どう抜き去ったかと同時に、誰を抜き去ったかでも人の興味をそそった。
5月15日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。無観客で実施された国内トップリーグのプレーオフ準決勝にあって、トヨタ自動車の高橋汰地は2トライを刻む。タッチライン際のWTBへ入り、持ち場を走り切る。
圧巻だったのは、10点リードで迎えた前半16分の2本目だ。
敵陣22メートル線付近右で球を持った14番は、正面に立つ福岡堅樹を左から右へのステップでかわす。さらにディラン・ライリーを勢いよく蹴散らすと、足元を刈りに来た野口竜司にも負けずにインゴールへ飛び込む。躊躇と無縁に映った。
何よりここで振り切った3人は、現代日本ラグビー界の綺羅星である。
今季限りで引退する福岡は2019年まで日本代表の主軸で、ライリーと野口は自身が選ばれなかった2021年日本代表候補に加わっている。
初の日本代表入りを目指す高橋は、2023年のワールドカップ・フランス大会に向け態度を固めている。
「(2021年の日本代表候補に)選ばれている選手は対外国人に想定したメンバーなのかなと感じています。日本人選手にも、国際大会での試合経験がある。自分としては、プレースタイルを変えるのではなく貫いて、選ばざるを得ない活躍をすることが一番いいのかなと考えています。まだワールドカップメンバーが決まるわけじゃない。まずはひとつひとつの試合でベストを出す意識でいます」
この日は結局、21-48で敗戦。福岡にはハットトリックを決められた。高橋は「福岡選手とのマッチアップができたのは今後のラグビー人生でもいい経験。まだまだ及ばなかった証拠」と反省する。
「個人のミス、規律が守れないことがあった。チーム全員に悔しい思いがあります。それを次のシーズンにつなげ、個人としてももう何段階もレベルアップして、次のリーグ(2022年1月に新リーグが発足予定)でまた優勝を目指して頑張っていきたいです」
悔やまれるのは「細かい部分」。時間を追うごとに接点で圧をかけられたうえ、蹴り合いの際に弾道を追う反応が鈍ったと感じたようだ。特にキック合戦では、自軍が蹴ったボールを首尾よく扱われた。スペースへ蹴り返されたり、ランで穴を突かれたりした。
「自分も含めて、足が止まる選手もいたのかな」
ルール上、蹴った選手の前にいる選手はプレーに参加できない。ただし蹴った選手かそれよりも後ろにいる選手の後ろへ回れば、改めて動き出せる。
そのため、蹴った選手よりも後方にいることの多いWTBの選手は、「オンサイド」と叫びながら前方の選手を追い越す動きが求められる。
高橋は、その「プレーとしてはフォーカスされない」エリアに伸びしろを感じた。
「キックゲームでは相手の方が少し上手で。(自身がプレーする)WTBならもっと無駄走りではないですが、もっとチームをオンサイドにしてプレッシャーをかける(べきだった)。細かい部分でパナソニックの方が(際立っていた)」
今季はレギュラーシーズン7試合中5試合に出て、4トライをマーク。プレーオフでは全3戦に先発し、5トライを奪った。兵庫県ラグビースクール、常翔学園高、明大を経て2019年にトヨタ自動車の門をたたいた身長180センチ、体重91キロのランナーは、空中戦の競り合いでも光る。
部内では同期でLOの秋山大地ら若手が台頭しているとあり、「僕らの代で引っ張っていこうという思いがあります」と高橋。新時代を担うべく、実戦で得た財産を後輩とも共有したい。
「強い相手と試合をして得られること、試合ごとに見つかっている自分の課題…。これを新しくチームに合流する若い世代に還元できたらいいとも思っていて。あとは自分もトヨタ自動車の勢いを出すために、もっといいプレーがしたい」
ルーキーイヤーにあたる2020年1月からのシーズンは、リーグ不成立に終わっていた。そのため高橋は、今季も新人賞の選考対象となる。「一瞬、一瞬の判断、プレーの精度をさらに上げていきたいです」と早くも明日を見据える。