に「女親にとって息子は彼氏」。うれしいはずです。

 あやきさんはかすかな予感がありました。
「やっぱり来たかー、と思いました」
 ただ、手放しで喜ぶのは、ケガで入れ替わった江見選手(サントリー)に悪いな、と感じています。
「申し訳ない気持ちです」
 社会人らしく他者を思いやる。あやきさんは、この春から建築系の積水ハウスリフォームで働いています。

 のどかさん(和花)は表現力豊か。たいち君とは6歳違いの妹です。
「ほっほっほっと、犬みたいにベロ出してよろこびました。めっちゃうれしい。だってなあ、ラグビーやってた友達がいて、すごい、すごい、とほめてくれたもん」

 下の妹なのに、感じは姉。
「日本代表のインスタなんかを見たら、お兄ちゃんが代表の練習着を着て走ってた。有名な選手に囲まれてる。みんなに可愛がられているんやろなあ、と思った」
 のどかさんは大阪成蹊短大の1年生。観光を勉強しています。

 あやきさんは龍谷大の4年間、ラグビー部でした。トレーナーをしました。
「会社にいる父の伏見の後輩の方からもおめでとう、と言ってもらえました」
 一家の大黒柱のこうじさん(晃仁)は、いまは京都工学院と名前を変えた伏見工のOB。高校日本代表候補の肩書で神戸製鋼に入社、公式戦44試合に出場しました。ポジションは同じウイング。その父は息子の進化を認めます。

「あれは息子ながらすごいと思いました。内に切ったら、ウイングの習性的にもう1回内に切る。でも、たいちは外に出ました」

 父が思い出すのは、パナソニック戦での3人かわしのトライです。福岡選手を前に瞬間に内へ切れ込む。トップリーグMVPに輝き、医師の道に進むトイメンを置き去り。外へ向きを変え、ライリー選手を弾き飛ばし、野口選手のタックルも振りほどきました。

 大外にいるウイングへのディフェンスは内から来るので、内に切り続ければ楽。しかし、最後はあふれ出る防御に捕まる。逆に外へ出られれば、届きにくい。父の目には社会人3年目の進歩として映りました。

 たいち君はこの前半16分とさらにその7分前と合わせて2トライを記録。21−48とプレーオフの準決勝敗退の中、ウイングとして一番大切な決定力を見せつけました。



 その成長は妹たちにも分かります。たいち君が豊田から、神戸にある実家に最後に戻ってきたのは、昨年の秋でした。
 のどかさんは言います。
「また腕が太くなって、デカっ、て思った」
 あやきさんも賛成します。
「うん、そんな気はした」
 180センチ、91キロのサイズは明治大時代と同じですが、その質は良化しています。

 一時帰宅の理由は、6人目の家族との対面。柴犬のなると(=鳴門、牡、9か月)が加わりました。名づけたのどかさんは話します。
「犬を飼ったら、たいち、帰って来るんちゃう、ってお母さんに言ったら、珍しく乗ってきた。それやったら飼ってもいいなあ、って」
 まんまと家族の思惑通り。名前は、鳴門の渦潮を見に行った帰りにもらってきたので、そうなりました。

 たいち君は6月12日、サンウルブズとして、日本代表と対戦。17−32と勝つことはできませんでしたが、右ウイングで先発し、フル出場しました。週末が仕事のあやきさん以外の3人は現地・静岡で応援しました。

 日本代表の先発はファンデンヒーファー選手(クボタ)とレメキ選手(宗像サニックス)。同じウイングができるマシレワ選手やフィフィタ選手の近鉄勢も代表に名を連ねています。ここからがいよいよ正念場です。

「俺もバーバリアンズとやってんけど…」
 こうじさんは言います。今から30年前の6月5日、その前年に起こった阪神淡路大震災のチャリティーマッチとして、バーバリアンズが来日。神戸製鋼は63−43でこのイングランド発祥で国際試合時に組まれるチームに勝利しました。まあでも、ちょっとたいち君の方が上かな…。

「日本代表のジャージーを着ているところを見られたら、幸せやな」
 のどかさんの言葉を受け、あやきさんも言います。
「ケガなく、楽しくやってほしい」
 2人の祈りを受け、6月16日、たいち君を含む日本代表36人は、戦いの地となるスコットランドに向け、離日しました。