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【コラム】サニーズ・バック! 狼だからできた

2021.06.14

試合後のサンウルブズの面々。兄貴分の日本代表にとってもハッピーな存在だ(撮影:松本かおり)

「サンウルブズが試合をすることはもう多分ないだろうって、聞いていますけど、もしも、またこのジャージを着る機会があったら、アウォーンで応援、よろしくお願いします」

 試合直後にピッチからスタンドのファンに呼びかけた竹山晃暉が、喝采を浴びた。サンウルブズの一員として初めて戦ったゲーム、相手は日本代表だ。竹山は敗れたにも関わらず、笑顔だった。サンウルブズのジャージーを着た人も、そうでない人も、彼ららしくチャレンジした狼チームを名残惜しい思いでまた見送った。

 6月12日、日本代表が、同候補選手などで構成されたサンウルブズと強化試合を行った。静岡エコパスタジアムでのゲームは日本代表が32-17で勝利を収めた。

 今回の日本代表は、欧州遠征を見据え、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦、アイルランド戦のために編成されたもの。サンウルブズ戦は候補選手たちとのサバイバルでもあった。

 サンウルブズはかつてスーパーラグビーに参戦していた日本チームだ。出身国がばらばら、これまでプレーしてきたステージもさまざまだった選手の寄せ集めが、いつしか固い団結と連帯で結ばれた。2016年に結成され、2019年までの4シーズンを疾走。日本ラグビー界が初めて抱えるプロチームは、最後まで上位に入る目標を叶えられなかったが、時にドラマチックな試合で強豪を倒し、多くの新しいラグビーファンをつくった。

 同じく試合後のキャプテン、エド・カークは強化に与えられた期間を「すごく短い1週間」と表した。「いい選手たちと素晴らしい文化の中で過ごせた。大久保(直弥)ヘッドコーチが楽しい場を作ってくれた。感謝しています」

 試合は前半、ほぼサンウルブズが主導権を握ったまま進んだ。

 立ち位置は日本代表のレギュラー組vs挑戦者組だ。しかし、挑む側のサンウルブズの動きがいい。最初のスクラム、日本代表が反則を取られ、狼たちの雄叫びが上がる。19分のトライはSH荒井康植。日本代表候補に初選出の選手が、諦めずにキックのこぼれを追った先に、インゴールと絶好のバウンスが待っていた。前半39分には用意したムーブから竹山がやはり左インゴールへ飛び込んだ。祝福に群れる仲間たち。前半は3-14でチャレンジャーの元気が目を引いた。

 日本代表が初めてリードを奪ったのは後半25分。そこからは兄貴分の力を見せつけて32-17のスコアになったが、サンウルブズの覇気は印象に残った。日本代表が30-17に追いついた後のゴールキックの場面では、サンウルブズが横一線に並び全員でチャージにいった。この時も面々の顔には笑みが浮かんでいた。

 日本代表が苦んだ理由は心身の疲労と国代表のプレッシャーだろう。連日のハードトレーニングは代表合宿の入りから貫かれていた。「これまでで一番きつい練習」と漏らす選手もいた。日本代表のターゲットは2年後のW杯であり、目前の欧州遠征だ。ジャパンのプロセスはおそらくこの試合の出来も織り込まれて着々と進んでいる。

 見過ごしたくないのは見事に日本代表を苦しめ、不足のない相手役をつとめ上げたサンウルブズの仕事ぶりだ。

 今回の日本代表メンバーから漏れた候補選手たちは、1週前に分離しサンウルブズ合宿に入った。サンウルブズ側の選手は、日本代表の独特の緊張から抜けて、代わりに狼軍団の文化をするするとインストールした。

SH荒井が、合流時に温かく迎えてくれたサンウルブズのベテランたちに感謝する。

「コネクション、コネクション(連携)という言葉を繰り返し使っていた。キャプテンのカーキー(カーク)をはじめ、みんなが積極的にコミュニケーションを取りにきてくれた」

 ベン・ガンターは、このチームのほとんどのメンバーと同じくサンウルブズ「出身」のFL。「違う文化、違う言語。サニーズ(サンウルブズの愛称)ってチームでは、どこから来たのか、どのくらい長くいるかは問題ではありません」

 当初からサンウルブズメンバーとしてエントリーされた山沢拓也は、2019年のシーズンに途中招集で合流した経験がある。「あの時も同じく、準備、コネクションを大事にしていた。おかげでうまく馴染めた。そのいい文化が今も残っていた。ここでプレーした者同士はこれからも大事な仲間になる」

 楽しもう。このチームのリーダーたちが繰り返すエンジョイは特に意味が深い。選手たちのルーツ国は日本、NZ、オーストラリア、南アフリカ、トンガ、サモア、フィジー、ジョージア、韓国…。ともすればバラバラになりがちな背景の違い、準備期間の短さ、南ア行を含む厳しい移動、振り払えず帰りの機内にも流れ込む負け試合の重たい空気。次こそは勝つと意気込んだ時に限って、契約の切れ目からメンバーが入れ替わる、ケガが起きる。仕方ないことと悔やまれることがないまぜになって、ある時は開幕から黒星が九つ続いた。霜も降りるチーム始動から5月まで勝てないようなチームで、その時々のリーダーはコネクションをと、楽しもうじゃないかと、伝え続けてきた。

 2018年の開幕9連敗中、ゲームキャプテンを務めた選手の一人にピーター・ラブスカフニがいる。

 当時のコメントが記憶に残っている。「相手を大きい、小さいでとらえたことはありません。大切なのは自分が何をすべきか」「毎週、毎週、学んで、次の試合に生かすのみです」。連敗が明けた時、契約上の事情で本人はいなかった。チームの苦難で見せ続けた背中は長いトンネルの中のチームに間違いなく影響した。その姿を、当時から日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは知っていた。チームメートたちは見せつけられていた。ラブスカフニは2019W杯の本番、2試合でゲームキャプテンを務めている。

 人が試され、ジャパンを背負う人が育つこの場を失うのはやっぱり、惜しい。

「自分のような立場の選手にとっては、インターナショナルを知る貴重な機会。当時は大学生としてこのチームを見てきた。今回は、こういうチームがあったんだということを残せればいい」(竹山)

 静岡エコパに集まったラグビーファンは1万8434人。例えば「日本代表vs日本選抜」「日本代表vsエグザイルス」の対戦では、あのスタジアムの雰囲気も、選手たちの奮闘もなかっただろう。名前だけではなく、選手招集や、強化合宿中のルーティンを支えるスタッフ配置やノウハウを含めて、サンウルブズだったから、できた。

 スーパーラグビーでの復活など叶わないことと分かってはいるが、せめて、こうした強化試合で定期的に編成予算を取ることはできないか。選考漏れした選手を鼓舞し、献身的なファンに愛されて、日本代表の強化にも資するチームを、まだ日本ラグビーは持っていた。あの文化をまだ失くしてはいなかった。

 森に戻ったと思った狼たちの、変わらない姿をまた見てしまった私たち。できることは何もないか。文化を体現できる選手がいる今なら、まだ間に合うのではないか。

試合後のサンウルブズの面々。兄貴分の日本代表にとってもハッピーな存在だ(撮影:松本かおり)