ラグビーリパブリック

パナソニックは「いつかチャンスが来ると信じていた」。トヨタ自動車を蹴り合いで制した。

2021.05.18

ボールをチェイスするパナソニックの福岡堅樹とトヨタのウィリー・ルルー(Photo: Getty Images)


 勝負がついた後のプレーに焦点が当たるのは、その人のタレント性と才能ゆえか。

 5月15日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。バックススタンドは色違いの椅子でデザインされた「HANAZONO」の文字が鮮明で、控え選手と首脳陣しか座らないメインスタンドからの歓声よりも場内アナウンスの音が響く。

 テレビやインターネットでファンとつながる国内トップリーグのプレーオフ準決勝にあって、翌日の紙面を飾る1人は福岡堅樹だった。

 今季限りで引退する現役の医大生がハイライトシーンを作ったのは、20点先行して迎えた後半37分。敵陣ゴールエリアまでの約60メートルもの道を、2019年のワールドカップ日本大会でも披露したスピードで駆け抜ける。直後のゴールキック成功で48-21としてまもなく、ノーサイドを迎えた。

 準々決勝でも10点リードしていた後半17分にトライの福岡は、この午後、開始早々に約90メートルを突っ切った一撃を含め計3度フィニッシュ。ただし、「トータルのパフォーマンスでは足りない部分もある」。ゲーム主将でFLの布巻峻介は、今度の80分をかように振り返る。

「前半から(相手は)タフにアタックしてくるとわかって挑んだんですが、それでも、苦しい時間があった。気持ちだけは切らさず、いつかチャンスが来るとだけ信じて、自分の仕事に集中しようと話した。すると、後半のメンバーが勢いを与えてくれて。…最後、点差は開きましたけど、前半、しっかりがまんして、後半、相手にプレッシャーを与えていく。そういうゲームプランを遂行できたかなと」

 序盤、パナソニックはしばしエンストを起こしていた。

 キックオフや接点での攻防で競り負けたり、反則を犯したりしたのをきっかけに、向こうの連続攻撃から5分、9分、16分と連続で失点。5-15とされた。前半21分にはワールドカップへ3大会連続で出たHOの堀江翔太をベンチから投じるも、後半7分の時点で20-21と接戦を強いられていた。

 その間、打つべき手は打っていた。

 特にFB、WTBでプレーした野口竜司は後方のスペースを衛星的に動き、蹴り合いで持てる技能を発揮する。

 前半10分頃には自陣10メートル線付近から、敵陣22メートル線付近右端にいた相手の手前でゴロのキックを弾ませる。その相手とは、南アフリカ代表FBのウィリー・ルルー。日本代表候補の25歳は、最後の砦同士の対戦で存在感を示した。

 野口は続く20分、自陣深い位置から駆け上がって同10メートル線付近右中間からハイパント。やがて敵陣で味方が堅陣を張り、向こうのミスを誘うやインサイドCTBのハドレー・パークスが左中間へ蹴って好機を広げる。

 かように野口は、多彩な足技を陣地の取り合いに活かした。目の前に隙間があればランも仕掛けた。チョイスが光った。

 好判断が試合を動かしたのは、27-21と逆転して迎えた後半22分頃だ。

 自陣22メートル線付近右へ先回りして相手のキックを捕球すると、迫る防御をひらりとかわすや低い球筋のキックを飛ばす。

 約20メートル先の捕球役へ野口自らがタックルを放ってからは、リザーブスタートだった面々がインパクトを与える。まずは接点でFLの福井翔大らがカウンターラック。左大外でFBの山沢拓也が蹴る。すると敵陣22メートル線付近左で、SHの小山大輝がジャッカルを決めた。

 度重なる攻守逆転は直接のスコアにこそつながらなかったが、直後のキック合戦でもパナソニックは向こうのエナジーを削る。かくして後半29分、敵陣10メートル線付近右でのラインアウトから小さくない穴をえぐり、福岡のこの日2つ目のトライで34-21と天秤を傾けた。

「どういうキックを蹴るかは特に決めてはいなかったですけど、キックを蹴った時のキックチェイスは皆で、意識しました。誰かが(1人でチェイスに)行くなら後ろの選手がカバーをしますし、ワンライン(横一列になって)で行くなら横とつながる…。コミュニケーションを取りながらチェイスをすることは、練習でも心がけました」

 こう語るのは布巻。蹴った先や自陣の深い位置で激しいタックルとジャッカルを連発していた。かたやトヨタ自動車は時間を追うごとに自陣での反則を増やしており、FLの古川聖人は、この午後自身が披露した好守に酔えなかった。

「結果として負けているので、満足できることはひとつもない。よりよいプレーヤーになるには、満足できることはひとつもない」

「メンバー交代があるなか、前半から出ていたメンバーに足が止まった部分があったかもしれませんし、後半から入ったメンバーの勢いが(相手と)違った印象もありました…。トヨタ自動車としては、もっとハードワークできた部分もある。甘さが出たのかなと思います」

 ノーサイド。パナソニックのコーチ席で観戦した元日本代表PRの相馬朋和コーチは、「ナイススクラム」。撮影係を務めた若手PRの藤井大喜と、こぶしを突き合わせる。控え組とともに準備したスクラムにも、手応えをつかんだのだろう。23日の決勝でも、集団としての賢さで白星を得たい。

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