ラグビーリパブリック

現役引退の五郎丸は、ヤマハが新設するプロクラブの経営サイドへ。「ここでしかできないことがある」

2021.06.15

6月14日、静岡県内で引退会見に臨む五郎丸歩(©ヤマハ発動機ジュビロ)

 五郎丸はこれからもラグビーに、そして静岡に貢献する道を選んだ。

 トップリーグ2021を最後に、現役生活から退くことを表明していたヤマハ発動機ジュビロのFB五郎丸歩が6月14日、静岡県内で引退会見を開いた。今後はヤマハ発動機株式会社が新リーグに向けて新設するプロクラブで、クラブ経営に携わる。

 五郎丸は会見冒頭で「進退の正式な発表ができるまで、ヤマハ発動機ジュビロとしての最終戦から1か月半をいただいた」と説明した。

 ヤマハ発動機は4月26日、トップリーグ2021のプレーオフトーナメント2回戦でクボタスピアーズに敗れた。その試合のメンバー表に五郎丸の名前はなく、最後の試合は観客席で見守った。それでも試合までの1週間は「13年間お世話になったので、自分が出る出ない関係なく、全力で自分らしくトレーニングできた」と話した。

 一部報道では日本代表戦にサンウルブズの一員として出場する可能性も報じられたが、「現役として去る人間ですから。2023年W杯に向けた強化の一環ということで、私が出場するに値しない試合だった」とキッパリ言った。

 そして五郎丸は現役生活を終えて、「スッキリした気持ちです。後悔は一つもない」と表情穏やかに語る。
「最終戦に立てず、自分のプレーを見せることなく引退という形になりました。ただこれも自分の人生ですし、プロの厳しさというものなのかなと感じています。出られなかった悔しさは次のステージへの最大の活力としてやっていきたい」

 7月からは、ヤマハ発動機株式会社が新リーグ参入に向けて新たに設立するプロクラブで、クラブ経営の仕事を始める。
「新社長の山谷(拓志)さんとお話をさせていただく中で、このクラブの魅力をあらためて感じた。またこのクラブでしかできないことが必ずあると感じた。そうした可能性を叶えてくれるだけの環境が静岡県にはあると確信している。そこでマネジメントサイドで活躍したいと思った」

 海外のクラブ(SRレッズ、TOP14トゥーロン)でのプレーを経験し、企業色の強い日本のクラブとの差を肌で感じたのも大きかった。サンウルブズも例に出し、「サンウルブズは企業名もついていないし、みんなが応援したくなるチームだった。企業色が強いラグビーはファンになりにくいと感じている。新リーグに参戦するにあたって、(ヤマハ新設のクラブが)プロクラブの新たな道を作る先駆者になる。その一員としてともに成長したい思いが強かった」

 現役引退後の進路は指導者かマネジメントかで悩み、経営サイドで生きることを決めた。子どもたちへのラグビーの普及活動はこれからも続けていくが、指導者として教えることはないという。

 具体的な役職は7月上旬にあらためて説明する予定。だが「新社長の方からは、チケットの企画などのベースの部分からスタートしようと。しっかり実力を積んで経営を学んでほしいと言われました」と話す。

 五郎丸自身も「最終的にはここの社長になれるような実力をつけていきたい」と意気込んだ。

(次ページへ続く)

引退会見前日には母校・佐賀工の激励にエコパへ。恩師である小城博総監督に進路を報告した(撮影:松本かおり)

 ヤマハ発動機株式会社が立ち上げる新会社の記者会見は、6月23日に予定されている。そこでは新チームの名称や2022年1月開幕の新リーグのホストエリアに関する説明がされる。

 登壇者予定者には新会社の社長に就任する山谷拓志 株式会社茨城ロボッツ・スポーツエンターテインメント代表取締役社長(6月30日退任予定)に加え、4月に一般社団法人化した静岡県ラグビー協会の星野明宏代表理事、静岡県の大石哲也スポーツ政策課長、ヤマハの堀川隆延GM兼監督らが名を連ねる。

 五郎丸は引退会見で「2019年のW杯など、県を挙げて全面的に協力していただいた。エコパをラグビーの聖地にしようという動きもあり、熱を持って取り組まれていることが、プロ化に向けた一番のサポートになっている。そういう魅力を出せるのはこの静岡だけ」と話していた。

 ラグビー熱を帯びる静岡では、五郎丸の引退会見前日にも「JUNE PRIDE」と銘打ち、静岡県協会の法人化を記念した招待試合(男女の佐賀工vs静岡県選抜と帝京大vs明大)が行われた。19、20日にはリージョナルウィメンズセブンズ2021関西大会も予定されている(慶大と東海大の招待試合、U19の合宿は中止に)。

 13日に記者会見を開いた星野代表理事は、こうしたイベントを3か月おきに開催する計画があると話した。「9月は(日本がアイルランドを倒した)シズオカ・ショックの日。それを思い出す日にする。12月もクリスマスあたりに何かやりたいなと。3月には(今年すでに開催された新設の女子セブンズ大会)『鈴与・セントパトリックグリーンカップ』を。イベントはただ消化していくのではなく、ストーリーを持ってやっていきたい」。

 12日にはエコパスタジアムで日本代表戦が行われたが、「愛野駅からエコパまでの動線、あの歩道をワクワクさせたい」とアイデアを語る。
「(協会の)理事に(漫画家の)くじらいいく子さんがいるので、あそこをくじらいいく子通りにしたいなとか。まだまだいろんなことができると思う。今は不便だと思われるかもしれないが、そこにストーリーを描きたい。ディズニーランド入ってすぐにメインのアトラクションあったらがっかりしますよね、そういう発想でいきたいなと」
 ラグビー聖地化の象徴として、エコパスタジアムのマネジメントにも本腰を入れていく。

 さらに星野代表理事は静岡県協会がハブ役を担って自治体、ヤマハ発動機、アザレア・スポーツクラブと四位一体でラグビー界の発展に取り組んでいくと語った。
 ヤマハ新設のプロクラブがその動きに拍車をかける。
 そこに五郎丸が加わるならなんとも心強い。