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欧州最強クラブはトゥールーズかラ・ロシェルか? 今週末、トゥイッケナムで決勝

2021.05.21

チャンピオンズカップ準決勝の日、会場到着時にファンの熱い声援を受けるラ・ロシェル(Photo: Getty Images)


 ヨーロッパNo.1のラグビークラブを決めるハイネケン・チャンピオンズカップの決勝が、現地時間5月22日、イングランドのトゥイッケナムでおこなわれる。厳しい戦いを勝ち上がったのは、トゥールーズとラ・ロシェル。前日のチャレンジカップ決勝はモンペリエ対レスター。決勝進出4チーム中3チームがフランスのチームとなった。

 トゥールーズとラ・ロシェルは、いずれもひとりのオーナーが所有するのではなく、地元のさまざまな人々が出資して運営を支える、地域に根差したクラブという共通点がある。

 5月1日におこなわれたトゥールーズ対ボルドー・べグルの準決勝。トゥールーズのホームスタジアムであるスタッド・エルネスト・ワロンのバックスタンドには「MISSION EUROPE(ミッション・ヨーロッパ)」と大きく描かれていた。
 トゥールーズの今季のチャンピオンズカップのテーマは「宇宙探検」。大会用ジャージーも宇宙をイメージ、クラブのアンバサダーであり、現在ISSで任務に就いているフランス人宇宙飛行士のトマ・ペスケ氏とコラボしたデザインだ。ジャージーに入っている4つの星は、この大会での過去4度の優勝を表す。この大会のミッションは、「星を獲得せよ!」。5つ目の星を狙う。

 一方、1つ目の星を狙うラ・ロシェル。準決勝レンスター戦の日は、自宅から10km以内の日中の外出は認められていたが、6人以上の集会は禁止されていた。サポーターはクラブ初のチャンピオンズカップ準決勝を戦う選手たちに声援を送るために、スタジアム周辺に例外的に集まる許可を県庁に願い出たが認められず、クラブも「集まらないで」とSNSなどを通して呼びかけた。しかし試合会場であったホームスタジアムのスタッド・マルセル・デフランドルの入り口では、チームバスの到着を数千人のサポーターが待ち構えていた。

 ラ・ロシェルの街は、ラグビーチームのリズムに合わせて呼吸している。試合の日は街中がチームカラーの黄×黒になる。2016年1月から、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でリーグ戦が中断される直前の2020年2月まで、ホームでの試合は55試合連続満員御礼の記録を更新中。1万6千席のうち1万3500席は年間シートで、スタジアムに行くと知った顔に会える社交の場になっている。最近は近隣の県から来る人も増えており、年間シートが空くのを待っている人は千人近いという。

ラ・ロシェルの決勝進出に大きく貢献してきたスケルトン(左)とアルドリット(Photo: Getty Images)

 チームづくりも、トゥールーズ同様、若手の育成に力を入れ、プロの練習にエスポワールの選手を参加させ、より早くプロのレベルにフィットできる環境を作っている。その成功例が現在フランス代表で活躍しているNO8グレゴリー・アルドリットや、HOピエール・ブルガリットだ。
 また、派手ではないが的確なリクルートも功を奏している。2016年に元ニュージーランド代表FL/NO8ヴィクター・ヴィトが入団。経験や技術だけではなく、常に誰よりもハードワークする姿勢が、チームメイトの意識を引き上げた。
 タウェラ・カーバーローとイハイア・ウェストのマオリHBコンビもチームをテンポよくリードする。特にウェストの評価が急上昇、1月の時点では、今季で契約終了と報道されていたが、5月初めに1年延長されることが発表された。ロナン・オガーラHC(ヘッドコーチ)が「どんなに調子が悪い日でも10点満点で7点のパフォーマンスができるSOが2人ほしい」と言っていたが、その要求に応えられたのだろう。
 オガーラHCは「試合でポテンシャルの80%を出せる選手が15人中13人必要だ。10/10はあり得ない。9.9/10を出せるのはアルドリット、(ウィル)スケルトン、そしてトゥールーズの(アントワーヌ)デュポンだ」と言っている。

 元オーストラリア代表のLOスケルトンの存在も躍進に必要不可欠だった。今季サラセンズ(イングランド)からレンタルで移籍。ワラターズ(オーストラリア)でスーパーラグビー優勝、オーストラリア代表でザ・ラグビーチャンピオンシップ制覇、サラセンズではプレミアシップの栄冠に2度輝き、チャンピオンズカップでも1度優勝しており、パワーだけでなく、「勝つカルチャー」をチームに吹き込んだ。

 ほかには、FLウィアン・リーベンバーグ、WTBディリン・レイズ、WTBレイモンド・ルールがU20南アフリカ代表だった2012年にジュニア・ワールドチャンピオンシップで優勝している。レイズはトゥールーズのWTBチェズリン・コルビとストーマーズ(南アフリカ)でチームメイト。こちらのスプリングボックス対決も楽しみだ。

 フィジー代表でもあるCTBレヴァニ・ボティアはレンスター戦で足首を痛めて出場が危ぶまれているが、ブルドーザー並みの破壊力は何度も敵のディフェンスをこじ開けてきた。

 ラ・ロシェルのリクルートは外国人だけではない。今季、3年ぶりにフランス代表復帰を果たしたFBブリス・デュランは、移籍組のひとりだ。彼に声をかけたのが、以前ラシン92でコーチをしていたオガーラHCだった。
「ロナン(オガーラ)は、なんでもはっきり言ってくれるし、僕のどこをつつけば効果があるのかよくわかっている。しかもラ・ロシェルはどんどん強くなってきていて、ここで何か素晴らしいことができると思ったんだ」

 FLケヴィン・グルドンが以前のような勢いのあるパフォーマンスを見せるようになったのも今季のラ・ロシェルの強さだ。2016年にフランス代表デビュー、将来を期待されていたがいつしか選考外に。「バーンアウト」だったと本人は言う。昨年のロックダウンでラグビーができなくなったことで、再びスイッチが入った。「ケヴィンは数年前のシックスネーションズでベストプレーヤーだった。でも努力をしてこなかった。今、彼に残された3年(契約期間)で何かを成し遂げたいと思っている。そのためのプランを立てて、ようやくフィットしてきた」とオガーラHCは話している。

トゥールーズの人気選手であるデュポン(中央左)とコルビ(Photo: Getty Images)

 トゥールーズのユーゴ・モラHCは試合2日前の会見でラ・ロシェルについて質問され、「バランスのとれた、しっかりしたチーム作りがされている。フランスラグビーにとって良いことだ。うちとは違った魅力のあるチーム。僕もトゥールーズのコーチじゃなかったら、ラ・ロシェルのサポーターになっている」と言うほど高く評価している。

 長い時間をかけて着実に強化してきたラ・ロシェル。「選手たちが『もしかしたら勝てるかも』と言うのが耐えられなかった。『もしかしたら』ではなく、『勝つ』のだ。やっと、このメンタリティが変わってきた」とオガーラHC。機は熟したか。

 決勝はロンドンのトゥイッケナムで1万人の観客を入れておこなわれる。フランスから応援に行くには10日間の隔離期間が義務付けられているため、多くはテレビ観戦だ。チームの移動も厳しい。感染防止対策のため、渡航できるのは各チームとも選手30名+スタッフ20名+代表者2名に限られている。
 トゥールーズは、ここまで一緒に戦って負傷したヨアン・ユジェやソフィアンヌ・ギトゥーンヌ、また準決勝のボルドー戦でファウルプレーをし4試合出場停止になったジュリアン・マルシャンなど、試合に出ない選手も一緒に行って同じ時間を分かち合いたかったが、それも叶わなかった。

 両チームのロンドンへの出発時、現地まで応援に行けないサポーターが、見送りに集まっていた。トゥールーズは一緒にロンドンに行けない選手が、サポーターの先頭に立って旗を振ってトゥールーズ・コールの音頭をとっていた。
 トゥールーズにとっても11年ぶりのチャンピオンズカップ決勝進出で、サポーターも大いに楽しみにしている。当初はスタッド・エルネスト・ワロンや市内の中心部であるキャピトル広場に大型ビジョンの設置を計画していたが、サポーターが過度に集まることを危惧され許可が下りず断念。また、営業を再開したばかりのバーやレストランでの試合中継も禁止、決勝戦の日は試合が終わる19時で閉店するよう命じられている。

 コロナウイルスの影響で通常通りに運ばないことが多かった本大会だが、今季のヨーロッパチャンピオンにふさわしい2チームが決勝に残った。キックオフは日本時間23日(日)0時45分。ヨーロッパ最高峰の試合になるに違いない。

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